今…どうやって魔法だしたの?
暇なときに流し見していってください。
この物語はフィクションであり、登場人物や他の物事に関係性は一切ございません。
「……ヒッ…!?———」
ミアは思わず手で口を覆う。
それもそのはず…今目の前にいるのは得体のしれない敵に飛ばされ四肢があらぬ方向にひしゃげている正人の姿。
魔力、魔法が使えない正人…普通なら即死の攻撃のはずなのに、かろうじて息がある正人を見てミアは目を見開いていた。うつ伏せ状態で倒れているせいで傷は見えないが、じわーっと地面が赤く染められていくのを見て血の気を引くのと同時に、シーナに言っていた言葉を思い出した。
『立派な魔法使いになるんでしょ!?』
そうだ…立派な魔法使いになるんだ。だったら今すべきことは足を止めるんじゃない。生きていると分かったのならなおさら回復魔法を使い、正人を死なせないこと。
覆っていた手をどかし、正人の体を仰向けにする。
「……っ!?」
そこで初めて、正人が負った傷を目の当たりにする。
(この攻撃で生きてるって…生命力が桁違い…)
正人の胸から下腹部にかけて3本線の入っている大きな傷。ふとした瞬間に臓物が飛び出しそうになっているその姿に…ミアは思わず息を呑みこんだ。驚きのあまり…というのももちろんあるが、一番は回復魔法が成功できるのかという不安。魔法学園にいたころは擦り傷や打撲などの怪我を回復していた。しかし…ここまで大きな怪我となると話は変わってくる。失敗してしまったらと思うと手はおのずと固まり、動かなくなってしまう。
(大丈夫…できる…シーちゃんが今頑張ってるんだから!)
心の中で覚悟を決め、両手を正人の腹部の上に翳し緑の魔方陣を展開する。
「…全ての源よ、傷を癒してください」
基礎魔法回復の詠唱をし、掌から緑の雫のようなものがポタっと正人の腹部に垂れると段々とその傷が癒えていくのが分かった。まるで正人の体が巻き戻されていくように…飛び出ていた血がスーッと戻っていき、数秒も経てば3本線の入った傷は完全に感知し、服だけがその跡を残していた。
「…成功…した?」
ヒュー…ヒュー…と鳴っていた息は、次第にゆっくりとなり、今は完全に眠っている人の寝息のようなものへと変わっていた。
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真っ暗闇の中…一縷の希望のように差し込む光を掴むように手を伸ばす正人。
その差し込む光はまるで、女神が降り注ぐような感覚…掴むように手を伸ばし、うっすらと目を開けてその姿を視界にとらえて咄嗟に呟いてしまう。
「…真希…?」
白髪で、真っ赤な瞳。かつてお兄ちゃんと呼んでいた真希の姿を思い出す。
そして…その光が段々と強くなり…じんわりと感じていた血がなくなっていくのを感じた。
正人は人間としては完璧な程の知能を持っている。
それはこの一連の出来事でも明らかで…魔力も魔法も使えないただの一般人が攻撃をもろにくらってしまえば即死もあり得る。だが正人はその攻撃をくらってもなお、臓物を飛び出さないように、体に酸素を回すことに注力をした。攻撃をくらい壁に激突した瞬間にそれを瞬時に行動する正人は明らかに人間離れしている。
一分一秒を争う世界で戦ってきた正人…そしてそれはこの魔法の世界にも当てはめることは可能なのだ。
…だからこそ…
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「あ…」
ゆっくりと目を開き、その視界に映りこむのは起きたことに気づいたミアの顔だった。涙を浮かべ、よかった、よかったと何度もつぶやくミア。
だがこの時、正人は「夢じゃないんだと」と理解する。心のどこかでまだ夢じゃないのかと思っていた正人。あのいつもの日常…妹の看病をし、毎日ゲームをしていたあの日常…だがもう、その日常は戻ってこないのだと、今この瞬間に…理解した。
「よかったです…本当に…よかった…」
「あぁ…え~っと、泣きすぎじゃないか?」
「だって…!もう手遅れだと…」
涙を拭い、嗚咽するその姿を見てやはり『妹に似ている』とも思ってしまう。
正人は体を起こしながら頭をポリポリと掻き、少し気まずそうにする。涙を拭い終わったミアはそのまま疑問を問いかける。
「あなたって本当に…何者なんですか」
「……何者…か」
何者…それは正人自身も知りたいことだ。自分は今何者で、何ができるのか。漫画やアニメの主人公なら…ここですっとぼけたり「ハハハ」とか言ってごまかしてたりしてただろう。
でも…今この男がわかることは自分が『久遠 正人』ということだけ。これは変わりようのない事実で、きっとこの先も変わらない。
正人はじっとミアの顔を見つめ…口を開こうとした直後————ハッと思い出したミアは慌てて立ち上がりながらシーナの方に指をさす。
「正人さん!シーナさんを…シーちゃんを助けてください!」
何を言っているのだろうか。魔法も使えないと知っておきながら…いったい何を言っているのだろうと…とっさに思ってしまった。なんとなく…この人ならできるのではないかと感じていた。シーナを助ける時のあの速さ…あれは魔法が使えない人間が出していい速度ではなかった。そして極め付きはあの生命力。やはり何度思い返しても生きているのが奇跡の傷跡を見て…この人なら何かできるかもしれないと…そう感じてしまったのだ。なんの…確証もないのに…。
だがしかし言ってしまえばもうその言葉を取り消すことはできない。ミアは肩を竦めながら視線をあちこちに飛ばす。
(…あぁ、そうだよな…親友があんな状態になってるんだから当然だ)
魔法は使えるけど回復魔法専門のミア…何もできない正人。うん何でこっちに助けを求めたんだろうな。おかしいな。こっちだって助けてほしいな。…とそんな思考をしているうちにはもう…体が勝手に動こうとしていた。
ミアの肩に手を置き、助けてくれたことに感謝を伝えながら…「任せろ」と言い、シーナの元へと向かった。
その後ろ姿を見てミアは何かを思い出したかのように目を見開き、聞こえないであろう声量で思わず口を開いていた。
「…お兄ちゃん」
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「…大魔法、爆炎の炎皇」
シーナは地面に片膝をつけ、両の手を地面に翳しながら詠唱すると…白の魔方陣に赤の縁取りの魔方陣ではなく、全てが赤色の魔方陣が展開し、じわ~っとその熱が両の掌に伝わってきていた。
「…あっつ~!?」
シーナは涙を浮かべながら思わず口にするが、大魔法が発動したという事実だけが嬉しかった。基礎魔法しか習ったことがないシーナ。それではなぜ大魔法を唱えているのか…その理由は簡単で、魔導書で書いてある大魔法を詠唱していたからだ。習ってもいないのだから当然その魔法は失敗してもおかしくない…だがシーナの頭脳からしたら発動自体はどうってことはない。問題はここからなのだ…
(ここまではいいけど、この先を失敗したら意味がないわよ)
そう心の中でつぶやき、瞳に涙を浮かべながら前を向く。
…爪を立て、口の中に炎を溜めたドラゴンに似た何かがシーナの元へと勢いよく接近するのを確認し、シーナは今持てる全ての魔力を真っ赤な魔方陣に注いだ。
ジュワアァァァアアアと熱の温度が急激に上がり、今にも手を離しそうになるシーナだが…それを我慢してザッと立ち上がりながらその魔方陣を向ける。
爪を立ちながらドラゴンはシーナの頭上に向けてそれを振り下ろしながら、口から溜めていた炎を吐き出すモーションに入っていた。
シーナはその敵を見ながらキリッとした表情を浮かべながら大魔法を発動させる。
「…くらいなさ―—」
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(さ~ってどうする、走ったはいいが俺に一体何ができる)
正人は走り出してすぐ自分が何をできるのか…頭をフル回転させて思考していた。
(このダンジョンの構造…もっと言うなら俺達だいる場所は四角い部屋のような場所で一つの辺の真ん中から一本の道が四つあるという感じか)
正人はプロゲーマーで培ってきたマップの理解度を活かし、瞬時にこのダンジョンの構想を頭に叩き込んでいた。近道できるようなものはない…シーナは基礎魔法ではない何かを発動しようとしているが、爪と炎の攻撃…どちらかは確実に当たってしまう。それはきっとシーナ自身も理解しているだろう。
(考えれば考えるだけ何ができるかわかんなくなってきたな)
だがしかし…ミアにあんなことを言っては後に引けない。妹に意地を見せる兄のような感情を持っていた正人はそのことに反省しつつも…シーナを庇う前に発動していた『反射魔法』を思い出していた。
(反射魔法って普通反魔法なんじゃねぇのか?)
あの攻撃は確実に基礎魔法だとしても威力が低いというのは正人自身気づいていた。魔法を出すということは詠唱を完璧に唱えなければその効果を発揮しない。
…となれば、自ずと答えは出てくる―—のだが。
「果たしてできるのか?俺に…いや、もう考えても仕方がねぇ!」
シーナの背中に手を伸ばせば届く距離という所までたどり着いてしまってはもう後戻りはできない。
(思い出せ…シーナが魔法を発動していた動作を…)
ズザーっと足を滑らせるように近づき、両手を前に出しながら…
「…くらいなさ―—」
「シーナ!もっと腕上げろ!」
「正人!?どうしてここに…」
シーナは目を見開き、驚いた様子で正人の方を見ていったが、今この段階で何を言っても無駄だと思ったシーナは正人の言う通りに腕を少し上にあげた。
(口から出ている炎に魔法をぶつけろってのはわかったけど…あなたはどうやっ―—)
「……あっっっつ!?」
得体のしれない敵は勢いよく口から真っ赤な魔方陣にめがけて炎を出し、それに対抗するべく力を入れる。シーナの出している大魔法は…大魔法とは言えない程の威力の魔法だったがそれでも今敵のブレスから守れているのは事実。
(やっぱ失敗してたわね…だけどこの炎を止めさえすれば…正人が何とか…でもこれ以上はもう…)
両足が徐々に後ろに行っているのがわかり、正人に懇願するように…
「…くっ…正人…早く!」
「あぁ…わーってる!」
正人の心の中ではもう覚悟は決まっていた。もしここで失敗したとしてもシーナに腕を上げさせたことで咄嗟に手を回して後ろに投げるという準備も。だが魔法の発動に成功してほしいという淡い期待を抱きながら…得体のしれない敵の顔にめがけて両手を向けて詠唱をする。
「…反魔法!」
正人がそう発した直後…シーナの何倍もデカい青い魔方陣が展開され…その魔方陣からバチバチっという黒い火花が立ち上がり、得体のしれない敵は勢いよく吹き飛ばされる。
「えっ…正人…あなた―—」
「まだだ!まだ死んでねぇ!」
正人は叫ぶようにシーナにいうと、ハッと飛ばされた敵の方に視線を向ける。飛ばされただけで敵はまだ死んでいない。そしてこれは…正人がシーナに対してとどめを刺せという合図を正確に読み取っていた。
ドサーッと地面をこすりながら飛ばされている背を追うようにシーナは走り出し…
「これで…終わりよ!ファイヤーエンブレム!」
右手を前に出し、白い魔方陣に赤い縁取りの魔方陣が出現し勢いよく炎が放出される。その敵全体を巻き込むほどの強く赤い炎…ドラゴンのような得体のしれないものはやがてチリとなり消えていった。
シーナはそのチリになって消えていく敵を見ながら安心したのか、魔力が切れたのか…両ひざが地面についていた。
正人とミアはシーナに駆け寄る。
「シーちゃん!やった!勝ったよ!」
「えぇ…そうね」
ミアはすわりこんでいるシーナの前に行き、すぐに回復魔法を使用していた。
「あれがお前の得意な魔法か?」
「そうよ。」
「最初から出せよそれ」
「うるさいわね」
正人はシーナにジト目を向け、シーナはフンっと鼻を鳴らす。ミアは回復魔法が終わるや否や、首を傾げながら正人に質問をしていた。
「正人さんはどうやって魔法を出したのですか?」
「ほんとよ!魔法が使えるならあんたも最初から使いなさいよ!」
それに続くように…シーナも指をさしながら怪訝な表情を向ける。
二人の問いかけに正人は腕を組み、首を傾げながら…
「いや…俺もわかんねぇけど?」
「 「………はい?」 」
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