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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第44話 バジリスク会議

 キュートリクスに続く二度目の伝説、バジリスク。その正体は巨大な蛇であり、ゴツゴツとした岩石の如き頭を持ち、身体は毒々しく染め上げられている。


 体表へと溢れ出す毒液は気化し、紫煙めいて揺らぎ、そこに触れるだけでも人は幻覚に包まれてしまう。無論、毒液に直接触れれば即(アウト)だ。


 身体を擦らせて進む度に、地面には毒が跡として残り、蛇本体のみならず、通った経路にまで気を配らなければならない。そのうえ毒を含んだ炎まで吐くらしく、聞けば聞くほど、なんとも厄介すぎる相手だ(これって駄目なヤツでしょ)。


 「騎馬隊が槍でヤツを突いたが、毒は槍を伝って人馬もろとも息絶えた。仕留めるには中距離以上の戦いを制する必要があるが、大きさも自在に変わる。厳しい相手なのは分かるだろう? 後は、そうだな──」


 ガトリフはバジリスクについて語り、毒以外にも目に警戒が必要だと念を押した。猛毒や蛇の鋭い牙が恐ろしいのは勿論だが、最も脅威なのは蛇眼だ。バジリスクのひと睨みで獲物はたちまち石化してしまう。


 はぇ? それってどうやって戦えばいいわけ?──アーリナは驚きに首を傾げる。身体は毒で触れられないし、蛇が通った道は毒に侵され通れない。 さらには毒炎まで吐いて、目で石化。これこそ無理ゲーってやつじゃん。


 「だがな、ヤツにも弱点はある。そう、イタチだ」


 ガトリフは言った、イタチの血をヤツに飲ませれば身体は内部から崩壊すると。それを訊いたザラクは、「んなら簡単じゃねえか」と鼻先を擦った。


 「だってそうだろ? あんたは腕利きの魔猟師。その魔矢にイタチの血を染み込ませて射抜けばいいだけじゃねえか。つうか、普通に魔矢は効かねえのか?」


 「ふう~、やれやれ。魔矢が効けば簡単なんだがなあ。さっきも言ったが、騎馬隊が直接槍で突き刺したといったろう? それでも貫けねえんだ。毒の膜が切っ先を滑らせちまうからな。魔矢だって同じことだ。いくら力を籠めて放とうとも、水面に向かって放つようなものだ。仕留めるには口を開いた瞬間を狙うしかないが、ヤツは勘が鋭い。そのうえ蛇そのものの大きさも変わる。遠距離から射るのは至難の業だ」


 「ねえ、私からもいい?」


 「ん?」


 彼らの話に、アーリナも声を挟む。彼女は「蛇眼のことなんだけど」と切り出した。


 「毒もだけどさ、蛇に睨まれたら石化って言ってたよね? まずそこにはどうやって対処してるの? 毒より何よりそっちのほうが問題でしょ」


 アーリナの疑問に、ガトリフも「そう、それなんだが」と応じる。一方ザラクは、「そんなん、目を閉じりゃあいいじゃねえか」と、自信満々の声音を置いた。


 「ザラク、あんたバカなの?」


 「ああーん?」


 「だって、目を閉じたらこっちも攻撃できないじゃん。それに睨まれたら石化なら、目を閉じたって意味ないでしょ?」


 アーリナとザラクがああだのこうだのと応酬を続けていると、横合いから「そろそろいいか?」と話を進めた。


 「バジリスクの石化は、獲物の顔を認識して初めて発動する。つまり、顔を見られなければいい」


 「ほらな! やっぱ、顔を逸らせばいいんじゃねえか」


 「はぇ? あんたはさっき、目を閉じればいいっていったじゃん」


 「まあまあ、話にはまだ続きがある。要は顔を隠すことだ。兜でも仮面でも何でも構わん」


 ガトリフの答えに、アーリナとザラクは「なるほど」な面持ちで納得する。以前本で読んだことがある。


 今回のバジリスクではないが、蛇女の姿をしたメデューサの場合、彼女の目を見たときに石化が発動するという条件が有名だった。顔を隠すという手間はあるけれど、それに比べればマシなのかも、と、アーリナは思う。


 かといって、勝利の方程式は導きだせず、たかだか石化を無効化したのみだ。猛毒の対処についてはどうすればいい?という疑問は拭えず。


 ガトリフの話では、騎士の槍を毒が伝ったとも言っていたし近距離で直接の攻撃は厳しい。でも待って、それってあくまでも普通の武器に限ったことよね? 神器ならどう? それこそ、私のラドニーなら──。


 アーリナは顎を引いて頬杖をつき、思案に眉を顰めていた。ザラクはそんな彼女を見て「何をさっきから黙りこくってんだ?」と、彼もまた眉間に皺を寄せた。


 「はぇ? ん~ん、何でもない」


 何でもなくはないが、この場で斧神の話を持ち出すわけにもいかない。まずはラドニアルに確かめなくては、猛毒耐性があるかどうかも大切よね。そもそも戦うことを許してくれるかどうかも微妙なところだし。


 「ひょっとしてお前、バジリスクと戦おうなんて考えてねえよな?」


 ザラクはアーリナの様子に違和感を覚えたのか、彼女の心を見透かす声を置いた。余計なことを、とアーリナは嫌々な顔をする。


 ここでそんな追求をしないで欲しい。ガトリフも「んんっ」って、妙に関心を示している。アーリナは違う違うと片手を振って、ザラクを睨んで、キッ、と歯噛みした。


 「ま、まあそうだよな、んなわけねえか……」


 これにはザラクも勘づいたのだろう、バチの悪い顔で、後ろ頭をポリポリと掻いた。とにかく今は部屋を借りて、そこで身内だけでの作戦会議が先決、アーリナがそう思ったそのとき、


 「で、出たぞお~! 魔物だあ~!」


 突然、外から大きな叫び声が上がった。こんなときに限って災難は降りかかる。噂をすればさっそくの魔物だ。


 一人の叫びから、尋常でない喧騒が巻き起こり、アーリナもザラクもガトリフも、ついでに居眠りしかけていたバスケスも、それぞれが険しい表情を携えて立ち上がった。


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