表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
56/61

苺色

 大きく咲いた花火に周囲からは歓声が上がっていた。真っ直ぐに向けられた白いまつ毛が、僕を引き寄せるように向いている。

 潤んだ瞳が空模様を反射させていた。返事は何もない。気まずさから、僕は追って喉の下から声を引っ張り出す。

「初めて会ったときから、僕は多分、恋をしていたんだと思う。一緒に過ごす日が、こんなにも楽しい人は他にいない」

俯いた彩音の顔は麦藁帽子で顔が隠れてしまう。すぐに上げ直すと、目尻を垂らして、震えた声で笑顔を向けてくれた。

「私もだよ」


 花火が打ち上がる空を見上げる。夜空へ自由に散乱する火花が尊く、短い時間だからこそ美しいかった。体重の一部を支える手の甲に、何かがのせられた。確認せずとも、その体温で何かを察することができた。

 月の光を頼りに咲いているような花火の音に、カメラのシャッター音が重なった。すぐに上書きされると同時に、彩音の左目からは涙が滴っている。カメリア色の花が咲いた。そして、容器の中に僅かに残ったシロップを見下ろして、僕に声を掛けた。

「赤って何だか、愛を示しているような色なんだね」

 僕はその一言で、全てを悟る。夏にしか咲かない一瞬の輝きを持つ花を、色とりどりに散りゆく光を、盲目のように失われた世界ではなくカラフルに見られる世界を、僕は心から喜んだ。

「全部見える?」


「うん、見えるよ。あの花火も、周りの草も、貴方の赤い唇に付いた黄色いシロップも」

 僕は眉をぴくりと動かして、思わず袖で口を拭いてしまう。

「あはは! ……貴方の頬、少し赤み掛かっているのね」

「これは……暑いからだよ」

 目を逸らした先には、あの白い手があった。細長い指先、汚れひとつない色。そしてもう一度、シャッターを切る音が耳に入る。

「貴方の写真、こんなに近くで撮ったの初めてだ」

 うるさいほどの音楽が、その透明感のある声以外を遮断しているようだった。右手に添えられた手のひらをどかすことはなく、僕らは肩身を寄せて花火に目を向けた。それ以上に何も要らなかった。


 最後の一発が打ち上がり、終了のアナウンスが辺りに響き渡る。拍手と人々の嬉しそうな話し声で溢れかえる会場に、僕らは座り込んだまま人が去るのを待っていた。しばらく火花で作られた煙が風に流されていくのを眺めて、周囲から人がいなくなったころに立ち上がる。きっと今頃、駅は大混雑だね。そんな味もしないような会話を渡しながら、レジャーシートを折り畳む。

「夜ご飯、どうするの?」

「僕は家か、途中どこかで食べようかなって思ってたけど……」

 屋台から漏れる温かみのある光を向く顔を見て、察する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ