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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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水色

 背筋をなぞられる感覚だった。目元が隠され、帽子からはみ出す髪色でその人物を理解する。

「音も立てずに近寄るのやめてよ。結構焦るんだから」

「ふふっ、ごめんね。お店に入ったらすぐそこにいたからさ、つい」

 鼻で笑ったような表情を見て、晩御飯は? と尋ねる。

「まだ決まってないかなぁ……。何がいいと思う?」

 僕は彩音の手先に摘まれた箱を取り上げ、その表紙を見せて一言言う。

「ビーフシチュー」

 彩音は小さく息を漏らして笑う。袋に箱を仕舞うと、僕は次に掛けられた言葉で思わず手を止める。


「じゃあ今日、食べに行ってもいい?」

「……食べにって、この辺りにシチューのお店なんてあったっけ?」

「ううん、貴方の家にってこと」

 思考と体が連動したかのように動かない。僕を眺める彩音は帽子の鍔を傾けて追って声を放つ。

「ダメだった?」

「う、ううん、ダメってわけじゃないけど……」

 目は行き場を失う。動揺を隠せていないと自分でもわかる。

「はい! じゃあ決まりね! 六時頃に貴方の家にお邪魔するから、また後でね!」

 手のひらをパンッと叩いてそのまま店内の奥へと歩いていってしまう背中を見送り、僕は足早に帰宅した。水溜りも見分けられぬほどに、意識が先走っていた。玄関の扉を開け、散らかった部屋を視界に入れて息を漏らす。


「……片付けなきゃなぁ」

 置き捨てられたリュック、シンクに重なった汚れた皿の束、テーブルに散らかったレターセット、生活感の溢れるそれらを見て、焦る気持ちが湧いて出た。ゴミ屋敷とまではいかないが、大学や就活が始まって片付ける気が失せていたのだ。

 手を洗った後に買ったものを冷蔵庫に仕舞い、昼食を摂ってから床に散らばったものを整えた。そうして部屋を片付けているうちに、棚に置いていた両手サイズのプラスチックケースが視野の中に入り込む。彩音から届いた手紙を入れているケースだ。誘われるように手に取り、その蓋を開く。掃除中に卒業アルバムを見つけてしまったような気分だ。古い手紙から順に入れられているため、当時の文字を読んでは、まるで過去に遡っているような感覚だった。

 そして最後の二枚になるまで読み返していた。雨音がまた強くなっていることも忘れるほどに没頭していたようだ。そのアセロラ柄の封を開き、折り畳まれた紙を開く。


『この前はありがとう。本当に色が見えるようになるなんて思わなかったよ。この手紙も、黄色の文字が書けるペンにしようと思ったんだけど、白い紙に黄色って見えにくくなってしまうのね』

「そうか、初めて色が見えるようになった次に送られてきたんだっけ」

 独り言を呟いて、読み進める。

『貴方が色を探しに行こう、なんて言ったときは、どういった意味だろうってちょっと考えた。それで家に帰って、手紙を書くときに少しだけガッカリした。あぁ、ただの本かって』

 本、そうだ、僕はこの手紙の内容を理解しきれていないんだったと思い出す。本とはなんのことなのだろうか、未だにわからない。彩音が来たら訊いてみようと決め、僕は手紙に目を向け直す。すると何かの音が耳に入る。それを聞いて咄嗟に時計を確認した。

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