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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第52話 決断

 「お、おい……どうなってんだよ、こりゃあ」


 ザラクは、キャッキャウフフな彼女らの笑顔を見て、呆然とした声音を置いた。彼の脳内にも、ある程度の想定はあった──バジリスクに近づき、何らかの行動を起こしているかもしれないと。


 だが、ザラクの目に映る光景はその予想を遥かに超えたものだった。彼は頭をもしゃもしゃと掻きむしり、「アーリナ!」と大声を上げた。


 「ぎしゃしゃあー!?」


 その声で真っ先に驚いたのは、彼女ではなく蛇の方だった。アーリナの首から体を伝ってするりと離れ、再び瓦礫の裏へと逃げ込んでしまった。バスケスは「おめえよお」と睨み、バジリスクの後を追う。


 「ちっ……」


 これに舌打ちをしたザラク。眉間を険しく、その後を追って足を踏み出したが、行く手には腕を組んだアーリナが立ちはだかった。


 「ザラク、いきなり何よ! せっかく出て来てくれたのに、また振り出しに戻っちゃったじゃない」


 彼女に対し、ザラクは「そこをどけ」と詰め寄る。


 「さっきも言ったよな? アイツは魔物なんだ。野生はいつ襲いかかるか分からない。心が通じ合える相手ではないんだぞ」


 「魔物魔物って、口を開けばそればっかりね。だったらアンタの師匠だって同じ魔物じゃない」


 「ったく、うだうだと五月蠅えヤツだな。モーランドはいいんだよ。意思疎通もできりゃあ、その何だあ? 神の僕、みたいなもんだろ? とにかくどけ、逃げられちまう」


 ザラクは止まらなかった。アーリナの制止を振り切ってバスケスを払いのけると、バジリスクの潜む瓦礫の裏へと回り込んだ。


 「ま、待って!」「わ、わっぱみゃあ」「ぎっ、ぎしゃしゃあー!?」


 アーリナたちの声に、バジリスクの驚きの声が重なる。けれど彼は躊躇することなく、


 「悪いが終わりだ」


 壁の向こうに両腕の短剣を振るった──がしかし、次の瞬間、


 ピシッ、ピシシ……。


 ザラクの体が鼠色に染まると、時が止まったかの如く動きを失った。


 「はぇ……、ザ、ラク?」「お、おめえ……」


 バスケスが地面に尻をついたまま固まる。アーリナの目には明らかに石となった彼の姿が映りこんでいた。そしてその足元をスルスルと抜け、バジリスクがこちらへと向かってくる。


 「ぎ、ぎしゃしゃ?」


 アーリナは咄嗟に拳を構えていた。蛇の後ろでザラクが石となって佇んでいる光景に、思わず身構えてしまったのだ。バジリスクは鎌首を不思議そうに傾げながらも、ゆっくりと彼女のところへ近づいてくる。


 「こ、来ないで!」


 バジリスクは、その拒絶の声に体をビクリと止めた。丸く目を見開き、恐る恐るアーリナの顔を見上げている。かたやアーリナは、仲間が石化した衝撃によって、心が通じ合えそうな感覚が一瞬にして蒸発していた。


 確かにザラクの言うとおり言葉も通じず、意思の疎通だって図れない相手なのかもしれない。でもそれでも、どこかあの瞳には、形容しがたい優しさすらも感じていた。邪悪でない何かを──。


 けど、今は違う。アーリナが奥歯を噛み、不安な眼を蛇に向けていると、ポーチの中から呼ぶ声が聞こえた。


 「アーリナ様、どうか落ち着かれてください。あのバカ弟子はまだ生きております。それにあのバジリスクからは殺意というものをまるで感じませぬ」


 彼女の指示に従い、顔を表に出すことなくポーチの底から声だけを投げ出したモーランド。これにはラドニアルも同調し、


 「この牛の言葉は正しい。お前の意志はどうしたいのだ? 殺すのか、それとも生かすのか。未だ答えが見つからぬようだが」


 と続いた。


 「だ、だってさ、私だってあの子を助けたかったけど……、でも、ザラクが石になっちゃったんだよ? 生きてるっていっても、もう戻れないんでしょ?」


 「いや、そうでもない。あの蛇の唾液を、石となった奴の口元に注いでみよ。さすれば石化も解けるというものだ」


 アーリナが恐れる石化も、ラドニアルによれば案ずることはないという。そもそも彼女自身には斧神が宿っており、多くの術を限りなく無効化する。そのうえ石となったザラクを元に戻す手段すらも、ラドニアルはスラスラと提示した。


 彼女は呆気に取られた面持ちでポーチの中へと目を落とした。


 「なんという間抜けな面を。どうなのだ? あのバジリスクを、男どもの意に従い殺すか? お前の意志を訊いておる」


 「わ、わたしは……」


 アーリナはできることなら助けたかった。彼女が思い描く理想の世界には、魔物とも仲良くなれる道にだって繋がっている。モーランドを仲間にすることを決めたあの日から、同じ夢として線上に並んでいるのだ。


 「できることなら、仲良くなりたい。それに、この町だってあの子の仕業じゃないかもしれないでしょ? 訊いてたよね、石像の話」


 「無論。だが訊くまでもない。生ある者が石と化したのかどうかなど、予に分からぬはずもなかろう」


 「はぇ?」


 深刻と顔に書いて口を開いた彼女だったが、ラドニアルは平然と切って捨てた。


 「わ、分かってたなら最初から教えてよ。散々悩んでた私たちが馬鹿みたいじゃない」


 「ふん、馬鹿という認識は正しきものだ。是正する必要もあるまい。そもそも貴様が、『神の癖に』などと愚弄するから口を閉じていたまでのこと。自らの軽薄なる信仰心を恨むがよい」


 アーリナがポーチに憤懣した思いを落とし込む中、モーランドはあくまで冷静に、


 「アーリナ様、あまり悠長なことは言っておられませぬ。まだ遠くではありますが、戦いの音は続いております。どうか、お早い決断を」


 と進言し、顎を引いて会釈した。


 「わ、わかったわ。いい? 私はバジリスク(あの子)を連れていくわ──って、思ってるんだけど、どうすればいいかな? 普通にポーチに入れる?」


 「モハッ?!」「否!」


 即決した彼女の声に、神と牛は困惑の声を空へと打ち上げた。


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