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運命のマスティマ  作者: 鏡 香夜
(2) Probation 仮契約
13/112

13.モーニングコール(後編)

 私はこっそりと入り口から中を覗いた。

 カーテンを閉め切った部屋は薄闇の中に沈んでいた。

 窓の形に薄っすらと浮かび上がる光。大きなデスクやソファが影を纏い、重厚な黒の色で存在を示している。

 そして、壁際には倒れている人物が見えた。さっき目にした男だろう。

 アビゲイルが彼の体を触っている。何処か骨が折れていないか調べているようだ。

 呻く声が聞こえる。相当激しく壁に体をぶつけたようで、壁にかかっている額のようなものがずり下がっている。

 男達が手にした二本の棒を広げて布を張った状態にする。担架だ。

 二人がかりで抱えて乗せると、痛みからか男は大きく喘いだ。

 運ばれる担架に目が行っているときに、別の大きな音を耳にした。

 何かが床の上に落ちた。そして、その向こう。四角い光の中に黒い人影を見つけた。

 別の部屋に続いているのだろう。その部屋から差し込む明かりで、その人は影としてしか映らない。

 それでも私の背中に冷たいものが走った。よく見えなくとも分かる。その人が発している眼差しの強さが。

 アビゲイルは床の上のそれを拾った。随分と重そうに抱えてくる。

 担架の後から彼女が出てきた。

 再び、人影へと目をやったが、すでに扉は閉じられたようで何も見えなくなっていた。

 廊下の光の下で彼女が持ち出した物の正体を知る。

 それは盾だった。暴動鎮圧のニュース映像でよく見るような。

 ポリカーボネート製の半透明の丸みを帯びた盾。腰をかがめれば大の男でも隠れてしまえる大きな物だった。

 しかも盾には落書きがされていた。

 一番大きい文字は「イージスの盾」。それから「神よ、お慈悲を」とか「悪魔退散」やら訳の分からない言葉が連ねられている。

「まさにロシアンルーレットね。あの子は運がないわ。起きてこないボスに当たるんだもの」

 先に行く担架を見やってアビゲイルは言う。

 ロシアンルーレットって、確か弾を込めた拳銃の弾倉を回して撃っていく、死を賭けた遊びだ。凄まじい例えだ。

 私は先ほどの人影が放っていた視線を思い出していた。体がぞくりと震える。

「今のって、まさかボス……?」

「起こされたばかりで超不機嫌なね。さすがのイージスの盾も役に立たなかったようね」

 アビゲイルは盾を覗き込んで苦く笑う。

「衝撃銃を使わせるなんて、よっぽどボスを怒らせたのね」

 話についていけず、混乱する私に彼女は説明してくれた。

 ボスを起こす係を隊員たちで回しているのだと。

 朝ボスが起きてくればセーフ。目覚ましで起きても、もちろんセーフ。問題なのは時間通りに起きてこないときだ。

 確率は約七パーセント。それほど高確率でないのは、ボスが元々不眠症で寝付けないことがあるからだ。

 起きること自体が関係ないことも多いらしい。だが、一旦寝入った彼を無理に起こすとどうなるか、想像は容易だ。

「枕元に護身用の銃を置いているから。悪くすれば、寝ぼけたボスに撃たれるってわけ」

 とんでもない話だ。起こすのも命がけだ。だから、あの盾が必要なのだと言う。

 だけど、あの男の人は相当ダメージを受けていたが、撃たれた様には見えなかった。血を流している様子もなかったし。

 その答えもまた想像を超えるものだった。

「城の中でいつも本物の銃を振り回されちゃかなわないでしょ。だから、ボスには衝撃銃を持たせているの。うちの技術情報部が開発したショック・パルス・ランチャーよ。気晴らしに派手な爆発音はするけど、死にはしないわ。もちろん、撃たれ所が悪ければ分からないけど」

 今日もそうだけれど、ここに来た初日に聞いた爆発音もそれだったのだろう。

 だが、選択をボスがするのなら、危険度は変わらないのではないだろうか。気分によって本物の銃を使われるなんて、恐ろしすぎる。

「大丈夫よ。基本的にはうちでボスに銃なんて必要ないわ。あの声、睨みだけで十分でしょう」

 私の脅えを感じ取ったのか、彼女は微笑んで言った。

 確かにそう思うが、基本的にという所に引っかかる。例外もありえるということだ。例えば、ボスを本当に怒らせたときとか。

「それよりマイケル、ボスの朝食の用意は大丈夫なの?」

 彼女の言葉が私を非情な現実に引き戻す。

 恐る恐る腕時計を見る。八時まであと十五分しかない。一気に血の気が引いた。急げば間に合うだろうか。いや、何とか間に合わせるしかない。

 アビゲイルに別れを告げ、慌ててワゴンを押して厨房に戻った。

 ボスを本当に怒らせることがあったらって、今の私が一番それに近いではないか。

 担架で運ばれて行った隊員が目に浮かぶ。あれは十五分後の私の姿ではないだろうか。

 目玉焼きを作ろうとして慌てすぎて黄身を壊してしまう。えい仕方ない、スクランブルエッグに変更だ。

 ハムと一緒にフライパンで焼いている間に、付け合せの野菜を用意する。

 慌てているときほど、時は早く流れる。

 無事にボスの食堂にたどり着くまで、私の背中は冷たいものが流れっぱなしだった。

次回予告:ある日、会議室にコーヒーをと連絡があった。届けたミシェルの目の前には寛ぐ幹部達、そしてボスの姿が。だが、ボスの様子はいつもと違っていて……。

第14話「コーヒーブレイク」


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