あれ?これ死んじゃうやつ?
暇なときに流し見していってください。
この物語はフィクションであり、登場人物や他の物事に関係性は一切ございません。
「 「ぎぃぃいやぁぁぁああああ!!!」 」
勢いよく悲鳴をあげながらそのダンジョンを駆け回るように走り抜ける。当然、その後ろにピッタリとついていく正人。
…のすぐ後ろではドラゴンの上半身を持ちながら、下半身は二足歩行で後ろに羽が生えているキメラのような生命体が口の中で火を溜めながら迫ってきていた。
普通、ダンジョンで1番難易度が低いとなるとスライムやパタパタと胴体から羽を生やしているだけの、いかにも攻撃力は1ダメージですよという敵を想像する。当然、正人も同じことを考えていた。
涙目を浮かばせながら走りゆくシーナに並び、正人は問いかける。
「ここは本当にダンジョンで1番難易度場所なんだよな?」
「ハッハッ…そうよ!ここの街に来た時尋ねた人から聞いたのよ!なんでこの状況でそんなに冷静でいられるのよあんたは!!」
正人からしたら異例な出来事で確かに驚く様子は見せていたのだが…なにせこの男は先日『日本一のプロゲーマーになったまさと』だったからだ。
(まぁ状況把握は意外と得意だし…)
と内心そう呟きながら数時間前の記憶が脳裏に蘇る。すぐその呟きは否定される感覚に陥る。
(ここに来た時は状況把握出来てなかったな)
すぐ前言撤回して少し反省気味に再度内心呟く。
だが、もう慣れてしまえばこちらのもの。休憩椅子で話していた言葉を頼りに…
「とりあえず、なにか魔法を使わねぇと打開もクソもねぇぞ」
正人は冷静に告げる。眉根をピクリと上に動かし…どこか気難しそうにする容姿を見て首を傾げる。だがなにかに吹っ切れたのかずざーっと前に滑りながら後ろを振り返り、シーナは両手を前に出していた。
(こうやってちゃんと魔法を的に向けるのは初めてね…)
そう…シーナもミアもこれが初めてのダンジョン。魔法学園では対人や魔法の打ち込み稽古などもあったのだが…対人は見知った人、魔法の打ち込みは木やそういう無機物に向けてしかやって来なかった。
だからこそ…シーナは躊躇いを見せていたし、咄嗟に逃げ出してしまっていた。
(シーちゃん!頑張って…!)
手をぎゅっと握り、胸の前で強く見つめるミア。
一応魔力が使えない正人はそのミアを守るべく、体が勝手に守る体勢へと入っていた。右腕をミアの前に出し…大丈夫と言い聞かせるように。
「…?」
ミアはその姿に少し違和感を覚えた。それもそのはず…どうして魔法が使えないのに守ろうとするのだろう。普通はミアの後ろに隠れたり、ミアが庇うようにするのが普通。その自然ななりを見てどことなく懐かしさも感じていた。
「(お兄ちゃんに…似てる…)」
小さく…正人が聞こえない声量で呟くや否や、それを遮るようにまさとが声を上げる。
「…来るぞ!シーナ!」
「分かってるわよ…!私に命令しないで」
フッと鼻を鳴らし、私に任せなさいと言わんばかりの…緊迫した空気を押しのけるような言葉に正人は安堵した。
(これなら大丈夫そうか…)
そう思ったのもつかの間。
そのキメラのようなドラゴンではない何かの口から勢いよく炎が飛び出す。直で浴びたら溶けてしまいそうなその炎…唾を飲み、1歩…片足を下げるシーナ。
(ビビっちゃダメよ私、何のためにここに来たのよ!)
他ならぬ、ミアと一緒に…いつか二人で誓った『立派な魔法使いを目指す』ために、ここに来ている。だから、この先の冒険は誰にも邪魔させない!
直後…炎を勢いよく吐き出したのと同時に、シーナの髪色と同じ色の魔法陣が手の前に出される。白色の魔法陣に、縁どりが赤色。正人とミアは息を呑みながらただ…それを見ているだけだった。
「…反射魔法!」
魔法詠唱特有のピピッという音とともに、さながらアニメでよく見る効果音と共に、吐き出されていた炎が反射する。
ジュワァァァアっという音ともに、その炎は敵の上半身に直撃する。
「やった!成功した!」
嬉しさを口にし、一瞬みあの方へと視線を向ける。だがそのミアは何かを訴えかけるように身を乗り出していた、
その異変を察知したシーナはすぐに敵の方へと視線を向ける。
「な…んで、無傷なの…よ」
口をぽかんと開け、目を見開くシーナ…その目に光は宿っていなく、赤とピンクの混じった瞳孔が、薄暗い赤色だけに変わっていた。
反射していた魔法が、敵の下半身に当たっていたら話は違っていたのだろう。だが他ならぬ上半身に直撃…その上半身はドラゴンのような姿をしている。その上半身の鱗に傷一つ付いていない様子を見て、さらに絶望えと落とされる。
(無理…無理よ…こんなの勝てるわけ…)
足がプルプルと震え、体は当然動かない。逃げないと今、ここで攻撃を食らって即ゲームオーバー…それがわかっていてなお、体はすくんで動かない。
一縷の希望にかけるかのように、震えながらも右手をそのまま広げ…地面にビリビリっという電気の走る魔法を発動した。だがその電気は弱々しく、到底このキメラに通用するとは思えなかった。
分かってた…頭は良くても所詮この世界は魔法が全て。だから…落ちこぼれの魔法学園に逃げ出すように入った。でもその落ちこぼれの学園はシーナにとっても居心地は悪くなかった。なにかどす黒い闇を抱えたいたのは確かなのだが、身寄りない子供達に先生は向き合い、基礎魔法を教えていた。
当然…これが高貴ある学園だったら話は違う。基礎魔法だけじゃなく、応用魔法や上級魔法…それらを教えて貰えたのだろう。だからこそシーナは絶望していたのだ。
(基礎魔法じゃどうにもできない…これはただの付け焼き刃だったんだ…)
街に来て、ウキウキだったシーナの心はズタボロになりストンと体が地面へと向かっていた。両膝が地面へとつき…諦めるかのように。
シーナが反射魔法を出し、視線をミアに向けた時…ミアは危険を察知し身を乗り出していた。
(ダメだよシーちゃん!敵はまだ…!)
訴えかけるように走り出すが…到底間に合うと思えない。白い髪が靡き、弱々しい声で訴えかける様子を正人は見ていた。
(どうする?このままじゃ間に合わねぇ、かといって俺が走っても無駄…ミアが走っているが…)
グワァッと思考を張りめぐらせ、1秒にも満たない時間で様々な情報を整理するように…頭をフル回転させる。
(ミアの魔法は回復魔法…そしてそれは先程のシーナの攻撃を見るにそれも決して高いとは言えない技術のはずだ)
この時の正人はどこか…懐かしさを覚えていた。この緊迫した状況…1つでも失敗すれば即ゲームオーバーなこの状況。どことなくニヤリと浮かべる正人は自分でも気づく様子はなかった。
この気持ちは何度も経験したことのある感覚に近いものだった。プロゲーマーになり、味方に指示を出す…それでも敵は感情を持った人間だ。その心を読むのは正人以外の人間からしたら難しい。その予想外な敵の動きに対応がし切れなかったことも幾度とあった。
だが…この男だけは違う。あとかも全てを理解し、上から見下ろすように…全てを対応していた。
その人間離れした正人が今、初めて恐怖心が体全体を覆っている。
得意な空間把握能力…自分の今活かせる全てのものを使い、正人は負けを確信していた。
地面に両膝をつけて絶望しているシーナ、そしてそれを追うように走り出すミア。ここから導かれる答えは自ずと敗北をさしていた。
だが、正人は敗北をさせる気なんて毛頭なかった。
(これしかないか…)
という呟きとともに、その間わずか1秒も満たない速度で体を動かした。
ブォオンという風を切る音が、走り出したミアを感じ取る。
「…正人、さん?」
思わず目を見開き、走り出していた足が止まる。
そしてすぐ、どんな行動を取ろうとしているのか、ミアは瞬時に理解するが…それと同時に今走っても間に合わないと自覚する。
そう…正人は魔法が使えない。魔力も知らなければ、この世界のことは何も知らない。
でも…
(それが人を助けない理由にはならねぇよな)
…という言葉と共に、妹の真希…そしてチームメイトを思い浮かべる。いつだってこんな俺を慕う妹に…チームメイトに、助けられてきたんだ。
だったら今度は俺が…!
と言わんばかりに走る。この時の速さは人間が出していい速度ではなかった。だが今の正人にとってそれはどうでもいい。
今目の前にあるこの最悪な状況が少しでも…変えれるのであればいい。この2人のどちらかがやられれば、先のことを考えることは出来ない。だからここは魔力も魔法も使えない正人が、自分を犠牲にして2人を守り…このダンジョンから今は出れなくても、この得体の知れない敵から逃げれればいいと…そう考えながら走っていた。
「ハァ…ハァ…ハァ…どうすれば」
そう言葉を零すシーナだが、目の前にいる敵は動きを止めない。知性があるのか…その敵は口に火をためて攻撃をするのではなく。ただひたすらに、ドラゴンのような手を思いっきり振りかざしていた。その動きに反応できる訳もなく、シーナは自分の死を悟る。
振りかざされたそのドラゴンの手を目に…ただ瞑る事しか出来なかった。
「──────。」
目を瞑っていたのでその状況を確認することは出来なかった。
だが目を瞑りながらもシーナの顔に飛び散る何か…そして横の壁へと勢いよく叩きつけられる何かの音。ドカァン!という音と共に、シーナはすぐに理解することになる。
「…嘘…でしょ…」
「……っ!?」
壁に飛ばされ、地面へと横たわる正人の姿。シーナは助けられたのだと自覚する。そしてミアも遅れながらシーナの横に駆け寄り、その残酷な姿を目に…口に手を当てて涙を浮かべていた。
この二人の中で、正人は確実に死んだと思われていた。
魔力が使える訳でもない正人はその攻撃を受ける時の衝撃も、全て身体ひとつで受けたということ。胸から斜めにかけて三本線の入った爪が深く…血を垂らして倒れ。壁に激突したのが原因で腕が人間の向けていい角度ではないのが…それを物語っていた。
ドシンッという音とともに、正人の方へ向けていた視線が再度、敵の方へと向く。
当然待ってはくれない。敵は1人を消したからまた1人をと…爪を立てながら振りかざす。
「や…やめっ…」
唇をふるわせ、涙を浮かべながらやめてよと懇願するシーナ。自分に対しての失望感と、絶望感が身を包んでいた。
逃げ出したい…今この現状から。自分は馬鹿では無いからこそ、自分の非力さに失望していた。
考えれば分かったはず、私ならもっと…と。だがいくらそう思考しても目の前の現実は変わらない。
弱い自分と、直接的ではないが人を殺してしまったという思いが…今のシーナの感情だった。
そして…目を瞑り、肩と口を震わせながら…
「誰か……助けて…」