表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/53

第40話 いざ王都へ

 あっと言う間に時は流れ、王都バルムトへの出発当日がやってきた。


 ここ二日は本当に楽しみすぎて眠れなかったし、普段の三倍は長く感じたというのが本音だから、あっと言う間は言い過ぎかもね──アーリナは頭の中を幸せで満たしつつ、家族がマグークス領へ立ったのを皮切りに準備をはじめた。


 赤いチェック柄のワンピースに袖を通し、ポーチを下げるための青いベルトを腰に巻く。今回はパフェが相手、戦いなんてお呼びではない。もちろん皮製胸当て(レザープレート)なんて絶対に着込まないんだから。せっかくのパフェが、締め付けられた身体のせいで堪能できないなんて、全くの無意味(ナンセンス)だわ。


 とはいえ、布地だけでは大いに不安もある。そこそこの防御性能にパフェを食せる柔軟性の両立──そんな贅沢な悩みを解決する秘密兵器がまさしくこれ、魔製装備の軽量魔防着(ライトジャケット)なのだ。


 元々ミサラが愛用していたもので、本来はその名のとおり、上半身だけを覆うもの。しかし子供のアーリナにとっては、膝下まで隠れるほどの外套となってしまっている。要は、これ一つで彼女のほぼ全身に対しての防備ができる。


 それに素材も柔らかく、食事にだって不都合はない。万全とはいえなくとも、これである程度の魔法や斬撃は防げるとの話だ。

 

 アーリナは魔防着を羽織りつつ、ポーチを開いて中身を確認する。足りない薬は、ミサラからもらって補充完了。何があるか分からないし、とにかく入念な準備は必要だ。


 この間、モーランドとザラクも武器を研ぎ、身につける防具を思案していた。


 「ザラクよ、お前にもこれをやろう」


 「は? それって重いだろ?」


 「うむ。これはオリハルコンの粒子と鋼を、我が魔法によって結合したものなのだが察しの通り重量はある、ならば、これはどうだ?」


 彼は自ら身につけた鎧と同じものをザラクに差しだしたが断られ、今度は腰に巻いた毛皮の一部をむしり取り、魔法でちゃちゃっと腰巻を作った。


 「やだよ、だせえ。どこの部族だよ」


 「なんだモ?」


 カチンときたモーランドは、ザラクに対し強引に打って出た。そのような貧弱な装備でどうやって、アーリナ様の護衛を務めるというのか。抵抗するザラクを太い二の腕で押さえつけ、バタバタとする足を頑丈な毛皮で絡めとっていく。


 ズボンの上から毛皮を巻かれたその姿は、ザラクの危惧したとおり、どこかの部族そのものであった。


 「て、てめえ! この服、結構高かったんだからな。それをよお~、ココ見ろよ、破けたじゃねえかよ。つうか、やっぱだせえ……」


 それより何より、彼はお気に入りの服を傷つけられたことに激怒していた。モーランドにとってはただの貧相な布。しかしザラクからすれば、彼なりにお洒落にはこだわっていたのだ。


 腕まくりをした白地の上着。胸元にはワンポイントで髑髏のマークがあり、その口元が破れ、中の肌着が見え隠れしていた。さらにはズボンは濃い目のカーキ色で、ほぼ同色の毛皮も相まって、全体的に女性のスカートのように揺らめいていた。


 「モハッ、その程度でうだうだと申すな。お前はすばしっこいからな。せめて足だけでも守れれば、敵の目を攪乱するぐらいには使えよう」


 「ふ、ふざけんなよ。俺を逃げるための囮にでもするつもりか。ああもう、最悪だぜ」


 ザラクは腕を組み、そのまま床に腰を下ろした。お気に入りを汚され、彼は拗ねていた──がしかし、モーランドは「ほら、これでよかろう」と穴の開いていた服に手を翳し、一瞬にして元通りに修復した。


 「え、直った? す、すげえやモーランド、穴が塞がった……」


 「馬鹿者めが、我のことは師匠と呼べとあれ程言っておろうが。まあしかし、この程度ならば造作もないことだ。それにな、お前を思ってやったことだぞ。命を守るにはそれなりの防具というものが必要となる。たしかにこの鎧では人間には重かろう。だが、その毛皮ならば問題なかろうが。人間の美意識など、我には到底理解できぬが、防具を見繕えるまでは我慢することだ」


 こうして、どうにかこうにか出発の準備は完了した。そして王都への足も今整ったようだ。


 「アーリナ様、馬車の準備ができましたよ」


 「そんだら、失礼しますっぺえ。今日は皆さまを、わいが送迎するっぺさあ」


 ミサラとともに現れたのは、魔猟師のバスケスだった。というか、「え?マズくない?」とアーリナは瞬時に身を固めてしまった。だってそもそも、モー君だって普通に見られているし、それについ最近、揉めに揉めてたザラクまでここにいるんだもの。


 この様子にミサラは、「心配なさらずとも大丈夫です」とニッコリ。


 「ほええ~、こりゃあたまげたっぺえ。ミサラさんの魔法で、こげなことまでできるだっぺなあ~」


 ミサラは、バスケスの純なる心を嘘という絵具で塗り潰していた。いったいどんな話を言い聞かせたのかは分からないが、魔法でミノタウロスを手なづけたとか何とか、大体こんな感じだとアーリナは思う。一方、バスケスはザラクをぎりりと見るや否や、


 「おい、小僧めがっぺ。おめえは、許さんっぺ」


 未だに根深かった。彼の素直さゆえに、一度踏みにじられた善意は、捻じれに捻じれて戻すのも一筋縄にはいかないようだ──がしかし、これまたミサラが何とか言いくるめたのか、


 「だけんども、アーリナ様に免じて今は我慢するっぺよ」


 彼はその怒りを喉の奥へと飲みこんでいた。ミサラはアーリナのために、町の人々からいただきものをしたり、色々と上手くやっているようだが、その裏事情までは話してはくれない。まあ訊いたところで、サラッと表面上の受け答えをされるだけだろう。


 (ひょっとして、危ない橋、渡ってたりしないよね……)


 とりあえず、馬車はバスケスが準備をしてくれて、モーランドのことも含めて理解してくれている。ただし、ラドニアルの件についてはもちろん秘密とのことで、バスケスの目に触れさせるわけにはいかなかった。



 

 談笑の後、皆で屋敷の外に出ると、庭に大きな馬車が停まっていた。馬が八蹄、とか訊いて、「え?そんなに」って思ってしまったけど、要は二頭だった(蹄が四足分で一頭らしい……)。


 こげ茶色の車輪に支えられた荷台は、これまた木製の箱型となっており、外から中を窺い知ることはできない。モーランドには少し窮屈かもしれないが、それでも普段の極小サイズよりは多少の融通は利く。


 「さあさあどうぞだっぺ、アーリナ様。今日はわいの馬車も特別仕様だっぺさ。何せ王都への送迎だっぺからなあ」


 本日も凛々しい長い茶髪のオールバックに、風に靡く髭。バスケス自身もお出かけ気分なのか、パツパツの蒼っぽい、少し上品な上着を羽織っている。フンッと胸を張りでもすれば、一瞬にして張り裂けてしまいそう。彼の身体は屈強だから。


 アーリナたちはさっそく、バスケスが開いた入口から乗り込んだ。外から見ていたよりは中は以外と広々としていた。アーリナは皆が腰を下ろしたのを確認すると、小さな小窓を開いて、ミサラに「行ってくるね」と小声でいった。


 「んなら、出発っぺ」


 いざ王都、アーリナたちの新たな一歩、ではなく、パフェを食べる一大旅行が始まったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ