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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第55話 動く戦火の波

 ガスッ──勢いよく振るった短剣が瓦礫に鈍く突き刺さる。石化していたザラクの体は、バジリスクの唾液を飲ませたことでたった今解除された。


 「はっ、くそっ、外した?! ど、どこ行きやがったんだあの蛇は!」


 だがそんなこととは露知らずの彼は、自身に降りかかった災難を何一つ憶えていない。ザラクは眉間を険しく、キョロキョロと蛇の姿を探しはじめた。


 「ねえ、蛇じゃないよ。()()()って名前をつけたの」


 彼の顔を覗き込み、アーリナがニッコリと微笑む。その後ろでは、顎を外したかのようにポカンとしたガトリフとバスケスの姿もある。


 アーリナは何ら彼らに説明することなく、バジリスクを斬ったそのままの流れで、ザラクの救助に向かっていたのだ。


 「はあ~? んだよそのバジコってのは。お前、恐怖で頭がいかれちまったか?」


 「はぇ……、い、いかれてなんかないわよ! このクルクルモジャ男のこんちきしょーのくせして、まずは私に感謝しなさいよ、助けてあげたんでしょ!」


 「助けた? は? お前、さっきから何言ってっかわかんねえや……。ったく、やっぱいかれてんじゃねえか。んなことよりよ、さっさと蛇をだせ」


 「うるさいうるさいうるさーい! あんたこそ、頭爆発してんじゃないの?」


 とどまることを知らない底辺の応酬。あまりのくだらなさに、さすがのガトリフとバスケスも正気を取り戻して「いい加減にしなさい!」と、声を揃えて割って入った。アーリナとザラクがキョトンとするほどの大声を鳴らして。


 「なあ嬢ちゃん。一体どういうことか、ちゃんと説明してくれ。何が何だかサッパリだ」


 「んだんだ。おいもガトリフ氏に賛同するっぺよお。アーリナ様、話してくれっぺ」


 疑義に眉を顰める彼らだが、その背後から、燃え盛る火の粉が風に流れてこちらまで届こうとしていた。ハッとしたアーリナは「話は後よ」と短く切り、戦いの声が響く空の下へと走りだした。


 「いいから行くよ! 悠長にしてる時間なんてないでしょ、早くこの争いを止めないと」


 お前が言うな、と、男ども三人は目を眇めた。


 「ったく、最後まで誤魔化しやがって」「たしかにな」「今はそっちっぺ」


 それぞれが納得のいかない顔を見合わせ、渋々と彼女の背を追い走りだした。



 ◇◆◇



 「はあ~、まったく。あの蛇はどこに行ったっていうんだ?」


 「知るかよ。所詮は魔物、制御なんて初めからできるわけがなかったんじゃねえのか?」


 「それな……、ってか、俺たちゃいつまで、この毒壺を持ち歩いてりゃいいんだよ。そのへんの死体にでもぶっかけときゃあいいんじゃねえのか?」


 「ば~か、アザハル様も言ってたろ、生きてるヤツにかけないと死体はすぐに跡形もなく溶けちまうって。それに毒でやられて呻かせてこそ意味がある。偽善に塗れた騎士連中や民どもに、魔物の恐怖を植えつけるためにはな」


 背中に大きな壺を背負った二人の騎士が、何やらぶつくさと不満を落とし戦火の中を歩いている。彼らは民の痕跡を探しながら、転がる死体の顔をその足で踏みつけていた。


 「あ~あ、めんどくせえな。それよりどうする? このまま宛もなく彷徨っててもよお、早く生きてるやつを見つけなきゃ、俺たちが毒を撒き散らしたと思われちまうぞ」


 「まあな。でも、間違いじゃねえだろ。しかし、お前もさっきのヤツ見たろ?」


 「ああ、皮膚がドロドロだったな。いったいどんな強毒ならああなるのか。あ~あ、先遣でいけばよかったよな。そうすりゃあ、もう事はすんで今頃ゆっくり湯船にでも浸かれてたのになあ」


 彼らはアザハルの命を受けた王国騎士。バジリスクの被害にみせかけるために毒をばら撒く別動隊である。しかし彼らの思惑どおりとはいかず、求める民の姿はどこにもない。流れる黒煙と肌を火照らせる炎と瓦礫、辺りに転がる偽装の石像と人工毒を被った惨たらしい遺体。


 ようやく見つけたと思っても、煙に巻かれたとか倒れた家屋で圧死したとか、使い物にならないものばかり。ほとほと困り果てていたところで、騎士の一人があることに気づいた。


 「お、おい! あれを見ろよ」


 物陰に隠れ、彼らはその方角に目を細めた。そこには、民たちを先導する一人の騎士の姿があった。


 「ん、アイツ、みたことがあるな。たしか……」


 「ああ、ありゃあ、クラウスじゃなかったか? あの金髪は間違いないだろう。なんだったか、元三煌聖(さんこうせい)のミサラに憧れてたガキだろ」


 「言われてみればそうだな。金髪っていやあ、騎士団じゃ今やアイツくらいしかいねえか」


 騎士たちはクラウスを見て、悪意ある笑みを浮かべた。これでやっと肩の荷が下りる。騎士一人を始末すれば、大人数の民たちにこの毒液をばら撒けるし証拠も残らない。


 彼らは何食わぬ顔で「お~い」と、大手を振ってクラウスたちの元へと駆けだした。だが、その声と姿に、クラウスは逆に警戒した。彼らは敵なのか、それとも味方なのか?


 眉を顰め、近づく騎士らに向かって「そこで止まれ」と声を張った。この災厄には、我らが副団長のアザハルが絡んでいる──クラウスはここに至るまでに掴んだ情報からそう推測していたのだ。


 民たちを目前にして制止を受けた騎士二人は、企みを隠すように素直に従い、離れた場所から口を開いた。


 「なあおい、どうしたんだ? 俺たちは救援に来たんだぞ」


 困惑した声色で訴える騎士を尻目に、クラウスはその背の民たちに「このまま先に進んでください」と小声で指示を出す。


 クラウスは静かに腰に佩いた剣を抜いた。彼らが敵だと確信したのだ。騎士たちがいくら訴えようとも、その背から立ち昇る悍ましい霞はその声を嘘だと教えてくれている。眉間に深く皺を刻み、その眼光は鋭く眼前の敵を捉えていた。


 「ふう、やれやれ……」


 これには騎士らも説得を諦めたのか、溜息が零れる。がしかし、その場に毒壺を下ろした二人は、目にも止まらぬ速さでクラウスを挟んで位置を取り、剣を構えて跳びかかった。


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