七色
自分で言うのも何だが、俺は顔がいい。
おかげで順風満帆の人生を送ってきた。この顔を最大限に生かした今の営業職も、自分には合っていると思う。
出世頭の俺に、職場の女の子たちはみんなやさしい。
唯一、経理にいる眼鏡の同期だけが厳しいが、彼女みたいに実力のある人は俺みたいな張りぼてに好感を抱かないのは当然のことだ。俺は気にしたりしない。
まさに我が世の春。そう思っていた。
だがある日突然、人生最大の問題が発生した。
尻が七色に光るようになったのだ。
わけがわからないまま医者に駆け込むと、
「原因は不摂生ですね」と言う。
「最近多いんですよ。ニュースで聞いてませんか? あなたの場合は不規則な食生活だし、お酒も飲み過ぎ、カロリーも刺激物も摂り過ぎ。便秘も慢性化しているし、お尻が悲鳴をあげてるんです」
呆然とする俺に、『健康的な食生活とは』というパンフレットを渡しながら医者は言った。
「この病気に薬はありません。とにかく食生活を改善してください」
体質のせいか、どういう食生活をしても太らなかったので、無茶な接待や、残業に伴う深夜の夜食を繰り返し、不摂生が行き過ぎてしまったようだ。
そこから俺は、営業課一のイケメンから、営業課一の笑いものに転落したのだった。
どんなに厚い生地のパンツやズボンを履いても、俺の尻からは常に七色の光が発せられるのだ。
ことが病気なので真正面から揶揄するヤツはいなかったが、自分が陰で「レインボー蛍」とあだ名されていることくらいはすぐに気づいた。
だが皮肉にも、それが逆に営業成績を向上させた。イケメンが尻を七色に光らせているというのはものすごく受けたのだ。
俺は、これはこれでいいと思った。
笑いものになっても、女の子たちをデートに誘って「ないでしょ」と鼻で笑われても、営業成績はいいんだ。だからこれでいいんだ。
そう思おうとした。
「いいわけないじゃないですか」
彼女にそう言われるまでは。
その夜、残業していたのは俺と、経理の眼鏡の同期、二人きりだった。
「これまでも、どんなにあなたが誠心誠意がんばっていても顔のせいだとか言われてたのに、今度はお尻が光るせいですか。そんなわけないでしょ。取引先はそんなに馬鹿じゃないですよ」
何がつらいのかも分からず、休憩所で缶コーヒーを飲みながらめそめそ泣いていた俺に、彼女はハンカチを差し出しながらそう言った。
今、俺は彼女と暮らしてる。近々、入籍する予定だ。
あれから俺は仕事で無理をすることを止め、食事にも生活パターンにも気を配り、彼女の通うジムにも通っている。
尻も治った。
「結局、レインボー尻、さまさまだなぁ」と俺が言ったら、
「認めたくはないけどね」と彼女が憎々しげに言うので笑ってしまう。
彼女はずっと俺のことが気になっていたけど、あの時まで話しかけられなかったそうだ。
本当に、世の中は何が福と出るか分からないものだ。