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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第51話 状況把握

 一方その頃、


 「ねえ、怖くないからこっちにおいで」


 アーリナは瓦礫の影に身を隠す小さな蛇に声をかけていた。一緒にいたバスケスは「アーリナ様、おっかねえっぺ、あん蛇は」と、肩に合わせて声まで震わせる。


 彼女たちが見つめる先には身を縮めたバジリスクの姿。アーリナはどうしてもあの蛇が、町をこれほどの悲惨な状況にまで陥れたとは思えなかった。


 とはいえ、初めはそうかもしれないと恐れていたのもまた事実。目にした惨状を思えば、恐怖に拍車がかかっていたというのもあるし、何より、ガトリフからの事前情報によるところが大きいのだろう。


 けれど今となっては、怯えながら此方を見つめるその蛇の眼からは、凶悪どころか清廉潔白(せいれんけっぱく)すらも感じられるほどの穏やかな印象を受け取っていた。


 「あれ? そういえば、ない……」


 彼女は同時に違和感を覚えた。蛇の首元にあったはずの魔石付きの首輪がないことに意識が傾いたのだ。アーリナは急ぎ、バスケスに「ここにいて」と告げて、バジリスクがザラクたちと交戦していた場所へと駆けだした。


 目的の地点は目と鼻の先。彼女はすぐに「あった!」と、地面に落ちていた大きな首輪を見つけた。それはまるで紫水晶のような魔石がついた鉄製の首輪で、未だ周囲を瘴気で満たしていた。


 「むう~、さすがに持ってはいけないかあ。私よりも大きいし、紫の煙で目が痛いし」


 アーリナは距離を取って眺めることしかできず、首輪の周囲をグルグルと回った。こうなったのはおそらく、バジリスクの体が想定を超えて小さくなりすぎたから──その結果、自然と外れてしまったのだろう。


 (他に外れる理由なんてないよね? バジリスクのことな~んも知らない、相当無知なヤツがやったのかも)






 暫し思案した後、アーリナがバスケスの元へと戻ると、


 「ほんらあ~、ダメやっぺえ~、そらあくすぐったいっぺえ~」


 「ぎしゃあ、ぎしゃしゃ」


 この短時間のうちに何が起きたというのか、バジリスクはすっかり彼になついてしまっていた。あれほど瓦礫の山から離れようともしなかった蛇が、無邪気なまでにバスケスと戯れている。


 がしかし、彼女の接近に気づいたバジリスクは、ビックリ仰天で蛇眼を剥いてスルリとバスケスの背後に隠れた。そして瓦礫の影からよろしく、アーリナの顔を恐る恐る覗き見る。 


 彼女は、ふう、と、一息つき、


 「大丈夫、私は貴方を傷つけないわ」


 そう落ち着いた声をかけつつ、静かにゆっくりと、バジリスクの元へと近づいた。バスケスも愛おしむ目を落とし「安心安全だっぺ」そう声を重ねた。


 一歩ずつ距離を縮め、アーリナはバスケスの眼下に腰を落とした。それから手のひらを見せつつ頬を緩め、バジリスクの頭を柔らかく擦った。


 「ほら、大丈夫でしょ?」






 同時刻、ガトリフとザラクは捕えた騎士らを建物の軒下へと並べていた。 


 壊れた建物ばかりが目立つ中、どうにか残っていた一軒。そこに引きずり込んだガトリフは、腰に佩いた小さなナイフを手に取り、


 「これは獲物を絞めるために使うものでな、狩りでは必需品なんだ」


 と、冷淡な声音を騎士たちの傍らに置いた。


 王国はこの町を潰し、一体何を企んでいるのか──それを訊きだそうとするガトリフだったが、騎士の一人が「ふざけるな!」の声で反抗した直後、その指の爪を一枚、ピッと飛ばした。


 「ぐっ、ぐああああー!」


 痛みのあまり悲鳴を抑えきれなかった騎士に対し、ガトリフは動じることなく冷たい視線を落とす。彼がここに騎士たちを連れ込んだのは、紛れもない拷問のため。愛する町を破壊され、数多の命も失われてしまった。


 そんな人の道に(もと)るさまに、民を守るべき王国騎士団が関与しているなど言語道断──ガトリフの怒りは頂点に達しようとしていた。


 過去数十年という長きに渡り、ガトリフは王国のために尽くしてきた。にもかかわらず、必死の想いで守り抜いた国からは恩を仇で返される始末。役人どもが揃いも揃って、我が故郷であるドレイク自治区を今まさに無きものにしようとしているのだ。


 ザラクが「そこまでしなくてもよお」と口を挟むも、彼の怒りの眼に圧倒され、それ以上は言えなかった。ガトリフは「話せばこれ以上の痛みはない」と酌量の余地は与えているし、応えるも応えないも彼らの自由意志なのだ。ただそう思ってはいてもザラクには耐えられそうになかった。


 「おっさん、ここは任せるわ」


 彼は一言言い残し、先にアーリナと合流することにした。ここからどれほどの凄惨な拷問が行われるのか、ガトリフの険しい表情をみれば自ずと予見できたから──それに一つだけ不安がある。




 数分後、ザラクの不安は的中した。彼が戻ると、アーリナの首元にはあの蛇が巻きついていたのだ。あたかも襟巻き(マフラー)のようにして──。


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