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一休花蓮の黄昏

 

 《一休部:これは一休花蓮が設立した徳生高等学校で起こる青春の1ページである》


 黒髪ロングに聡明な目。

 品のある佇まいと儚き表情。

 制服の着こなしは、校則の通りに。


 一休花蓮は、今日も部室の窓から外を見ては人を見る。


(今日は、放課後の助っ人依頼も無いですし特に変わった事も無く平和。私はアルバイトも無いですし何をしましょうか?)


 そう思い一休花蓮は、振り返るも部室に誰もおらず、ただひっそりと机と椅子があるだけだった。


 その黄昏に染まる部屋を見て溜息をついた。


 一休花蓮は、人を助け自分を変える為に、この部屋を部室として部員として今日も待っていた。


(きっと今日は、何も無くとも明日は困った人が来るかも知れない。私は、ここに居て人の手伝いをする事が、私の幸せだと思います)


 また振り返り校舎から窓の下に居る部活生を見た。


(野球部)


 これは2ヶ月前の事である。


「おーい!花蓮ちゃん!」


「分かりました!」


 8回裏、満塁、ツーアウト。

 自軍は、2点。

 敵軍は、4点。


 ここでアウトを取れば2対7で負ける。

 9回目での逆転勝利も有りうるが、絶対に阻止したいホームランに近いフライ。


 その玉が、助っ人、一休花蓮の守るセンターラインに飛んで来た。

 バッターから真っ直ぐに打ち上がった球は、椅子の並ぶ球場の奥へと進む。


 一休花蓮は、考えた。


(このまま行けばホームランかも知れない。けれど角度的にはギリギリか?ニュースで見た事のある、壁に上り球を取る事も視野に入れ全速力で追う私の脚力は、まだまだ大丈夫だし何とか間に合いそうではあるものの、どうしても届かないという事もある。これは仕方の無い事。どこまでやれるのかが今後の分かれ道…)


 球と一休花蓮の距離は縮れば縮まる程、その結果の未来予測は、確定する。


 結果、球は、壁を登った一休花蓮のグローブの中へと収まった。


 球場は沸き立ち交代となる。


「花蓮ちゃん!」


 皆が、花蓮の名を呼び抱きしめて来る中、花蓮は喜びの笑いと汗を振り撒いた。


 5対4の勝利は、一休花蓮の活躍により生まれた結果だと今も野球部には語り継がれる。

 来週も大会に出る予定が入って居た。


 少し顔を上げ空を見る一休花蓮は、また思う。


(鳥は、雲の中を飛ぶ事があるのかしら?私は、鳥になっても雲の中は怖くて飛べないかも知れない)


 そう思って少し笑い、笑みを見せる。


 これもまた以前の事である。


 俳句部。

 他校との交流会。


 相手校には、府の大会出場者が居た。

 徳生高等学校、先輩が他用で居ない俳句部の威厳を保つ為、歴の浅い部員から助っ人を頼まれた一休花蓮は、歌った。


 季節は、春。月は、5月で外は曇り。

 少し涼し気な過ごしやすさと裏腹に、張り詰めた空気漂う和室の俳句部員達。


 一休花蓮は、考えた。


(先輩達は居らず、部員達の句は、悪くも良くも無い。他校の俳句は、素晴らしかった。他校の部員の勝ち誇った顔を見ると努力と勉学、そして才能を感じ取る事が出来た。けれど複雑な心を表面に出してしまう我が校の部員と私の俳句。これはまさに修羅場。文化の争いとも言える貴族の歌。状況は、このまま行けば悪い噂が立つレベル。どこまでやれるのかが今後の分かれ道…)


『雲時鳥には巣離れ』


 一休花蓮は、この場を雲と歌い、時鳥 - ホトトギス -を時を忘れ歌う鳥として部員達に巣に居らずの先輩を、他校から離れた者たちへ、安全な巣から飛び立ち雲へと向かうホトトギスの意味を込めて歌った。


 それは、その場に居る全員に伝わる俳句であり威厳としては十分な句であった。


 一休部の部室に黄昏が落ち、射し込む光が赤く強くなる頃、一休花蓮は、また振り返り家路に着こうとした。


 カシャカシャと鳴るヘッドホン。

 アイドル雑誌にショートヘア。

 制服の着こなしは校則通り。

 カーディガンを肩からかけている。

 特に声をかける事無く知らぬ間に、1人の少女が部室の椅子に座って居た。


「ミカ、来ていたのね。部員は、私と貴女だけだものね。そうそう今日は、誰も来なくて平和な日でしたし少し前の事を思い出しました。別に私の成果に酔いしれていた訳ではありません。助っ人として喜びを分かち合えた事が、嬉しいと思っていたのです」


 ミカは、不動だった。

 何も話さず表情1つ変えない。


「これから帰宅します。ミカは、どうしますか?」


 ミカは、何も話さない。


「あ、そうだ!皆さんが行くカラオケ等にご一緒なさいませんか?」


 ミカからの返答は無かった。


「ミカ。明日は、助っ人依頼が来るかも知れません。早めに来られても大丈夫ですよ?ミカも何だかんだ言って毎日ここに来ますものね!」


 そう言って一休花蓮は、再び窓へと向きを変えた。


「ミカ!見て!あの鳥を!雲の中へと入る鳥を!まるでホームランの様な!危険も省みず向かう勇ましい夕暮れの不死鳥の様な赤く燃える名も無き鳥の姿を!まるで私たち《一休部》の様ですわね!?」


 そして一休花蓮は、勢い良く振り返る。


 そこにミカの姿は、無かった。


 一休部は、今日も一休花蓮により助かって居た。

 一休花蓮には、ミカが居た。

 ミカには、ヘッドホンと雑誌があるのだ。


 全ては、諸行無常。


 一休花蓮もまた諸行無常なのだった。



 






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