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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第48話 アザハルの陰謀

 ザラクが指し示した石像の足元には、明らかに手彫りで『アザハル』と刻み込まれていた。アーリナはそれを見て「はぇ?」。既知の感覚が脳内をグルリと一周したが、すぐさま記憶は呼び覚まされた。


 「アザハルって、王国騎士団の副団長やってるやつじゃん!」


 これにはザラクも「何でお前が知ってんだよ」そう目を細めて窺う。


 「だって、ミサラが言ってたもん。でも、何でわざわざ名前を?」


 「そんなん知るかよ。つうか、今はそれより、オッサンのとこに戻ろうぜ。いくら強えといっても、魔物相手に一人じゃ辛えだろ」


 たしかに、今は戻ったほうがよさそう。一先ずの目的は果たしたし。それに、あのバジリスクが子供だと言ったところで、脅威であることに変わりはないはず──アーリナは、ザラクの目を見て「戻ろう」と告げた。


 かたやバスケスは、騎士の首根っこをグイッと掴み持ち上げて、


 「そんならあ、ここはおいに任してくれっぺよお。こやつを逃がすわけにもいかんだらあ」


 と、意気軒昂に声を張った。


 アーリナとザラクは、その意志に相槌を返して場を後にした。



 ◇◆◇



 アーリナたちが謎の石像を発見する前、王城ではある異変が起こっていた。


 「この石像は何なんだ……」


 王国騎士クラウス・ジルモアは、ドレイク自治区がバジリスクの襲来を受けている報をたった今、上層へと伝えたばかり。彼は副団長アザハルの命を受け、その周知に動いていたが、城門付近に止まる複数の馬車が気になり、その荷台を覗いていた。


 そこへ、数名の騎士らの声が聞こえてきた。クラウスは咄嗟に荷台の奥へと身を隠し、近づく者たちの会話に耳を傾けた。


 「さて、そろそろ運ぶか」


 「そうだな。あの感じだと、先遣隊も上手くやってるよな?」


 「まあ、毒液をぶっかける役より、これを町中に転がしゃいいんだろ? 俺たちのほうが籤運(くじうん)よかったな」


 何を上手くやっているのか、話の内容がよく掴めないクラウスだったが、そこはかとない不穏を抱いた。特に毒液にはじまり、石像を転がすというくだりに──。


 そして彼の予感は現実のものとなる。一人の声がその名を口にしたのだから。


 「しっかし、俺たちもこれで、この国ともおさらばできる。アザハル様万歳だな」


 クラウスは自身の抱いた猜疑心が正しかったことを、ここで改めて悟った。本当なら、総力を結集して救援に向かうべき事態のはず──にもかかわらず、あの男はたったの一団を送るのみに留めた。


 その理由も明白。邪魔が入らぬよう、自らの欲に同調した者たちのみを送り込み、国難に陥れる何かを謀ろうとしている。王城と地上を繋ぐ橋を切らないのも、まだその企みの途中だから──クラウスは義憤に駆られながらも、今何をすべきかに焦燥感を覚えていた。


 「何かないか、僕にできることは……、そうだ、せめて副団長(あの男)がやったという証拠を」


 彼の乗った荷台には、10体ほどの石像が積まれていた。クラウスは短刀を手に、気づかれぬよう、その石像の足元に名前を彫った。


 王国騎士団副団長、アザハルの名を。



 ◇◆◇



 アーリナたちがガトリフの元に戻ると、戦いは更に激化していた。バジリスクの体、特に首元で不気味に光る魔石からは、悍ましい量の紫煙が溢れ、蛇をその揺らぎの中に包み込んでいた。


 ザラクは「オッサン!」と、声をかけつつ、ガトリフの隣に並んだ。


 「君たち、戻ってきたのか」


 「ああ。俺たちがオッサン一人残してトンずらこくとでも思ったのか? なあそれより、さっきより状況が悪くなってねえか?」


 「まあ、な。だがそこまでの脅威はない、あのバジリスクにはな」


 「は? 今、状況が悪いって言ったばっかだろ」


 ザラクの見立てどおり、現状は悪化の一途を辿っている──がしかし、それはバジリスクそのものに要因はなく、首元に光る魔石にあるとガトリフは言う。


 「あのバジリスクはまだ子供と言っただろう? 毒性も弱く、それに石化能力も芽生えちゃいない。だがな、あの魔石が放つ瘴気は厄介だ。あれのお陰で迂闊に近づくこともできない」


 「ったく、よくわからねえが、アイツは石化もできねえってのか? そっか、じゃあ余計にきな臭くなってきやがったぜ」


 「はんっ、君の方こそ、何を言っているのか分からないな──ともかく、来るぞ!」




 一方、アーリナは彼らから少し離れた場所で、ポーチに潜むラドニアルとモーランドに語りかけていた。


 「ねえ、さっきの話訊いてたよね? どう思う?」


 「なんだ、そのような神妙な面持ちで。バジリスクに恐れをなしたのか」


 「違うよ、ラドニー。そうじゃなくて──」


 「ラドニアル様、おそらく、アーリナ様は石像の話をされているのでは?」


 「そうそう、さすがはモー君。ラドニーって、神の癖にその程度も察せないとはねえ」


 「ぐぬぬ、小娘があ。何でもかんでも、貴様のことを理解できるなどあるわけがなかろうが」


 何故、民を守るべき騎士が、戦わずして石像を町中に転がしていたのか。アーリナはその件について推論しながらも、繰り広げられる戦いに目を凝らした。


 「アーリナ様、それでいかがいたしましょう? 我が愚弟子もそう長くは持ちますまい。何しろ、まだ修行も始まったばかりゆえ」


 モーランドの読み通り、すでにザラクは大きく肩を揺らしている。全く以て口だけでかいヘタレよう。それに彼自身、相手の目を見て動けないという、大きな欠点も抱えている。先の先どころか、後の先すらも上手くは取れず、要は後手後手──と、思っていたが、


 「ふん、遅せえよ。お前の動き、()()()()()ぞ」


 バジリスクは鋭い尾で薙ぎ払い、続けて、ゴツゴツした顔面を突き出して、その表面から小石のような欠片を飛ばした。


 対するザラクは「余裕余裕」と、華麗な身のこなしで次々と避け、アーリナはこの光景に目を点にした。


 「はぇ……、何でそんなに動けてるの?」


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