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運命のマスティマ  作者: 鏡 香夜
(5) Christmastide クリスマス・シーズン
94/112

84.色眼鏡と虚像

 私の直属の上司であるアビゲイルは、医師にして総務も任されている。

 マスティマの制服は黒だから、彼女の白衣姿は目立つ。ひらめく白衣は私のものとは大違い。格好いい。

 弟であるジャズ隊長と同じ赤い豊かな巻き毛は、いつも邪魔にならないように整えられていた。

 今日はアップスタイルだ。シャツにスカート、その上に白衣を羽織っている。美人でスタイルもいいこの人は何を着てもキマる。名実共に文句なしのデキる美女だ。

「あら、マイケル。もしかしてアレ見ちゃったの?」

 振り返ったと思った一瞬で見抜かれた。私って顔に出るタイプなんだろうか。いや、きっと彼女が鋭いのだ。

「グレイが対応係なのに、何やってるのかしら」

 アビゲイルは訝しげだ。

 ああ、そうそう。グレイから言われてたんだっけ。

「私の体重が軽すぎたんだそうです」

 私自身、意味の分からない言葉だったけど、彼女は納得したようだった。

「ご自慢のトラップが失敗なんて気まずいでしょうね。それで自分で来なかったのね」

 疑問が確信に変わる。あれは、やっぱりグレイの仕業だったのか。

「彼、むくれてたでしょう?」

 アビゲイルの指摘で腑に落ちた。いつになく事務的で無表情なのは、そのせいだったのかと。

 あれがむくれてたなんて、なんだか可愛いところもあるんだなぁと思ってしまう。

 それから、アビゲイルは、トラップにかからなかったのは良かったじゃないと言い出す。

 いえ、トラップにはかかりました。見た後でですけど。

 そう答えると「運が悪いわね」と返ってきた。

 彼女は引き出しから取り出した茶封筒を抱えると、私に仕事に戻るよう諭した。

 何が起こっているのか把握しているようだが、彼女もまた私に話す気はないようだ。

「ジャズのアレについては、ここだけの秘密ね」

 私を医務室の外に押し出すと、そう念押しして去っていった。


 認めたくないことだったのに、アビゲイルの言葉であっさり肯定されてしまった。

 城の屋上で隊員を締め上げていた人物の正体。いつも明るくて、にこにこ笑っていて、怒ってるところなんて一度も見たことがない人。

 はっきりと見てしまった。あれはジャザナイア隊長だった。

 そのギャップは壮絶で、幻覚でも見らかたかと自分の目を疑ったほどだ。固まった笑顔が張り付いたままの表情で、部下をいたぶるなんて怖すぎる。

 とうとうボスに感化されてしまったんだろうか。あんな風に凶暴化するなんて。

 アビゲイルに口止めされたから、誰かに尋ねることもできない。

 最初から知っている人なら問題ないだろうと、食堂にコーヒーを飲みに来たグレイに聞いたが、「隊長は悪くねー」の一言だけ。それ以外の質問は、のらりくらりとかわされてしまった。

 胸のもやもやは晴れることはない。この先ずっと溜め込むことになるのだろうかと覚悟した矢先、答えが出た。

 最初にはっきりさせておくが、やっぱりボスは関係なし。疑ってゴメンナサイ。

 私の大事な情報源。食堂を利用する隊員の雑談から、明らかになった。希少な古株さん達だ。コーヒーを飲みに来た強面の二人。

「隊員が一人辞めるってさ。隊長をキレさせる奴なんて何年ぶりだ? 失態も三度続けば救いようがねーな」

「連絡係のあいつだろ? 持ち場を離れて情報が中断。命張ってるこっちの身にもなれってんだ。隊長が引き取らなかったら、ボスの制裁炸裂してたろうな。なのに、ちょっと休憩したのが悪いのかって逆切れしたらしいぜ。ほんと分かってねえ」

「向いてねーんだ。誰か死なせねーうちに辞めてよかったんじゃねーか?」

 会話に聞き耳を立てつつ、近くのテーブルを布巾で拭く。お陰でこの人たちの周りのテーブルは脚までぴっかぴかになってしまった。

 それにしても任務ってやっぱり大変なようだ。私はコックだから関わりがなくて想像しかできないけど。

 隊長には隊を守る責務がある。上司もあんな人だし、きっと色々あるんだろう。そんなことを思わせないジャズ隊長は凄い人なのかもしれない。

 任務明けの賭けカードも、仕事上のストレスを発散させるためのものなんだろうか。

 もし、そうだとしたら、私にできることは……。

 コックの権限を最大限に活用してもやれることは限られている。

 とりあえず、この日から、ジャズ隊長のお酒のつまみは、気持ち豪華になった。

次回予告:コックに加えてもう一つ、ミシェルのやるべきこと。これはもう仕事とみなすべきかと彼女は考えるが…。

第85話「プラスアルファ」


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