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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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薄藍色

 一ヶ月半も経つと梅雨の時期も終わりを迎え、日差しが蝕むように肌を焼く日が続いていた。今日もそのうちの一日だ。大学はおよそ六十日間の休みに入り、暇を持て余す日々だ。実家に帰っても同じようなことだろうとわかっていたから、このワンルームの部屋で過ごすと決めた。

 写真もだいぶ増えてきた。枚数の分だけ、彩音と同じ時間を共にしたのだと改めて目を通して確認する。これは、初めて黄色を見た日。こっちは、桜の花びらが舞う、散歩の通りで撮ったもの。そして今日コンビニでプリントしたのは、先週に撮ったばかりのものだ。さまざまな動物を眺める彩音の写真。動物園は初めてだと言って微笑んだまま入園したときのものまである。

 そしてその中から、僕は二種類に写真を分けた。僕が撮った写真と、彩音が撮った写真だ。僕の撮るものは彩音を含めたその背景や景色のものが多く、彩音の撮るものは、日付が近いものほど僕自身を撮ることが増えていると、その薄い長方形が教えてくれた。カメラを貸しても、その場のものはあまりカメラに収めないのだ。

 テレビの番組が変わる音楽が、部屋に響いた。


「やば! 行かなきゃ!」

 薄茶色(うすちゃいろ)のリュックを背負って柄のないTシャツを身に纏い、僕は部屋を飛び出した。鍵をかけて走り始めるも、暖房のような南風で汗が身体中から吹き出す。蝉たちの耳の中へ響く合唱音も日に日に慣れていっていた。薄藍色(うすあいいろ)の空の下で坂を下りきり、十字路を突っ切ろうとしたとき、左耳に声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。

「ねぇ!」

 足を止め、呼吸を乱しながら見た先は、涼しげなワンピースを風で揺らしながら立ち尽くす彩音だった。コバルトブルーの爽やかさが、夏の暑さに反してとても涼しげに見えた。後ろで一束に結んだ髪の毛が細い首を目立たせている。


「五分前になっても来ないから忘れられちゃったのかと思ったよ」

 脇腹が痛むのを堪え、僕は肺に空気を送り込む。太ももに疲労が溜まっているのが膝に手をつくことで理解できた。

「ごめん……ちょっと写真を整理してたら……時間に気づかなくって」

 息を整えることに精一杯で、話がうまくできない。

「夏を見にいこうって言ったのは貴方なのに。ま、急いでいるわけでもないから良いんだけど」

 ありがとうの一言を伝えると、彩音は踵を返して僕に背を見せる。麦綿帽子の上に日傘を差し、紫外線を完全に遮断している。

「行こう、夏が終わっちゃう」

 モノレールの停まる駅から数回乗り換え、僕らは千葉県のとある駅へと到着した。近いというわけではなかったが、それでも綺麗な海を見せてあげたかったのだ。

 改札を抜け、五分ほど歩いたところで潮風が肌をベタつかせる。こめかみから汗を滑らせ、僕を見かねた彩音が日傘を高く持つ。少しではあったが、日陰に交えてくれた。アスファルトの先で陽炎が踊っているように見えた。


「紫外線は危ないから、貴方もこういったの持っていた方がいいよ」

「男は日傘とか、あんまり持たないからなぁ」

道の角を曲がったところで、波が浜辺へとよじ登ろうとしている姿が見え始めた。何度も何度も、その体で陸へと這い上がろうとしているようだ。

「綺麗……」

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