暗闇の世界
暇なときに流し見していってください。
この物語はフィクションであり、登場人物や他の物事に関係性は一切ございません。
プロゲーマーとして日本一を取った『久遠 正人』。妹の額にタオルを乗せたすぐ、自分の部屋へと戻り就寝する。
大会で疲れた体を癒すように…妹の様態を心配し次の行動考えながら。だけどどこか…疲れきった様子で深い…とても深い眠りにつく。
ふと、目を開けると…真っ暗闇の場所へと来ていた。
「なんだ?…ここは…」
本当に何も無く、ただ…暗い。壁を探そうとする正人だが、そこに壁はなく。まるで宇宙のような、果てしなく続く暗い闇の中足を進める。
「夢…か?あんま夢とか見た事なかったけど…やっぱ大会の疲れってやつなのかな」
顎に手を当て、そう独り言つ。
「にしても、なんであんなこと言ったんだろうな。」
正人が次に言葉を漏らした時には、チームメイトに言っていた言葉だった。
『お前らと世界大会行けてよかった』
普通に考えれば、別に何も考えることなくふつうの…チームメイト思いの良い奴、と思われるだろう。
だが当の本人、正人は今まで感謝は伝えていたともの…こうやって感情の赴くままに話したことはなかったので咄嗟に考えてしまっていたのだ。
何度も…何度も…繰り返していくうちに体が羞恥を覚え、口の端をピクリと引くつかせる。
(はっず…マジで何言ってんだよ俺)
女性に向けて自分の思いを告げているのならまだ分かる。だが野郎二人に向けて、なおかつ今までそういうことを言ってこなかったくせに…何を今更と肩を竦める。
「はぁ〜…まぁ幸い通話はすぐ抜けたし、あいつらも明日になったら忘れてんだろ。」
溜息を吐きながらポツポツと言う正人。
…と言ってもすぐ抜けたではなく、逃げたが正しいんだけど、当の本人はそんなこと気付かないふりをしていた。
ただ暗い闇を、独り言の呟きが周囲を響かせている。
「ちょっと待て?これほんとに夢なのか?」
一通り考えていたことが終わったのか…ハッという声と共に咄嗟に顔を上げる。
夢にしては妙にリアル…視覚も、聴覚も嗅覚も…五感がハッキリとしているのがわかった。
「まさか…な」
有り得ねぇだろという言葉を呟きながら頭を搔く。されど時間が過ぎていくと共に段々とそれは確信へと変わっていく。
「もしこれが夢じゃないのだとしたら…ここは一体どこだ?」
目を覚ました時と同様、周囲を見渡す。だが…いくら見渡したところで変わらない。ただ真っ暗な闇が続いていただけだった。
脳をフル回転させ、自分が今どういう状況なのかを理解しようとしたその時…
コツ…コツ…という音と共に低い声と高い声が混じったような。まるでは変声機を使って話しているような声が聞こえ、咄嗟に正人振り返っていた。
「お前は人間界では出来すぎた人間だ」
「誰だ!?」
言葉を飛ばすが当然、返ってこない。そのコツコツと鳴り響く足音は次第に自分のすぐ側にまで聞こえ…ピタリとその足音はなり止む。
内心驚きながらも、その得体の知れない声に翻す様子もなく、ただその状況を理解して口を開く正人。
「夢じゃねぇんだな?」
声のトーンが少し下がっていたのが自分でもわかる。暗闇の地面を少し眺め…正人はそのまま声のした方向えと振り返る。
「夢…というのも抽象的だが、まぁいいだろう」
「よくねぇよ、別に驚かねぇってわけじゃねえけど…とりあえず自己紹介だろ」
肩をすくめるわけでも、眉を顰めるわけでも、ひくつかせる訳でもない。ただ真っ当に向けられるその暗い青色の瞳は黒い前髪から睨むように向けられていた。
「自己紹介か…した所でお前の記憶には残らないし、意味が無いから省かせて頂く」
「は?」
片眉をあげる正人に対し、真っ黒いコート、そしてフードを被っている『何者』。
暗闇の中から自分たちだけを照らしている謎の白い光。
(漫画とかアニメとかでよくある転生前のなんやかんやってやつじゃね?)
そう思考するや否や、それを見透かしたような声が正人の耳に届く。
「気づいているのだろう?だが確証は持てないといった感じか…」
「何を企んでる」
「企んでるってわけじゃないさ、言っただろう?お前はこの人間界において出来すぎた…完璧な人間なんだよ」
「完璧な人間なんていね──」
「いるだよなぁ…それが…」
思わず正人の目もぱちくりしてしまう。先程まで高圧的で敵意剥き出しだったその声は、まるで友人に話すかのように、気の抜けた声に変わっていたからだ。
正人とて友達がいないわけじゃない。人間関係も必要というのは重々承知している訳で…かと言って世間一般的に言う陽キャという部類ではない。何気ない友達との会話を思い出し、少し戸惑いながら聞き返す。
「いるって…どういうことだよ?」
「お前のことを言ってるんだよ」
「……はい?」
「なんか調子狂うなぁ…」
「狂うって…それはこっちのセリフなんだけどな?目を覚ましたら暗闇でいきなり話しかけられたと思ったら…」
淡々と語られる事実を聞き、そのフードを被っていた何者かは手でバザッとフードから顔を出した。顔は正人と変わらない年齢の顔…青少年といったような顔立ちで肌はこれまた一段と白く、目は金色のキラキラとした目。髪は白く、青いメッシュのようなものが白色の髪から出ていた。
傍から見てもわかる、「もういいや」と言わんばかりの立ち居振る舞いをして…
「もういいや」
「言うんかい」
すぐツッコむ正人であった。いや別に言わなくても良かったけどね?なんか向こうがしんみりとした様子を出さないのであればいいかと思ってしまっていた。そしてため息混じりに話をしだす白髪の青メッシュ。
「取り繕うのはやめだよやめやめ。」
(最初からそれで良かったくね?)
今度は口から出すことなく心に留めておく正人…
「どうせ記憶もなくなるんだし…ちゃっちゃと本題に入りましょうかね〜」
白髪の青メッシュは両手を肩の位置にあげ、顔を左右に振りながらやれやれと言った様子で話し出していた。
「信じないと思うからいいんだけど…俺のいる世界は魔法を使った世界なんだ」
「うん」
「んで、俺の魔法は1人だけ転生させるっていうものがあるんだよね〜…まぁほかの魔法も使えるんだけど」
「それで?」
「…?まぁ普通に魔法の世界に入れても問題なさそうな君に決めたって訳」
「…それだけ?」
「そうだよ?あぁ…もしかしてなんで飛ばすのかって話?それは悪いけど言えないな〜」
顎を少しあげながら高々と話す白青メッシュ。そしてそれを怪訝な顔で見ていた正人はすぐに理解する。
「俺が記憶を消してその世界に行くからか?」
「うん、そだよー?」
そう言いながら2、3歩歩き近づいたところでニコッと笑みを浮かべながら手を前に出して再度口を開く。
「今から俺の問いにyesかYESで答えてね?」
「普通に無理だけど。妹いるし、妹おいてどっか行く気ないけど」
そう発した直後…ニコッと浮かべた表情に、少し目元に影がつき、そのまま鈍い音と一緒に正人はドサッと地面に倒れ込む。
当然だ。いくら完璧な人間の正人であっても人間では無い何者かを…ましてや魔法が使えるものに対して防御策など持ち合わせていない。精々正人にできることは『人間の範疇で出来ること』。
しかし、この男は確信していたのだ。この男が魔法の世界に入ることで、その全てが覆すと…
「拒否権なんてないんだけど…妹さんに関しては、少しの辛抱だね。でもまぁ名前だけは教えてあげるよ。俺の名前は『アナザー』いずれ君と──」
そしてその次に目を覚ませば、そこは細い路地裏で、暗い闇の中で話した内容など一切忘れた様子でぽかんと口を開けながらも、理解し難い状況で頭を抱えながら…
「なんじゃこりゃーーーーーー!!??」
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懇願するように…そして…目を瞑り、肩と口を震わせながら。
「誰か……助けて…」
そのシーナの言葉が動かしたものなのか…それとも発す前に動いていたのか分からない。だがこの時も…助けられてしまった。
ガキィィンッ!という金属音のようなものに瞑っていた目を開けると…そこには幼い頃から苦楽を共にする親友の姿があった。
「…ミア!?…どうして…」
ミアはシーナの前に立ち、駆り立てた三本の鋭い爪を、白い魔法陣に縁どりが緑の、ザ・回復といった感じの魔法陣を前に発動させ、そのドラゴンのような得体の知れない攻撃を受けてピキっとひび割れていた。
「くっ…シー…ちゃん!この魔法陣が壊れる前に…私はこの場所を離れて正人さんの所に向かうけど…」
「どうして…ミアが…私を…」
シーナはまだ理解ができなかった。回復魔法しか使っているところを見たことがないのに。どうして防御魔法を出して私の前に立っているのかと。かつて守ると決めた親友に守るどころか守られてしまっているその状況に。理解が追いつかなかった。しかし…その思考を遮るかのように…
「シーちゃん!私と…立派な魔法使いになるんでしょ!?」
「……っ!?」
その言葉を聞いてハッと意識が戻される。
「ごめんミア!…ありがとう」
両膝が地面につき、拳を握りながらも…ミアに叩き起されたことで先程まであった絶望が消えていた。
ザッと立ち上がり、眉をキリッとさせながらミアを見る。
「うん、いつものシーちゃんだね」
「ここは私に任せてあなたは正人を何とかしなさい!」
ミアはシーナの言葉を聞いてこくりと頷き、その場を離れながら倒れている正人へと駆け寄る。
それとほぼ同時にミアの魔法陣はパリンッと破壊され、その鋭い爪で振りかざされた攻撃をジャンプして避ける。
ズザーっという音を立てながら体制を整えるシーナ。
(しっかし、ここからどうしたものか…)
ミアに対してここは私にとか言った反面、何とかしないといけないんだけど…という思考とともに、かつて昔に約束をした立派な魔法使い…という言葉を思い出し、恐怖を噛み殺した深い、目元に影ができる程に邪悪な笑みを浮かべて…
「よっくも私の晴れ舞台を汚したわねぇ?覚悟しなさい!」
そう言いながら右手を前に出し、魔法を発動していた。ドラゴンなようなものは羽をパタつかせ、一気にシーナの元へと接近しだしていた。
お前のことなんて知ったことかと言わんばかりに迫ってくるドラゴンのような得体の知れない敵。それをみて「やっぱ無理かも…」と思いながらも魔法を詠唱するが…
「うわぁ…っと」
振りかざされる鋭い爪の攻撃、炎を口にためてそれを放出するドラゴンの攻撃を避けることしか出来なかった。
(詠唱が遅いせいね…基礎魔法で倒せないってなるといよいよやばいんだけど…)
その思考は正しかった。詠唱をしている最中に攻撃がされるとなると…変身シーンにあるお決まりの暗黙ルール『変身中に邪魔をしてはならない』というのはこの世界では通用しないのだ。まぁそんな事もシーナやミアは知らないのだけど…。
要するに、魔法を詠唱している最中に攻撃をされるということはそれ程自分の魔法の詠唱は遅いということになる。そしてそれは基礎魔法では当たり前の詠唱なのでそれ以上のこともできないシーナにとってこの上なく絶望を感じさせるのには十分すぎた。
(かと言って…ミアにあんなこと言ったし逃げるつもりもないけどね!)
絶望感を感じても、先程までのものではなかった。それをシーナ自身も感じたのか、恐怖を打ち負かすように右手を胸の前にだし、左手を高々と広げる。
「かかってきなさい!」
その声に反応したのか、再度勢いよく羽を広げ、威圧的に接近するドラゴン。
フッという声を上げ、恐怖も混じった微笑を浮かべるシーナ。そしてその地面へと片膝をつけ、両の手を地面につけながら…詠唱を始めていた。
「…大魔法───」