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運命のマスティマ  作者: 鏡 香夜
(6) Daily work 1 マスティマの日常1
97/112

87.善意の贈り物

 文字で表現するのは難しい、素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。

 びっくりした。びっくりした。びっくりした。

 電源を切ろうとして間違って音量を上げてしまう。大きくなったその音に、ますます動転する。

 リモコンを投げ捨て、テレビに駆け寄り、本体の主電源を落とした。

 やっと静かになる。

 なんなんだ、あのDVD。しょっぱなから濡れ場のアダルトな内容。いきなりベッドの上で絡んでアンアンハアハアやってるし。

 誰がくれたんだっけ。とんでもないセクハラだ。

 ……と思って我に返る。

 ここでは私は男で通っている。これは善意の品。女だと怪しまれてないって何よりの証拠で、ほっとするべきなのかもしれない。

 それにしても複雑だ。こんなものを見て喜ぶと思われているなんて。

 感想なんて求められてないけど、もし聞かれたら、どう答えよう。

 良い物ありがとうございました? あの女優タイプです? 

 微妙な空気を作らず、言えるだろうか。不安だ。

 自信がないから、まだ見ていないことにしよう。さっきの音が外に漏れてないことを祈って。

 悪い予感を感じながら、DVDの入っていた紙袋を探ってみると、やっぱりだ。

 下にあったのは写真本に漫画本。ちらりと見ただけでもエロ満載。ナース服での露出とか、縛られているのとかあった。

 ……裸なら何でもアリなんだろうか、男の人って。

 これらをくれたのは有志一同。代表で届けてくれた人のセリフを思い出す。

「趣味が分からないから、みんなで考えたけど、これなら万全だ」って。

 確かに、いろんな嗜好に対応できてるとも言える。だけど、私には必要ないものだ。

 はっきり言って傍に置きたくないくらい。

 クローゼットに入れるのもためらわれる。

 捨てるのが一番だろうけど、その現場を見つかったら、くれた人たちも気分を害すだろう。

 それだけならまだしも、あいつは女には興味ないなんて妙な噂を立てられても困る。

 しばらく取っておいて、忘れたくらいにこっそり処分するしかないか。

 そう結論に達する。そして、紙袋は玄関に続く通路のわきにたたずむことになった。


 ボスのための本探しは迷走中。

 ある時、はたと思い立つ。こういうときは原点回帰。

 最初の魔法の本は料理の本だったから、その系列も試すべきだろう。もっともボスの本棚にはないから、別のところから調達しなければならない。

 私の部屋にはフランス料理の師匠の著書が三冊ある。

『気軽にフレンチ』と『おうちでフレンチ』と『ひと手間フレンチ』。

 料理本だけど、お洒落な装丁。言葉も堅苦しくなくて読みやすい。どれもヨーロッパではヒットしている本だ。

 あと一冊、『世界の料理とその変遷』という本もある。前の魔法の本と同じ著者のものだから、可能性は多いにあるけど、これをボスの前に出したくない。

 放り投げられでもしたら、ばらばらになってしまう。街の古本屋で見つけたそれは、すでに痛んでいて、ただでさえ扱いに気を遣う代物だった。

 もともと出版数が限られているから、他に現存するかも怪しいところだ。

 価値を理解していない、しかも乱暴な人の前には出すべきじゃないだろう。

 だいたい、私物まで引っ張り出すのはどうかとも思う。

 とはいえ、状況がそうは言ってはいられなくなってきた。城を支配する緊迫感は、もはやただ事ではなくなっている。

 先発隊はフランス料理の師匠の本。三冊を手に部屋を出ようとする。

 睡眠不足のせいか、ふらついてしまった。

 何かに足をとられ、ハイヒールでは踏ん張れず、床に倒れこんだ。

 本が床に落ちる。

 ため息をつきながら、床に散らばってしまった障害物を見やる。

「ああもう、本なんて嫌いになりそう」

 愚痴めいた言葉を漏らしてしまった。

 散乱しているのは私には不必要な本たち。

 玄関前の通路のわきに置いていた紙袋が横倒しになっている。これらは隊員たちからのエロエロなプレゼント。

 DVDに写真本あり、漫画本あり。それも何冊も。

 ため息をつきながら、それを紙袋に戻す。

 フランス料理の本を手に立ち上がる。あざでもできていないかと心配したが、大丈夫そうだ。

 あとしばらくの辛抱。ひと月でも経ったら捨ててこよう。私はそう決めて部屋を出た。

次回予告:ミシェルが望みをかけた三冊の本。ボスを満足させることができるのか……。

第88話「ポテンシャル」


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