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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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石竹色

「日中は働くけど、休日の夜には外へ出て、雨が降ったら家の中でその音を聞いて、たまにはコンビニでお金を使って……どれも新鮮で、日常だけど、非日常なの」

 そうだね、と言って見上げる空はどんよりとして星の一つも見えず、綺麗とは言えなかった。しかしそれでも今の僕らには十分だった。

 十字路を右折する直前で、彩音は僕の前に体を向けて立ち止まる。手を後ろに組み、僕をまっすぐと見て愚問を尋ねる。

「どうして私にここまでしてくれるの?」

 ビニール袋が僕の指先で振り子する。民家の前、薄暗く遠くから僅かに届く街灯の光が頼りだった。


「どうしてって……友達といるのに理由なんていらないよ。もし彩音が、アルビノなのに、なんて考えているんだとしたらその必要はないと思うよ」

「じゃあ、周りの人が避けるのはどうして? どうして貴方は他の人とは違って、優しくしてくれるの?」

 僕は唾を飲み込んで、頭に浮かぶ文字を整えた。どこかで借りてきたような台詞を、あたかも自分で作ったかのように吐き出した。

「個性のない人間なんていないと思うんだ。僕は別に格好良くもないし、頭がいいわけでもない。けれどそれが僕の個性だ。彩音の個性がたまたまアルビノで、それが周りにはなかなかいないだけだったんだよ。だからみんな驚くんだ」

 歩きながら話そう。僕は言葉を付け足した。ふたりだけの足音と、声をぶつけ合う夜の世界。僕は続きを話す。

「みんな、自分の個性に気づいていない人がほとんどなんだ。だから目立った特徴を持った彩音が羨ましいんだよ」


「貴方の言うことも納得できる。けれど私は、貴方自身がどうして私に、ここまで優しくしてくれるのかが知りたいの」

 数歩歩き、考える。僕自身が彩音のために時間を割き、色を見せ、他の人以上に関わりを持とうとする理由。わかったようで、わからないふりをした。

「彩音の髪が素敵だったから、仲良くなりたいって思ったんだ。あのとき」

 彩音はそれ以上、僕を責めるように咎めることはしなかった。坂を上りきり、家に着く。玄関の鍵を開けて扉を開くと、テレビの音が若干に漏れ出した。

 バスタオルとフェイスタオルを渡し、先にお風呂を譲ってその隙にアイスを冷凍庫へ仕舞う。スナック菓子などの袋をテーブルに広げてテレビを観ながら体を休めていると、頭を拭きながら部屋に彩音が扉を開けて戻った。洗面所からドライヤーを持ち出し、手渡した。石竹色(せきちくいろ)のふわふわとしたスウェットのようなパジャマ姿を見て、本当に宿泊するのだと改めて思う。


「じゃあ次入ってくるから、それ使って髪乾かしてて。あ、水道とかトイレとか、勝手に使っちゃっていいからね」

 二番目に入るお風呂はいつぶりだろうか、温まった浴室に移動して思い出す。部屋着に着替え、脱衣所から頭を拭きながら出ると、濡れた髪の彩音が正座を崩して座り込んでいる。

「あれ? 髪の毛拭かなかったの?」

 そう尋ねると、ドライヤーを僕のへと差し出した。首を傾げて、ようやくその口を開く。

「乾かし合いっこしよう。せっかくふたりいるんだし」

 ベッドへと座り、水を含んでキラキラと光を反射させる髪へ温風を送る。今まで綺麗だと言っていたこの白髪に触れるのは、なんだかんだで初めてだ。髪の束が指先をなぞる感覚を噛み締める。靡く髪から香るシャンプーの匂いは、僕がいつも使っているものだ。他人から自分のものの匂いがするのは少し違和感だった。ドライヤーのうるさいくらいの音に、会話を挟むことはなかった。電源を落とし、僕らの位置を交代する。

 髪が乾ききり、コンセントをぐるぐると本体に巻きつけていると彩音が口を開く。


「男の子は乾くのが早くていいなぁ」

「髪が長いと大変だよね」

 彩音は毛先を持ち上げるも、サラサラと細い砂のように手元から滑り落ちてしまう髪を見る。

「うん、もうそろそろ切ろうと思うの。長いと目立っちゃうし」

「そうなんだ。綺麗なのに勿体ない」

「貴方は伸ばすべきだと思う?」

 少し悩んで、曖昧に返答する。

「彩音が楽なら、切った方がいいんじゃないかな。ロングの彩音を見たことがないから、なんとも言えないけど」


「貴方は長い髪と、短い髪、どっちが好みなの?」

 頭に浮かべるイメージを覗くように視線を上げる。

「うーん、長い方が、女性らしくて好きかな。もちろん短い髪型も素敵だと思うけどね」

「じゃあ、もう少し伸ばしてみるね」

 僕の好みに合わせようとする意図に、気づかないふりをした。勘違いだったらただ恥ずかしいからだ。若干に嬉しさの混ざる感情を押し殺し、平常心をできる限り保った。

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