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日焼け止め

「日焼け止めは塗った?」


 日傘を差してとなりを歩く幼馴染が聞いてくる。


 今どきでも日傘を差して登下校する男子高校生は珍しい。


 私が返事がわりにあいまいな声を漏らすと、彼は待ってましたとばかりに日焼け止めを取り出して私に押しつけてくる。


 そして私の通学鞄を奪い取ると、


「歩きながらでいいから塗りなさい。耳や首の後ろも全部だよ」と言う。


 血筋からいって夜型の私は、なんでコイツは朝っぱらからこんなに元気なんだと思いつつ、てのひらに日焼け止めを出し、しぶしぶ顔に塗りはじめる。


 いつもは「はいはい」とおとなしく彼の言うことを聞くんだけど、今日はなんだか反抗的な気分になっていた。


「キライなんだよ、肌になんか塗るの。息ができない感じ」


「君は皮膚呼吸でもしているのか。カエルなのか。人類の一員なら鼻か口から呼吸しなさい。人間が皮膚呼吸で取り入れる酸素の量は肺呼吸の0.6%、なくても問題はない。君の場合も大差ないはずだ」


 十倍くらい反論が返ってきた。


 私は感覚の話をしているのだ。そういうことじゃない。


 そう言いたいが、さらに面倒くさい話をされるだけなので黙って日焼け止めを塗る。


 ちゃんと塗っているか監視していた幼馴染は、私が制服の襟元に手を突っ込むようにして首元に日焼け止めを塗りはじめると視線をそらした。


 そして何かをごまかすかのように、


「腕にも塗りなさい」と言う。


 私はまた彼に何か言い返したくなってきて、


「足は?」と聞く。


「スカートまくって太腿まで塗った方がいい?」


 膝上丈のスカートをちょっと摘まんで言うと、彼の白い肌に朱の色が散る。


「スプレー式のがあるから、それで塗りなさい。というか、もっと長いスカートをはいた方がいい」


「やだよ。短い方がかわいいじゃん」


 私の言葉に、彼は真顔で言った。


「僕には違いがわからないね。君は何を着ていてもかわいいから」


 今朝の私はなんだかふだんと違うけど、コイツもどうやらふだんと違う。


 彼以上に、私の肌は真っ赤になってると思う。


「それより日焼けが怖いから、長いスカートにしなさい」


「ええー、心配し過ぎだよ。たしかに私は吸血鬼の血が混ざってるけど、十分の一だよ?」


「ちがう」


 ぴしゃりと言われた。


「どうやったら十分の一になるんだ。君の曾祖母が吸血鬼なのだから、君には八分の一、吸血鬼の血が入っている。吸血鬼は陽の光に弱い。君はたしかにほとんど人間だけど、陽の光はなるべく避けた方がいい」


 そう言って、彼は自分が差していた日傘の中に私を入れる。


「……ねぇ、これだとみんなに相合傘だと思われるよ」


「それで何か問題でも?」


 彼は決然とした口調で言うけど、顔はさっきより赤い。


 私はその腕をとって言った。


「ないよ、なんにも!」


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