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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第56話 王都も屋敷も想定外

 耳を穿つほどの金属音を響かせ、刃を交えて火花を散らすクラウスと騎士たち。意外にもクラウスの実力は一対二を物ともせず、華麗な剣戟を振るっていた。


 騎士二人が次々と斬りかかるも、受け流しからの反撃に加え、剣の柄を巧みに使った打撃によっても彼らの顔を歪ませた。


 「ぐっ?!」


 鼻から血を流し、手の甲で拭う騎士の隣で、もう一人が「ちっ」と舌打ちをして唾を吐き捨てる。クラウスは間近に見た兜から覗くその眼で、あることに気づいた。


 「へえ~、そうか。やっぱり貴方方は不満が溜まっていたのか。ラーセム小隊長に、マリク小隊長」


 王国騎士であるラーセムとマリクはいずれも小隊を率いる長であり、クラウス自身も所属部隊は違うとはいえ少なからずの接点があった。


 とにもかくにもこの二人、一体何が気に食わないのかわからないが、滅多矢鱈(めったやたら)に部下に対してあたり散らす横暴さ。上官としては最低で、周りの騎士たちからの評判は(すこぶ)る悪い連中だった。


 その正体を見透かされた彼らは、剣を構えるクラウスに向かって大きな声で笑い飛ばした。


 「アハハハハ、バレちゃあしょうがない。だがまあ、お前はここで死ぬ。知っちゃいけねえことにズカズカと踏みこみやがって。恨むんなら、手前自身を恨め」


 「ったく、面倒だなあ。あの追放された魔剣士に憧れただけの坊ちゃん風情がよお、我ら叩き上げの小隊長様に向かって偉そうな口を。もう二度と開けぬよう、俺の剣で切り取ってやるよ」


 到底、国を守る騎士の言葉とは思えないほどの愚劣さが零れる。けれどクラウスは、彼らの挑発の中でもほんの一部にだけ激昂していた。そう、追放された魔剣士、この言葉のみに。


 「おい貴様ら、ミサラ様は決して追放されたわけじゃない。あんな清らかで強く、正義を貫いた騎士はあの方をおいて他にいない。僕が必ず、ミサラ様を騎士団に連れ戻してみせる」


 「おいおい、コイツやべえぞ。勝手にミサラに恋い焦がれて、頭が逝っちまってやがる。ああ~、気持ちわりい」


 「これから死ぬヤツの遺言がそれかよ」


 「──黙れ」


 クラウスはスッと腰を落とすと、強く地面を蹴って正面に立つラーセムの懐へと飛び込んだ。そしてすかさず水平斬りを放ち、剣を握ったラーセムの片腕を斬り飛ばした。


 「ぐ、ぐぅあああー!」


 血飛沫とともに悲鳴が舞い、返り血で頬を染めたクラウスはそのままラーセムの胸を一突きした。この一瞬の出来事に、マリクが大きく目を見開くもすでにクラウスの姿はなく、


 「ミサラ様を陥れる者は、この僕が断じて許さない」


 背後から怒りの声だけが置かれ、振り向いたときにはもう遅し、マリクの顔は体を離れて高々と上り、そのまま地面を転がった。


 「はあ~、もっと早くこうしていればよかったか。国を汚す罪人どもめ。さてと、あの怪しげな壺も証拠として押さえておこう」


 炎を照り返し、朱色を帯びた金色の髪。クラウス・ジルモアは若くして、剣技の才に恵まれた実力者でもあった。しかし、その名が騎士団においては金髪でしか知られていないのも、彼自身がその力を隠しているため。


 理由は単純で、幼い頃に命を救ってくれたミサラに憧れ、彼女と同じように力をひけらかすようなことを避けていたためだ。それに王国騎士団においてはまだまだ雑用係で、伝令などの直接武力を行使する場に身を置くことがなかったから。


 土色に光る瞳で壺を覗き込んだ彼は何を思ったのか、


 「あ……、だ、だめ……」


 誰が見ても明らかに立ち上る毒の気体を、無防備にも吸い込んでしまっていた。意識が遠退く中、クラウスが最後に目にしたのは、大きな弓を担いだ男と小さな女の子の姿であった。



 ◇◆◇



 「ただいま戻りました。ミサラはどちらかしら?」


 フィットリア領クルーセル家の屋敷に一人の少女が入っていく。二階の通路で床掃除をしていたミサラは、「リ、リアナ様?!」とその声に驚きを隠せず立ち上がった。


 リアナはそんな彼女を見て、顔色一つ変えることなく平然と口を開く。


 「マグークス領での予定が少々長引きそうですので、私だけ先に戻ってまいりました」


 「そ、そうだったのですか。ですが、御一人でお戻りになられたのですか?」


 「いえ、レインに送っていただきました」


 「レイン? それで彼女はどちらに?」


 「ええ、レインには執事としての職務がありますのですぐに戻らせました。屋敷には貴方もおりますから父も何も言いません」


 ミサラはリアナとの話で、ほんの少しの安堵感を覚えたものの長続きはしなかった。それもそのはずで、屋敷にいるはずのアーリナが王都に行って不在という大問題を抱えているのだから──。


 「ところで、お姉さまは屋根裏? 誰もいない日中くらい、下に降りてくればいいものを」


 えっ、どうしてそのようなことを──ミサラの頬を冷たい汗が滴り落ちた。アーリナ不在という、ダルヴァンテからも絶対に目を離すなとの命令に背いておきながら、そこに危機的拍車をかけるリアナの心変わり。アーリナのことを『お姉さま』と呼んだのも驚きだが、何より、これまで全くの無関心だったにもかかわらず明らかに気にかけていらっしゃる。


 本当なら喜ばしいことなのに、現状、それを素直に受け入れられないミサラ。彼女は本心を隠して自らの心を殴打していた。


 「そ、そうでございますね。リアナ様、マグークス領での滞在が長引きそうとは、御戻りの目途のほうはついておられましたか?」


 「ええ、たしか二週間ほどはかかるかと──」


 「にっ、二週間!?」


 これには冷静沈着なミサラも思わず唸ってしまった。リアナは不思議に眉を顰めたが、いつものようにそっけなく、


 「とにかく、長旅で疲れましたわ。何かお食事をお願いしてもよろしいでしょうか?」


 と願い出て、いつものテーブル席に座る。それからさらに動揺で満たされたミサラに向かって、


 「お姉さまも一緒にどうですか?」


 とつけ加えた、ミサラ最大の窮地である。


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