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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第57話 探り合う二人

 これは……。とてもとてもマズいことになりました──ミサラはリアナの言葉に息を呑んだ。まさかアーリナを自ら進んで食事に誘うなど、これまでのリアナからは考えられないことなのだから。


 そもそも何故、ここまで姉妹が急接近しているのか。私が知らぬところで、実は仲を深める何かが起こってしまったとでもいうのだろうか? とにかく、今は詮索している暇はないけれど、やはり、嬉しい──ミサラは壁にかかったエプロンを手に取ってソワソワと身につけると、


 「そ、それは難しいかもしれませんねえ~」


 どうにかこうにか平静を装いつつ取り敢えずの言葉を置く。無言の間は余計な疑念を生むし、断じて『居ません』などとは口が裂けても言えない。


 何でもいいから妙案を浮かべなければならないが、この程度の返しでは、


 「難しい? それってどういう意味なのでしょう?」


 と、考える間も無く更なる追求となって降りかかる。嘘の上塗りなどしたくはないミサラだが、真実を打ち明けられない以上、リアナの気が逸れるまでやり切るしかない。こうなったら真っ向勝負だ。


 「それが……。アーリナ様から暫し、部屋への立ち入りを禁じられておりまして」


 「禁止? そうは言いましてもお食事はとられますわよね?」


 「そ、それはそうなのですが……」


 やってしまった……初手から(ミス)って困りに困った。初めから分かっていることだが、口から出まかせでこの場を乗り切ろうとするなど、何たる愚の骨頂か。ミサラ、しっかりしなさい!──ぎこちない笑みに紛れ、彼女自身の心中は出落ちの渦に巻き込まれていた。


 「まったく、どうしようもないお姉さまですわ。ミサラ、私が代わりに食事を持っていきますから、トレイに準備していただけます?」


 「んなっ?!」


 止まることのない激動のリアナ。予想の遥か斜め上の返事に、ミサラは普段では考えられないほどの驚きの声を上げた。その引き攣った口元を見たリアナは、彼女に対して訝しげに目を眇めた。


 「ねえミサラ。あなた、何か私に隠していることがありませんか?」


 「い、いえ、けけっして、そのようなことは……」


 こちらの問いへのたどたどしい返答。明らかに様子がおかしいと、リアナの疑心の目がより一層細まる。さすがのミサラも想定を超える出来事に加え、従者である立場も相まって、冷静な判断をすることができなかった。


 安易な嘘で躱せるほど、この現場は甘くない──不安で頭が埋め尽くされそうなミサラに対し、リアナはそこからさらに切りだす。


 「そう。では質問を変えることといたしましょう。お姉さまは本当はどちらに? 答えてくだされば、本日の虚言は不問といたしましょう」


 ビクリ、と、ミサラの両肩がぶるった。完全に嘘だと見抜かれてしまっている。そもそもミサラは正義の旗の下で生きてきた生粋の騎士でもある。正々堂々、仁義仁愛を強く重んじる真っ直ぐな彼女は、正直、嘘をつくのがとても苦手であった。


 けれど、ここで折れてしまってはアーリナがどこで何してるかまでを猛追されて、屋敷全体を巻き込んでの大騒動に発展しかねない。


 『実は、王都にパフェを食しに……』だなんて、一切理解を得られない事実をいったところで、これまた偽証の罪が積まれてしまう可能性も──いえ、可能性どころかほぼ確実。


 (マズい……。慎重に答えねば……)


 ミサラは愛想笑いと世間話で時間を稼ぎ、あくまで冷静に、改めて脳内を最大稼働(フルカイテン)させる。(しのぎ)を削って出来得る限りの最適解を絞りだすために。


 「申し訳ございません。実は、現在アーリナ様はこの屋敷からは離れておられます。私のほうから授業にて課題を出しておりまして」


 「ふう、やっぱり。それでその課題って?」


 「はい、弓の修行を。名手であるバスケスさんへお願いしております。リアナ様に余計なご心配をおかけ致したくなく、つい誤魔化すようなことを。本当に面目次第もございません」


 「いえ、それはいいのです。では、どちらに行かれているのかくらいは、把握できておりますわね?」


 「もちろんです。ただ、いくつかの場所を回られるとのことで、どの順序かまでは──」


 続くミサラの話に、リアナは納得したように相槌を打った。この様子に安堵したミサラは、ようやく食事の準備に取りかかった。





 その後食事を終え、自室へと戻ったリアナ。悶々とした面持ちで窓際に置かれた机に近づくと、バサッ、と勢いよくカーテンを開けた。


 「まだ私に、嘘をついてる……」


 窓から覗いた夜空に不服を表明、そのまま椅子に尻餅をつくかのようにドスンと腰を下ろした。窓硝子に映る自らの瞳に、リアナは独り言ちる。


 「いくら信用できるからといって、あのミサラが、お姉さまを他人になんて預けたりするものでしょうか……。素直に納得なんてできないわよ」


 ミサラが我が家の使用人となって二年がすぎ、三年目に入った。その間、彼女は付きっきりでアーリナの身の回りの世話に勤しんでいる。執事のレインがリアナの教育係でもあるように、アーリナにとってはミサラがその立場なのだ。


 それに両親はほぼアーリナには干渉しない。故に保護者としての役目も、ミサラ一人が担っているといっても過言ではない現状。不用意に他者がお姉さまに近づこうものなら、私にも伝わるほどの殺気を迸らせていたし、それに何より、彼女の愛は異常──リアナはより深く眉を顰める。


 「忠誠心だけじゃない……。あれはきっと愛よ。もはや母性すら感じられるわ」

 

 とても僅か7歳の考えとは思えない彼女の独り言だが、リアナは多くの大人たちでも読み切れないほどの読書量を誇っていた。


 彼女の部屋を見ればそれは一目瞭然で、何列にもわたる書棚が鎮座しており、そこには魔法に関するもの以外にも様々なものが並んでいた。戦記物に歴史、果てはまだまだお年頃には程遠い恋愛に至るまで。


 だからこそリアナは、ミサラの行き過ぎた忠誠心『愛』についても深ぼって考えることができていたのだ。


 「でも……。はっ?! もしかしてもしかすると、お姉さまはミサラの実子? それであんなに愛おしい目を──と、なりますと、お父様の愛人ということに……」


 彼女はその本好きゆえにドロドロの愛憎劇までをも読み漁っていた。寧ろ好物。とても7歳が抱いていい感情ではないところだが、


 「あっ、今ちょうちょが飛んだ! 綺麗だったなあ~。黄色い羽根だったし、いいことあるのかも」


 こんなところは、まだまだ子供らしいリアナであった。


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