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3/3

そして歯車は回り出す

すみません。戦闘シーンでモブがヤられます。

宜しくです。

「では、貴方の熱も下がりましたし、私は一旦こちらを失礼しますね。色々と準備もありますし」


そう言ってサッサと立ち去ろうとする子爵。


「ちょっと待ってよ。あたし、あとどのくらいココにいる事になりそうか教えてくれない?それに他にも聞きたい事が沢山あるのよ」


「今日の夜…そうですね、あと3時間くらいで貴方はメンデル修道院行きの馬車に乗る事になるかと」


「えぇ!もう?」


「3日も眠っていらっしゃいましたからねぇ。眠っていても運ばれる予定だったので、その前に目覚めて貰って良かったです」


「えぇぇ。マジかよ。鬼かよレオン」


「それよりミルリーフ嬢、その話し方ですが…」


綺麗な顔を曇らせてあたしを見るトルネード子爵。まぁ言わんとする事は分かる。


「分かっております。ちゃんとミルリーフとしての記憶はありますし、所作も体が覚えておりましてよ」


公爵令嬢として答えると、安心したようだ。


「そうですか。それでは、貴方に辛い思いをさせるのを分かっていて離れるのは心苦しいですが、どうかここは耐えて下さい。直ぐに私が助けに参ります」


膝を折って手を取り、手の甲に口付けるトルネード子爵。


「な、ちょっと、そんななんでっ」


あたしが慌てていると、楽しそうに笑うトルネード子爵。いや、トルネード子爵ってそんなキャラだったの!?


「貴方は、私がとても欲しかった人だからですよ、ミルリーフ嬢」


「えぇ!?一体どういう…」


どういう意味なの、と聞こうとするが、唇に指を置かれてしまった。


「そのうち教えてあげます」


それじゃ、と、去っていくトルネード子爵を、ぼんやりと見つめる事しか出来なかった。



あれからどれくらい時間が経ったのか。

ここは日が差さないから今何時なのかも分からない。

もっと魔法が使えたのならば、外の様子を探る術もあるのだが、それもあたしの魔力じゃ無理だし。


待つ間に、折角なのでシホとして体を動かしてみたのだが、ミルリーフという令嬢の体はとても良い。

怪我をしたシホとは比べ物にならないくらい動ける。貴族の令嬢だから筋力は期待していなかったのだが、それでもダンスのレッスンで鍛えられた筋肉や、若さという武器があるのだろう。オマケに小説の設定通りに美少女だし。ちょっと貧乳気味ではあるけど、それも動き易さに直結していてとても良い。シホはまぁまぁ大きかったからスポーツには邪魔だと思ってたんだよなぁ。


そんな事を考えていると、扉が開いた。


「出ろ」


さぁ、これからが新しい始まりね。乗るしかないもの、乗ってやろうじゃないの、このハチャメチャな計画にねっ!



馬車は簡素な作りで、本当に罪人扱いなんだなと実感する。それにしても、実家はどうして私を助けてくれなかったのか。娘一人助けられないようなお父様ではないのだが。だが、ここは王家と何らかの取引をしたと見るのが正解なのだろう。本来婚約破棄など出来るようなモノでは無いはずだ。私の悪事、といっても、厳重注意でも済むような事にも思えてくるし、いくら王太子が手を回したと言っても、家同士や貴族同士の権力の均衡を鑑みると、ルシーナは側室にするのが良かったのではないだろうか?この処置は、後に争いを生むのでは無いだろうか??


残念ながら、エルサルドル王国の秘密の次巻は死んでしまった為に未読だ。そこに何か手掛かりがあったのかも知れないと思うと、読めなかった事が大変悔やまれる。が、仕方がない。今はミルリーフとして、出来る事を精一杯やろう。それにしても…いつ来るのだろうか、ならず者というヤツは。


「うわぁー」


馬の唸り声と共に、御者が叫び声を上げる。


「きゃーっ」


馬車が倒れ、流石のあたしも乙女チックな声が出てしまった。ハズい。が、そんな事も言ってられない。なんとか馬車から出ると、そこには数人の男性が刃物を持っていた。私が馬車から出てくるのを待ち構えていた様に見える。


「お、こいつかぁ。こいつの命が金貨100枚だなんて、どんなお嬢ちゃんなのかと思ったが」


刃物をチラつかせながら、こっちを見ている。


「なんですって?」


咄嗟に壊れた馬車の木材を掴む。


「どっかの貴族のお嬢様なんだって?娼館に売れば高く売れるんだとよ」


背中に嫌な汗が流れる。


「そんな事、許される筈ありませんわ」


「それが俺達頼まれてんだなぁ。護衛がいないとは聞いていたが、本当に一人もいない。」


「いくら罪人だといっても貴族だろ?普通護衛がいるもんだ。それなのにいないって事は…」


男達が笑っている。そう、私を嘲笑っている。


「お前売られたんだよ、身内にもな」


そんな。あの優しかったお父様とお母様が、そんな事をする筈がないっ!

例え王太子に嫌われたって、お父様とお母様は私を見捨てたりなんてしないっ


そう叫びたいのに、現状は奴らの言う通りでしかない。


シホのあたしでなくミルリーフだけが聞いていたら、その言葉だけで正気を失っていたかもしれない。


「なんだ?思ったよりおとなしいな。それとも、恐ろしくなって声も出ねぇかぁ?」


トルネード子爵が来る気配はまだ無い。

なんだかんだ言ってアイツもグルだったのか?

まぁ、王家と公爵家に命令されたら、子爵であるトルネードなんかあたしの役に立たないか。


これは、自分で運命を切り開くしかない。

幸い、相手は4人。なんとか、するしかないっ!


「まぁいいや。それよりなぁ、嬢ちゃんイイカラダしてんじゃねぇか。どうせ娼館に行くんだ、その前に俺たちが味見してやるよ」


その言葉を聞いて心が決まった。そう、人を殺める覚悟だ。

ミルリーフは努力家だった。ほんの3日前まで、本当にこの国の国母となる為に毎日毎日勉強やお稽古をしていた。

そんなミルリーフが、こんな所で野蛮な奴らの慰み物になるなんて、作者が許してもあたしが許さないっ!



「あたしもね、この身体は素晴らしいなって、思ってたところよっ!」


そう言うと、握っていた木刀に近い長さの木材で一番近くにいた男のノドを突いた。


「なっ!?」


「こいつっ!」


「くそっ!」


ささくれ立った木材を引き抜く。

全力で突いたから、最初の1人はもう使い物にならないだろう。あと3人。

正面にいて、リーチでこちらが有利な短剣を持つ男に向かって飛び掛かる。


「がぁっ!」


短剣を叩き落とし、返し刃でもう1人の男の剣を受ける。


「くそっ!」


「このアマぁ!」


横からもう1人の男が棍棒を振り下ろす。


「はっ!」


後ろに下がってやり過ごす。


「3対1は厄介ね。ちょっと貴方達、男なんだから正々堂々と1対1でやりましょうよ」


そう言ってみたものの…


「何言ってやがる、このっ!」


振り下ろされる剣を受けると、木材が割れた。


「っ、しまった」


木材から手を離し後ろに下がる。

剣道部だった私にとって、剣が無いのは絶対絶命である。


「ちっ、手こずらせやがって」


「このお礼は、たぁっぷりしてもらわなきゃなぁ」


「だな」


捕まるなんて、絶対に嫌!

えぇぇい、一か八かだ!


「炎よっ!」


魔力を手に集中させそう叫ぶと、手には炎の剣が出現した。


「なっ!」


男達は驚いている。


「えぇぇ!?」


あたしも驚いた。

ミルリーフは、魔法は苦手だったはず。

貴族なら誰でも魔力を持っているが、それを魔法として具現化出来るのは、一部の才能ある者たちだけだ。

光を生み出して夜道を照らしたり、水を生み出して飲料にしたり、火を生み出して焚火をしたりと魔法は生活に便利な初級魔法から、火の玉を相手に投げたり、氷の矢を放ったりという攻撃魔法などなど、様々なモノがあるが、イメージを形にするのは大変なのだ。上位の魔法となると、魔力も沢山使う。ミルリーフは、魔力が一般的な貴族と比べて多い方ではなかったから、花形の攻撃魔法なんかは使うと倒れてしまったし、一般的に使える生活魔法を主に習っていた筈だ。


ワンチャン炎を生み出して驚いている隙に逃げようと思ったのだけど、こんなモノが出来てしまうなんて。


そう思っていると、いつの間にか横にトルネード子爵がいた。


「上出来です。流石は転生者ですね」


子爵はそう言うと、躊躇なく風魔法を相手に向ける


「風刻」


謎の言葉を発したかと思うと、男達を風の刃が切り刻んだ。


「ゔがががぁぁぁぁぁ」


そのうち声も発さなくなった。


「生きていられると面倒なので、始末しました。貴方が一人殺っておいて下さったお陰で、手間が省けましたね。後は燃やして塵にするだけです。感謝致します」


笑顔を向ける子爵。


「あ、あのぉ、トルネード子爵は、あたしの味方って事でいいんですよねぇ」


あたしが恐る恐る聞くと


「何を言っているんですか、勿論ですよ」


そう言って、腰が抜けてしゃがみ込んでいたあたしの手をとって、口付けるのだった。

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