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才能ありの妹を才能なしの姉が守ります ~魔力がなくても生まれつき、斧神様に憑かれています!~  作者: フカセ カフカ


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第31話 黙れ、我が愚弟子

 一方その頃、モーランドとザラクは口論の真っ只中にいた。終わりの見えない言葉の応酬。彼らの表情は互いに逆鱗に染まっていた。


 そんなとき、グサッ──肉片を突き刺すかのような嫌悪の音がその場に響いた。


 「おのれ、人間風情が。容赦をすればつけあがりおって。お前には躾というものが必要のようだ」


 「いやいやいやいや、ちょっと待て牛男! んなこと言ってる場合じゃねえ。頭だ、頭! お前の頭、矢が突き刺さってんぞ!」


 動揺するザラクの様子に、モーランドは疑いながらも、ゆっくりと自らの頭を撫でるように手を当てた。


 「ん? 何だこれは……。何かがある」


 「だから矢だよ、矢! 刺さってるって言ってんだろ。もう頭ごと麻痺してんのか」


 彼の言葉に続き、モーランドも「矢?」と首を傾げ、次の瞬間、


 「モハ~ッ?! 矢だと、我の頭に矢が刺さっとるではないか! 何故だ? 一体これはどういうことなのだ?」


 「んなこと俺が知るかよ、それよりどうすんだ、それ!」


 静かなダンジョン内がより一層騒然となった。大慌てのモーランドに、ザラクは「やべえぞ、やべえぞ」と喚き散らすも、


 「ともかく急ぐぞ。ここじゃどうにもならねえ。いいか? 絶対に抜いたりするなよ、出血が酷くなるだけだからな」


 と意外にも的確な声を彼にかけた。


 かたやモーランドは「ああ、わかっておる」と言いつつも、差し迫った表情で懐から古紙を一枚取り出し、血を滴らせながら目を走らせた。


 「おいおい、そんなの後で読めばいいだろ、早くしろよ」


 「まあ待て。たしかこの辺りに……。あった、これだ」


 彼はそう返しつつ、頭に刺さった矢の矢羽根を握り、突如として魔法の詠唱を行った。


 「風よ、その清らかなる癒しを我に与えよ、魔風癒(ヒールウィンド)


 「ま、魔法?!」


 モーランドの行動に思わず、声が上ずったザラク。彼の瞳に映っていたのは、深緑に揺らいだモーランドの手元から溢れ出す、木の葉状の風だった。


 その風は矢柄の周りをグルグルと巡り、深く突き刺さった矢じりに吸い込まれるようにして消えていく──するとその直後、刺さっていたはずの矢が押し出されて抜け落ち、地面にあたってコツッと小さな音を鳴らした。 


 モーランドはそれを見て、「モハ~」と安堵のため息をつき、額の汗を手の甲で拭った。


 「このようなことで、無様な死に様を晒すなどあってたまるものか。しかし、そう言えば忘れっておったわ。試練には、このような罠も仕掛けておった、モハハハハハ」


 「おいおい、牛男、本気で俺を殺す気だったのかよ……。って、その前にお前、魔法が使えんのか?」


 目の前で起きた現実に、ザラクは心を奪われていた。魔物が魔法を使うことなど、この世界では天地逆転、まさに有り得ないことだった。


 「まあな、少しは見直したか? そもそもこのダンジョンを守る結界、内部の仕掛けに至るまで魔法で生み出したものだ。とはいえ、人間のようには覚えきれなくてな。こうして紙に書いて必要な時に備えておる。大抵のことはスキルで事足りるからな」


 「魔物が魔法を使えるなんて……。やっぱ、牛男ってとんでもねぇヤツなんだな」


 「まったく、その牛男という呼び名、そろそろ止めてくれぬか。我にはモーランドという誇り高き名があるのだ」


 「はいはい、わ~ったよ。モーランド、これでいいんだろ?」


 「ち、が~う! モーランド()()だ。我は今を持って、お前の()()なのだぞ、敬って敬い尽くしても足りぬほどであるぞ」


 「なんだあ~それ、めんどくさ……。って、は? 今、なんて言った?」


 ザラクの目は、本日二度目の驚きに満ちていた。


 「うむ? 聞こえておらぬのか? 我はお前の師匠となる。そう言ったのだ」


 「は?」


 試練はまだ途中だった。それにもかかわらず、唐突にモーランドから弟子と認めることを伝えられた。ザラクは「い、いや待てよ」と眉を顰めた。


 「だって俺、まだ何もしてないぞ。魔物から逃げてただけで」


 「モハッ、もうよいのだ。我には分かる。ただ逃げておっただけでは、あれほどの傷を負うこともあるまいて。感謝するぞ、ザラク。我に代わってアーリナ様を守ってくれたことを」


 「俺はあんなガキ守ってなんて……。見てもないお前が、そんなこと分かるわけもねえだろ」


 ザラクは照れくさそうに頭をポリポリと掻いて視線を外した。モーランドはその様子に、口元をニヤリと悪戯に緩めた。

 

 「ほ~う? ミサラの回復魔法が終わるや否や、すぐにアーリナ様の元へと駆けて行ったのは、どこの誰であったか?」


 「だからそれは──」


 「もうよかろう。お前も相当な頑固者であるな。あの様子を見れば容易に想像はつく。ザラク、勇敢なる強き人間よ。我はお前を弟子とする」


 こうして、思わぬ邪魔とアーリナを巻き込んだ窮地によって、弟子認定試練は中断を余儀なくされた。けれども、モーランドは試練を完遂させることなく弟子として彼を認めた。


 仲間を守るという強き絆、己よりも遥かに強大な敵に立ち向かう勇気──たとえ肉体は鍛えられたとしても、表面ではなく深層に眠る信念まではそうもいかない。モーランドは彼の内面に心を強く打たれたのだった。


 「では、戻るとしよう。先に言っておくが、我の稽古は鬼厳しいからな。せいぜい覚悟をして、毎晩、神に祈りを捧げておけ」


 「フンッ、上等だ。やってやんよ、俺を誰だと思ってる、ザラク様だぞ!」


 「ああ、無論分かっておる。だからこそ言っておるのだ」


 「はあ? 何だそりゃ!」


 バシンッ!──からの、ゴゴンッ!


 「ぐうおああ~! て、てめえ~、手加減しろよ。この()()()()


 ザラクが勢いよく彼の背中を平手で叩くと、モーランドは振り向き様に拳骨を食らわす。


 「黙れ、我が愚弟子よ」


 山あり谷あり。タウロスロードと人間という世にも不思議な師弟関係が、ここから走りだそうとしていた。


ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。

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今後ともよろしくお願いいたします。

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