苺色
大きく咲いた花火に周囲からは歓声が上がっていた。真っ直ぐに向けられた白いまつ毛が、僕を引き寄せるように向いている。
潤んだ瞳が空模様を反射させていた。返事は何もない。気まずさから、僕は追って喉の下から声を引っ張り出す。
「初めて会ったときから、僕は多分、恋をしていたんだと思う。一緒に過ごす日が、こんなにも楽しい人は他にいない」
俯いた彩音の顔は麦藁帽子で顔が隠れてしまう。すぐに上げ直すと、目尻を垂らして、震えた声で笑顔を向けてくれた。
「私もだよ」
花火が打ち上がる空を見上げる。夜空へ自由に散乱する火花が尊く、短い時間だからこそ美しいかった。体重の一部を支える手の甲に、何かがのせられた。確認せずとも、その体温で何かを察することができた。
月の光を頼りに咲いているような花火の音に、カメラのシャッター音が重なった。すぐに上書きされると同時に、彩音の左目からは涙が滴っている。カメリア色の花が咲いた。そして、容器の中に僅かに残ったシロップを見下ろして、僕に声を掛けた。
「赤って何だか、愛を示しているような色なんだね」
僕はその一言で、全てを悟る。夏にしか咲かない一瞬の輝きを持つ花を、色とりどりに散りゆく光を、盲目のように失われた世界ではなくカラフルに見られる世界を、僕は心から喜んだ。
「全部見える?」
「うん、見えるよ。あの花火も、周りの草も、貴方の赤い唇に付いた黄色いシロップも」
僕は眉をぴくりと動かして、思わず袖で口を拭いてしまう。
「あはは! ……貴方の頬、少し赤み掛かっているのね」
「これは……暑いからだよ」
目を逸らした先には、あの白い手があった。細長い指先、汚れひとつない色。そしてもう一度、シャッターを切る音が耳に入る。
「貴方の写真、こんなに近くで撮ったの初めてだ」
うるさいほどの音楽が、その透明感のある声以外を遮断しているようだった。右手に添えられた手のひらをどかすことはなく、僕らは肩身を寄せて花火に目を向けた。それ以上に何も要らなかった。
最後の一発が打ち上がり、終了のアナウンスが辺りに響き渡る。拍手と人々の嬉しそうな話し声で溢れかえる会場に、僕らは座り込んだまま人が去るのを待っていた。しばらく火花で作られた煙が風に流されていくのを眺めて、周囲から人がいなくなったころに立ち上がる。きっと今頃、駅は大混雑だね。そんな味もしないような会話を渡しながら、レジャーシートを折り畳む。
「夜ご飯、どうするの?」
「僕は家か、途中どこかで食べようかなって思ってたけど……」
屋台から漏れる温かみのある光を向く顔を見て、察する。




