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第8話 異種族間の和解

 「──うわっ!? 本当に喋ったぁー!」


 アーリナは瞳をキラキラと輝かせ、口を大きく開き叫んだ。


 この世界には魔法はもちろん、神話だって当たり前のように存在するし、何が起きても不思議ではない──が、さすがに光の球が喋りだしたことには驚いてしまった。

 

 思わず振り上げた両手。その手のひらにあった光の球は土台を失い、ストンと地面へと滑り落ちた。

 

 光の球は地べたをコロコロと転がり、一瞬の閃光とともにその姿は斧へと変わった。


 「お、おお~っ!一人で立てるの?!」


 アーリナは眼前の斧に興味津々。それは柄の部分で地面に器用に立ち、刃を上に向けていた。

 

 これが本当に神様なのだろうか?──彼女はその斧を舐めるように凝視。斧刃には、ギラついた鋭い目と口らしきものが開いていた。


 「おのれ、小娘! 予に土を舐めさせおってからに。よいか? 我は斧──」


 「ラドニーでしょ? あのね、言いたいことは山ほどあるんだけど……ってそれより、へぇ~斧に顔がついてるじゃん。ねぇ、どうなってんのこれ?」


 アーリナは斧の前にしゃがみこみ、その刃を指先でツンツンと弾いた。


 「だから、よいか? 我は斧──」


 「分かってるって、ラドニー。だからさ、何で斧なのに顔があるの?」


 「むぐぅ~小娘! 予が話し終えるまで喋るな! ここからがイケてる紹介だったのだぞ! それからいい加減、ツンツンやめい!」


 自らの語り出しをことごとく台無しにされた斧神は、湯気が立つほどに熱気を帯びて、彼女を睨んだ。


 アーリナは彼の怒りをものともせず、唇の端を吊り上げニンマリとした。


 「そうなのぉ~? もう、仕方ないなあ……。じゃあ──どうぞ!」


 「んなっ?! そ、そんな勢いでやれるか! こっぱずかしいわ!予はこの地に降り立った神なるぞ!」


 彼女は臆せず、ラドニアルに軽快なやり取りをけしかけた。その様子をミサラとモーランドは、まるで置物のようにただ呆然と眺めていた。


 「ええい、タウロスロードよ。こうなっておるのはお前の責任なのだぞ! 何をポワっと無関係な顔をしておる! 予の正体を盛大にバラシおってからにい!」


 「──モッ?」


 怒りの矛先は突如としてモーランドへ。彼は大慌てで、ラドニアルの火消しに追われることになった。


 「モ、モーしわけございせぬ、ラドニアル様。どうか、怒りをお収めください。()()だけは、焼きだけはご容赦をぉ~」


 ぷんすかと怒り狂う斧神の前できちんと正座し、ペコペコと頭を高速で下げ続けるモーランド。

 

 アーリナは彼らのやりとりに頭を悩ませていた。


 (焼き? 焼きって何のことだろう? モーランドさんの鳴き声はモー。はっ?! やっぱり、ミノタウロスって牛の仲間なの?──となると、牛に焼き……。えっ? このままだと焼肉にされるってこと?)


 彼女の中で一つの結論が出た。モーランドは焼肉になる。アーリナが「それって」と言いかけた次の瞬間、突然、後ろからその口元が塞がれた。


 「アーリナ様、ここは大変危険です。神と名乗る斧に、タウロスロード。彼らが何をしでかすか分かりません。それはとってもと~ってもイケないことかも……。さあ、目を閉じてください。決して開けてはなりませんよ。よろしいですか? 静かにゆっくり、後ろに下がりましょう」


 アーリナの肩に手を添えて、警戒心を露わにするミサラ。


 「アーリナ様。必ず、私がお守りしますから」


 彼女は一歩、また一歩と、ミサラに体を預けて後ろに足を運ぶ。

 

 徐々に離れるアーリナたちと危ない彼らとの距離──しかし、ラドニアルの目が彼女たちを見逃すことはなかった。


 「そこの小娘二人! 予を置いて何処にいくつもりだ! この不敬どもめが!」 


 ラドニアルは激昂した。斧の姿のまま、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねていたが、みるみるうちに纏った光が炎のように揺らぎ始めた。


 「アーリナ様、逃げます! しっかり掴まっていてください!」


 ミサラは急いで、まるでアーリナを鞄のように脇に抱え上げると、全速力で森の外へと走り出した。


 だが、ラドニアルの速さはまさに神速だった。


 彼はあっという間にミサラを追い抜き、

  

 「待て! 予はさっきから待てと言っているのだ!」


 と、怒りに震える声を響かせた。

 

 逃げきれないと悟ったミサラ。アーリナを自身の背に隠して、斧神と対峙する。


 「くそ~、何なんだ貴様は。本当に神だと言うのか? 未確認の魔物か何かじゃないのか?」


 「汚言葉がすぎるな、小娘。もっと綺麗な言葉を選べないのか? あまりにも失敬だろうが。予は真の神なるぞ、もっと敬意を払え」




 ──それから何分経っただろうか。

 ミサラとラドニアルは、あ~だこ~だと取り留めもない話を延々と繰り返したが、結局、


 「光の球が斧に変わるんだよ、ミサラ! 神だよ、きっと!」


 と、アーリナの子供らしい結論で締めくくった。 



 ◇◆◇



 魔晶の森を出たアーリナたち。アーリナはモーランドに改めて尋ねた。


 「モーランドさん、あなたの忠誠を信じてもいいの?」


 「はい、もちろんです。アーリナ様を前にしてこのモーランド、嘘偽りなど一切ございません。それと、我の名は呼び捨てしていただければと」


 自らの胸に手を当て、軽く会釈をするモーランド。彼女の手元からはラドニアルの声も聞こえてきた。


 「ま、正確には()()()忠誠だぞ、小娘。感謝なら予にすべきことだ」


 ムフンと自慢げな面持ちのラドニアルの言葉を、アーリナは「ラドニー、そろそろ消えてていいよ。また用があったら呼ぶから」と即座に切って捨てた。


 「な、何を~!」と唸る斧神。アーリナは「何をって」と眉を顰めて続けた。


 「いつも私が呼ばないと姿を見せないじゃない。それとも何? こっちは言いたいことが山ほどあるんだけど、聞いてくれるの?」


 「う、う~む……」


 「まあいいわ。それよりモーランドさん、話の続きなんだけど──忠誠って、私の言う通りに動いてくれるって意味なの?」

 

 「当然です。アーリナ様のお言葉は絶対です。何なりとご命令を──」


 モーランドは両刃の巨大な斧をドンと地面に突き立てて、アーリナに真剣な眼差しを向けた。


 (う~ん、何なりとねぇ……。でも、伝える言葉は選ばなきゃだね。下手をすれば、冗談も大事件になりそうな感じだし……。モーランドさんなら、やりかねない気がする)

 

 彼らの会話に静かに耳を傾けていたミサラだったが、ここにきて急に顔をブルブルと振り、


 「ア、アーリナ様、このような魔物の言うことなど聞いてはなりません。きっと何か裏があるのです。ここは私にお任せください!」


 と言い放ち、剣を構えてモーランドへと迫った。


 アーリナは慌てて彼女の前に立ち、両手を振って、その行く手を遮った。


 「待って、ミサラ! モーランドさんは悪いミノタウロスじゃないの! ほら、私ね、魔力の質を感じとることができるの。だから、分かるのよね~。これはいい魔力なのよ」


 「えっ、そのようなことが出来るのですか? アーリナ様にそんな力があったなんて、私、初めて聞きましたよ?」


 「ま、まぁね~」


 アーリナは咄嗟に嘘をついた。持っている魔力だけで悪者かどうかなんて、分かるはずもないのだ。


 今は一人でも多くの仲間が欲しい。それに人も魔物も仲良くなれる世界なら、もっと素敵じゃないかとも思ってもみたりなかったり──。


 「ですが、アーリナ様。やはり、ミノタウロスは──」


 「大丈夫! ミノタウロスは今日から私の配下にする。私にはラドニーが()いてるんだから、彼らはきっと裏切らない。それにミサラ。もし何かあっても、私にはあなたがいる。私はあなたを信じてるし、あなたも私を信じてくれたから今がある──だから、今度も信じてよ。モーランドさんを信じている私を、あなたにも信じてほしい」


 「おい! 憑いてるって、予を何だと思って──」


 「はいはい、ラドニー。ごめんごめん」


 ラドニアルの横槍を切り返すアーリナの嬉々とした笑顔に、ミサラもまた口元に嬉しさを滲ませていた。


 「まったく、アーリナ様には世話が焼けます。ですが、私は貴方の剣。必ずお守りいたします」


 彼女はそう言葉を置き、モーランドの姿を瞳の奥に捉えた。


 「タウロスロード……いや、モーランドよ。仮に貴様がアーリナ様に牙を剝けば、私が必ずその息の根を止めてやる。いいか、このことだけは決して忘れるなよ」


 彼女の鋭い視線に、モーランドも誠意を持って応じた。


 「ああ、分かっている。貴様の強さは我にも引けを取らぬ。言ったであろう、ミノタウロスは力にのみ応えると。これからは我も、貴様を認めた証として、()()()と名前で呼ぶことにしよう」


 「んなっ、馴れ馴れしいぞ!」


 「ミサラよ、ミノタウロスに名前で呼ばれるということは、とても栄誉なことなのだぞ? それに、ミサラも我を名で呼んだではないか」


 彼の返事に、ミサラは眉をひそめて口元をヒクヒクと引き攣らせた。


 「ふんっ、まぁいいだろう。好きにしろ。確かに、一緒に行動するのにいつまでも貴様呼びだけでは面倒だ」


 「モハハハ! それはお互い様だ。では、アーリナ様──只今を以て、我は貴方様の忠実なる盾として、この生涯を賭して守護することをここに誓います」


 こうして、アーリナはモーランドの忠誠を受け入れたわけだが、この後、一つの大きな問題に直面することになる。


 そこから暫くして──。


 「でさ、モーランドさん。ダンジョンには帰らないの? もうすぐ町に着いちゃうんだけどさ……」


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