天色
「黄色は……僕が初めて好きになった色だった。小さいころは何を選ぶにも黄色のものを手に取っていた……と思う。だから初めてのものの色と言ったら、黄色かな」
砂浜の表面をゆっくりと散歩していた鳥が、走り近づく子どもたちに驚き、鳥の羽風を起こして羽ばたいた。
「それって、貴方が私に初めて名前を教えてくれた色じゃない?」
欠けてしまった何かを見つけたような衝動があった。理解したようで、言葉にできない感覚だ。錯覚に近い。
「私が初めて見たのは、枯れ葉の黄色。次に見たのは青色。そのとき、貴方が言っていたことを覚えてる?」
僕は彩音を見て顔を横に揺らす。記憶を辿るも、明確には思い出せない。
「黄色のときには貴方の名前を知った。青色のときは貴方の思い出を教えてもらった。もしかして、貴方の色に関してのイメージを教えてもらうと、私は色が見えるんじゃない?」
僕はこれまで勘違いしていたようだった。カメラで川を取ったときも、季節感のある場所に行ったときも、全く関係のないものだ。彩音の言う通りかもしれないと、酷く納得する。
「そうなのかもしれない……。今までのことを考えると……けど、じゃあどうして緑は?」
顎に手を添えて考えるが、付近で休む蝉の鳴き声が集中力を切らす。
「そのことも考えたことがあるの。貴方とお揃いの本を買ったときに読んだのだけど、緑は黄色と青色の間にあった気がする」
「そうか、色の三原色にあるそれらは黄色、青色、そして赤色で成り立っているから、二色があれば間の色は混ざり合うんだ」
曇天が晴れていくように、謎が一度に解明されていく。
「じゃあ、残りの赤色の印象を彩音に伝えれば、全ての色が見えるようになるんだ!」
「うん、多分ね」
頭の片隅で、真っ赤なものを思い浮かべ、口にする。
「薔薇、血、太陽」
しかし、一番にしっくりくるものがない。
「血って赤色なんだ」
「そうだよ、まさに赤って感じ」
「ふーん、じゃあ貴方から出る赤は見たくないな」
笑いながらその意味も深く考えずに受け流す。そして僕は半ば無理に答えを出した。
「情熱……かな?」
「情熱?」
彩音に訊き返される。
「僕にとって赤は、情熱とか、熱中だと思う。青春映画とか、勝負事に関してはまさにその色が合っていると思う」
僕は紐ストラップを肩から離し、彩音の首へとかける。
「もしかしたら、これで最後の色が見えるようになるかもしれない。写真を取ってみて」
どこか寂しげな表情を浮かべている。小刻みに震える手が、カメラの受け取りを拒否しているようだった。
「う、うん……」




