とりあえずその服どうにかしたら?
暇なときに流し見していってください。
この物語はフィクションであり、登場人物や他の物事に関係性は一切ございません。
「いや…俺もわかんねぇけど?」
予期しない言葉が二人の耳に入り…思わず首を傾げてしまう。
「 「………はい?」 」
当然の反応だ。二人は目の前で正人が魔法を出していたのを目にしていたのだから。『わからない』という言葉がわからなかった。
シーナはぐわっと正人をにらみつけ、正人は肩を竦める。
「あり得ないでしょ!じゃああのバカでかい魔方陣はどう説明するのよ!」
「いや…だからわかんないんだって」
頭を掻きながら話す正人を見て怒りがこみあげてしまったのか、シーナふんっと不機嫌そうに顔を横に向けた。
(仕方ねぇじゃん、まじでどうやったかわかんねぇんだもん)
そう、正人は本当に自分がどうやって魔法を出したのかわかっていない。なんなら魔法を出した時の記憶が曖昧で本当に自分が魔法を出したのかさえも…はっきりとは覚えていない。
眉をひそめながら地面を見る正人を見て…ミアは顎に手を当てながら首を傾げる。
「ですが…本当にあの魔法は驚きました。あの時は何を考えていたんですか?」
わからないのならその答えを一緒に探そうと言葉を添えながらミアは提案する。正人も何を考えていたのかを思い出すために、顎に手を当てて目をつむっていた。シーナはミアの言葉を聞き、正人の反応を伺うようにそらしていた視線をチラチラ見ていた。
(確かに…それくらいならわかるかもしれないが…)
だがしかし、詳しいことは思い出せなかったが…視線を空に彷徨わせながら語る。
「ただ…あの時はシーナの真似をしていたと思う…」
「…真似、ですか?」
「どういうことよそれ」
ミアは不思議そうに聞き返し、シーナは怪訝な顔をしながら正人の方を見ていた。正人はその二人の表情を一切気にせず続けて話していた。
「簡単な話…シーナの反射魔法が間違いなんじゃないかって思ってな」
「…ぎくっ」
ミアの隣にいるシーナは正人のその言葉を聞き、思わず肩がピクリと動き、首を縮めてしまう。そう…自覚はあったのだ。自覚があってなお…魔法が出せた嬉しさが込み上げてシーナと正人の方へと振り向いてしまったのだ。シーナはぐぎぎという音を派出たてながらも、正人の話を最後まで聞いていた。
「アンチ魔法なら『反魔法』だとなって思ったからあとは成り行きで動作も真似して…って感じだから本当になんで魔法が出せたのかはわからないんだ」
「…なるほど、そういうことでしたか」
「悪かったわね!基礎魔法を失敗して!!」
「いや何で怒ってんのよ」
「怒ってないわよ!」
フンっと鼻を鳴らし、腕を組みなおし再度視線を逸らすシーナ。正人はそのシーナを見て肩を竦めるだけだったが、隣にいたミアが尚も首を傾げながら質問をしてきていた。
「ですが…あの時の正人さんの魔法…明らかに基礎魔法の威力ではありませんでした」
「…そうなの?」
ミアはコクリと頷き、隣にいたシーナに視線を飛ばすと眉をひくつかせながら口を開く。
「えぇ、あなたの魔法はまるで上級魔法だったわ。おまけにその者すんごくでかい魔方陣、どうなってるのよ」
「…なんでなんだ?」
「私達が聞きたいのよ!」
シーナは立ち上がりながら気持ち声を大きくしながら正人に言った。ふと我に返ったのか、言ったすぐに少し顔を赤らめて肩を竦める。そして…正人がシーナを庇った瞬間がフラッシュバックしてしまう。
勢いよく吹き飛ばされ四肢があらぬ方向へと曲がり、血がじんわりと広がっているあの感覚…シーナは目を瞑り、その光景を振り返るように…少し口ごもりながら…
「でも…ありがと。あなたのおかげで私達は生きてるし」
「私からも…本当にありがとうございます。正人さん」
「…あ、あぁっと…まぁ今生きてるしそんなにかしこまらなくてもいいよ」
少し気恥ずかしそうにしながら頭を掻く正人。それでも二人はこの正人という男に救ってもらったという事実は変わらない。いうなら…命の恩人という奴だ。そこからしばらくミアもシーナも謝罪と感謝を正人に伝えていた。正人が何を言っても止めないので二人の気が済むまでそれは続き…
「な、なんか俺が疲れたんだけど…」
「なんでよ!」
「す、すみません…」
ミアが本当に申し訳なさそうにするその姿を見て正人は妹である真希と重ねてしまい、肩を竦めてしまう。
「マジで大丈夫だから!俺も二人に助けてもらったんだし…な?もういいだろ?」
「は…はい…」
(ほんっと…妹に似てるなぁ。謝り方とか所作とか…)
昔の、敬語の使う前の真希。そして病気が発症してからの真希。そのどちらにも似ているのが…今目の前にいるミアという少女。本当にこれまたびっくりするくらい似ているので本人か確かめようとする正人だったが、困らせるだけだというのもなんとなくわかっていたのでひとまずこの疑問を心の中にしまっておく。
この気まずい雰囲気の中…正人は軽く咳払いをして別の話に切り替える。
「とりあえず、このダンジョンが出られるのか試さないとな」
自分たちが歩いてきた方向に視線を向ける。シーナのミアもその方向に視線を向けるが…シーナは右人差し指を顎に当てて天井を見上げながら…
「ん~多分出れるんじゃないかな。来たときは変な魔力に覆われて変な感じだったけど今はとんと消えたし…」
ミアもそれに同意し、頷いていた。
「そうですね。この階のダンジョンは私達が倒した敵だけなのかもしれません」
「なるほどな…んでさ、あいつ強すぎじゃなかったか?」
正人は片眉をあげながらシーナを見る。シーナは肩を竦めながらも…反論をしていた。
「わ、私だって知らなかったのよ!あなたを騙すつもりもなかったし…」
「まぁそれはわかってるけどさ…一番難易度の低いダンジョンって言ってたって言うから…なんかすまん。そんな顔で見ないでくれ」
ものすんごく泣きそうな顔をしていた。本当に。大泣きする一歩手前みたいな…シーナは涙をうるうると浮かべて、口を少し膨らませて。正人はスルーしようと思ったがその表情がずっと視界に入っているので出来ず、悪かったといいながらシーナをなだめる。
「許してくれる?」
「う…うん、なんでそんなに上目遣いなんだよ」
左手をグーにしながら顎に当て、くねくねと体を動かしながら言っていたシーナの姿に正人は若干…いやかなり引いていた。
だがこれもシーナなりの場の和ませ方なんだろうと正人は思っていた。
(まぁこいつバカではなさそうだし、いいか)
そう、シーナがバカではないということはわかっていた。基礎魔法を失敗した点を覗けば相当頭が切れる部類に入るだろうと直感的にわかっていた。
一通りの下りが終わり、シーナはよしっと言いながら立ち上がり、正人たちが歩いてきた入口の方に指をさしながら…
「んじゃ、私はダンジョン出れるか確かめてくるから、二人はここで待ってて!」
「う~い、頼んだ」
「気を付けてね…シーちゃん」
これもきっと、正人とミアを気遣っての行動なのだろう…といっても魔力切れを起こしていたシーナが一番元気なのも事実。
(あいつの体力どうなってんだよ…)
感心半分、恐怖半分の視線を流しながらシーナの背中を見送っていた。
少しの間…ミアと正人は沈黙が続いていたが気まずい雰囲気というのは全くなく、ミアは正人の方を見ず、前を向きながら語りだしていた。
「シーナは、優しくて頭がいいんですよ。自分も疲れているはずなのに…」
「あぁ、わかるよ」
正人も…ミアの方を見ずに口を開く。
「さっきのぶりっ子シーナも、気遣ってくれてるんだなって感じたよ」
シーナ自身も疲れているはずなのに…それを一切正人にもミアにも見せない立ち居振る舞い。正人はそんなものは容易に気づくことで、長年の付き合いがあるミアの事ならなおの事。だがその優しさは言及せずに受けとっておいた方がいいというのもわかっていた。
ミアは少し笑みを浮かべながら視線を天井に向ける。
「私以外にあんな表情で話すところを見るのは初めてだったので、シーナも正人さんの事認めてるんですよ」
「認める…ねぇ?…え、ぶりっ子シーナの方?」
「そっちじゃないですよ!」
「ハハハ…冗談だよ」
身を乗り出して怒るミアを見て両手を胸のあたりまで上げて左右に振る。ミアの言っていることは正人もわかっていた。語気が強いシーナはきっと、自分を強く見せるためのものだから。それとは違うけど…自分を偽ろうとするその姿はなんとなく…わかるし知っているから。
正人は少し地面を見ていたが、心配そうにミアが話しかけてきていた。
「…正人さん?大丈夫ですか?」
「あぁいや大丈夫だよ、ただ…ね」
「…ただ?」
どうしても…妹の事が頭から離れない。心配で心配でしょうがない。今すぐ帰らないといけないのに帰れない。どうしたらいいのかと、脳裏に何度も何度もよぎってしまう。
(このまま帰れないのか…)
そこから正人は数秒黙り込み、ミアも何かを察したのかそれ以上聞かなかった。
正直、怖い。数分前は死の淵を彷徨っていたし、魔法というのもいまいち理解していない。事実、正人は魔法を出したがその方法も何もわからない。生きてきて初めての感覚…恐怖という感情が正人の体全体を覆っていた。手が震え、それを手で握るように隠しても…震えてしまう。冷たい。今まで抱えたことのない感情がここにきて一気に込み上げてきていた。
「…大丈夫ですよ、正人さん」
「…っ!?」
冷たかった手が、一気に暖かくなるのを直で感じる。それもそのはず、先ほどまで隣で座っていたはずのミアが…今正人の目の前でしゃがみ込み、手を握っていたのだ。
優しく包み込むように…その温かい手に身を委ねそうになっていた。
「…落ち着きましたか?」
「あぁ…すまな―—」
「謝る必要はないですよ。人は何かの拍子でポロっと崩れてしまいます。これくらいしかできませんけど…」
少し頬を赤くしながら視線を逸らすミア。その表情を見て優しく笑みを零すしてしまう正人。
「ありがとう…もう大丈夫だ」
「…それならよかったです」
握っていた手を放し…そのタイミングで正人たちが歩いてきた通路の方からシーナの姿が見える。
「シーちゃん、どうだった?」
「大丈夫、もう出れるようになってたよ」
「ほんと!?よかった~」
「そんじゃ…行くか」
シーナの報告を聞き、ミアと正人はその場から立ち上がり、喜びをあらわにした。しかしシーナは怪訝な顔をしながら正人に話しかける。
「あんたはとりあえず…服をどうにかしたら?」
正人はそう言われて自分の服を眺めるように確認する。それはもうひどいもので胸から下腹部に大きく3本線が入っており、今にも破れそうになっていた。それだけならまだよかったのだが…部屋でよく着るパジャマというのも相まって、だらしない格好になっていた。
…案の定、びりっと破れて上半身裸になる正人。
「 「 「…あっ」 」 」
破れ落ちていくパジャマを見て3人はポカンと口を開けながら視線を合わせていた。