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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第38話 錯綜する想い

 アーリナの口から零れた言葉に、リアナの瞳孔が青白く照り返した。見られたのは一瞬の動揺。音を失ったかのような静かな世界に、リアナの声が儚げに降った。


 「き、嫌いって、あなたは何を言いたいわけ……急に」


 アーリナの目は、この返事に潜んだリアナの心を見透かしていた。だって本当に、ほんとうに私のことが大嫌いだったなら、こんな返事にはならないはず。


 彼女が私を嫌うなんてことは、初めから嘘であってほしかった。何か理由があって、冷たくあしらっている。私だって家族でありたいし、たとえ父や母に憎まれようと、せめて妹だけでも──アーリナは切なさで胸を締めつけ、唇をギュッと噛み締めた。


 (ねえ、リアナ、本当にあなたは私の敵なの?)


 アーリナは自らの直感を信じながらも、心で訊く。リアナは蒼い瞳を彼女から外し、ゆっくりと立ち上がった。そして背を向け、何も言わず、部屋の入口へと歩いた。


 「お姉さま、あなたはここで大人しくしているのです。よけいな詮索など無用。では、失礼」


 ガチャリ──入口を開け、リアナは階段にゆっくりと足をかけた。アーリナが「え、あ、ちょっ!」と慌てて声をかけたが、すぐにパタン──扉は降ろされた。


 結局、魔技大会に両親とリアナが出る、それだけがはっきりしたくらいで後のことは何一つわからなかった。いえ、もう一つだけ確信に変わったことがあるとすれば、リアナは敵じゃない。だって、私のことを最後に『お姉さま』って呼んでくれたから──アーリナは、ほんの少しだけ心が温かくなるのを感じていた。


 「モハ~、やれやれにございますなあ」


 「あの娘も、お前同様、頭が花畑のようだな、アーリナよ」


 柱の陰からひょっこりと顔を出したモーランドと、斧の姿に戻ったラドニアルは、互いに安堵の面持ちで口を開く。


 アーリナは妹と過ごせたことで悦に浸っていたが、彼らの声で現実に引き戻され、「あんたたちねえ~」と眉尻を吊り上げ、凄みを利かせた。


 「私の機転がなかったらどうなってたと思ってんの。まったく、あれほど静かにしててっていつも言ってるでしょ」


 「ふん、予はちゃ~んと、注意をしてやっておったろうが。モーランドにザラク、お前らが悪い」


 「モハハ、面目次第もございませぬ」


 「は? 俺まで悪者扱いか? そもそもお前らがうるさいから注意したのは俺だろうが」


 ラドニアルにモーランド、それにザラク。こんな狭い屋根裏にこの大所帯。これだけ聞き分けの無い者ばかりが集まれば、完璧にバレるのも時間の問題かもしれない。アーリナは、ふう、と大きくため息をついて肩を落とした。


 「とにかく、もう少し静かにして。こんなんじゃ妹にだって知られるのも時間の問題だし、今はまだ、見てて分かると思うけど、決して彼女と仲良しってわけじゃないの。もし見つかりでもしたら大ごとよ」


 アーリナの指示に、騒ぎの主犯である彼らはそれぞれに理解を示し、四人揃ってテーブルについた。


 「じゃあ、とりあえず、今後について話しておきたいことがあるの」



 ◇◆◇



 「よし、じゃあいいな?」


 「待ちなさい。最後は私! 単なる使用人は引っ込んでいなさいよ」


 ミサラはアルバスの町の北、ベルグリド商業街へと伸びる街道の入口にいた。彼女とレインは二人して、町の東西南北にある4つの結界石の魔力調整に赴いていたのだ。


 二人は町の南から開始(スタート)し、ミサラは東、レインは西側を辿り、ちょうど今、北の結界石で落ち合ったところだった。


 結界石とは、文字通り、魔法障壁を張るためだけに設計された魔石のこと。強大な魔力を籠めたうえで繊細な調整を施す必要があり、少しでも手元が狂えば、守るべき町が逆に消し飛びかねない大暴走を引き起こしてしまう。そんな厄介さも持ち合わせた代物である。


 ゆえに魔製装備鍛工学を極め抜いた一流の職人の中でも、ほんの一握りしか、この魔石を生産することが許されておらず、極めて希少──そして生産された後の魔石調整も、魔石学の高等知識を持ち合わせる必要がある。


 彼女たち二人もその例には漏れず、魔石学の教鞭をとることができるほどの高い専門性を持ち合わせていた。


 特にミサラは王国騎士団時代、一級魔石学士の称号にまで上り詰めた。それに対し、レインも負けじとミサラが使用人として仕えだした頃、急遽魔法学校にて単位を取得、そのまま認定試験も一発合格し、晴れての同列に躍り出た。


 何でも対抗意識を燃やすレインだが、この結界石調整においても例外はない。


 ここまでの調整数は、南はレインから始まったため、こなした数でいえば彼女が一歩リード。この勢いで北までこなせば、自分一人で三つをこなし、ミサラはたったの一つ、つまり何もしていないと同義、といった感じに蔑みの目を向けることができる。そんな少し捻じれた性格のエルフ、それがレインである。


 「そうか、なら勝手にするがいい。私も今日は疲れているからな」


 「ふふ~ん、何て使えない使用人かしら。や~っぱり、クルーセル家筆頭執事である、わたくしがいなければ、ダルヴァンテ様も困りますわよねえ」


 「ったく、勝手に言ってろ。そういえば、どこの誰だったか? 以前、調整で近くの物置吹っ飛ばした女は」


 「ああ~もううるさい! さっさと下がって、邪魔よ!」


 過去の出来事を蒸し返され、レインはドカドカと地面を踏んで、ミサラを追い払う。そこから気を取り直して、結界石に手を翳し、南から東西を結んで流れ込む魔力の帯を北の結界石の魔力と繋ぎ合わせた。


 「よし、これで完了。さてと、私一人でやったと同じね。貴方はた~ったの一つしかやれてないんだから。それはもうやってないのと同じことよ」


 レインは醜悪に唇の端を吊り上げ、ミサラは「はいはい、わかったわかった」と片手を振って相手にしなかった。

 

 「何よ、ふん、ですわね。同じ空気を吸うだけでも吐き気がするわ」


 そう言って舌をべえっと突き出し、普段の色気をかき消すほどの不快に満ちた顔を晒したレイン。


 「本当に、捻くれた女」


 呆れたミサラはその一言で切り捨て、一人すたすたとその場を後にしていた。




 ── ※以下、本編外読み物 ──


 ここまで登場した学問の一部を簡単に紹介。

 【魔法学】

 魔法の原理から発動に至るまでの知識及び技術を学ぶ。

 【魔石学】

 生活必需品から各種装備といった、ありとあらゆることに用いられる魔石の効果構造について学ぶ。

 【魔法薬学】

 主に自然属性を用いた薬品精製学であり、回復薬や解毒薬といった冒険者には欠かせないアイテムを作るのに必要な学問。

 【魔製装備鍛工学】

 魔石の合成及び転用、魔器の作成知識を学ぶ。また、魔製装備制作技師となるためには、魔石学及び魔製装備鍛工学の両方において高等知識を要求される。


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