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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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若葉色

 梅雨の時期にしては、今年はあまり雨の音を聞くことが少なかった。小雨が多かったのだ。太陽を拝むことも減り、空すらも隠れてしまう日が続くと、良い気分でいることが難しかった。家が近くとも、ふたりで会う機会は自然と減っていた。しかし退院から一ヶ月が経ち、彩音とは仲直りをして以前と同じような生活を送ることができている。

 手紙のやり取りはいつの日からか再開され、文字の交換が日々の日課だ。そして今日も、その一日だ。ポストを覗いては部屋に戻る、大粒の雨水がサンダルの一部に付着していた。テーブルの上に常時置かれたレターセットの前へと座り込み、スモモ柄の封を開く。長方形の右端が濡れているのが季節感を出していた。


『今日も雨。この手紙が届く日もたぶん雨なのかな。貴方は空から降る水をどう思う? 私は湿気で頭がいつもより蒸れちゃうから、少し厄介。けど、家にいる分には好きかもしれない。雨音が何かを訴えているみたいで、神秘的に感じる』

 外の雨粒が大きくなってきたと、窓の隙間から部屋に抜ける音でわかった。布がカビないよう、カーテンも半分ほど開けてある。他の音はなく、とても静かだ。

『雨が続くと、外で写真も撮りに行けないね。雨の中で撮るのも素敵だろうけど、ジメジメしちゃって、傘も持ってるから大変そう。けれどもし貴方がその気なら行くから、手紙で教えて。公園は一休みできないだろうから、カフェに行くとか、そのくらいしかできなさそうね』


 相変わらず文字は明朝体を模写したような整った体をしている。ただ、書いているときの本人の気分によっては、たまに乱れた形になったりもしていた。まるで感情そのもののようだった。テレビもつけない部屋で、隣人が帰宅する音が壁越しに聞こえる。

『最近、工場の人がお菓子をくれたの。北海道のお土産らしい。お昼休憩のときにお皿に出して、みんなで摘んで食べたから名前がわからないの。けど、すごく美味しかった。チョコが挟んであるクッキーで、どちらも味が喧嘩していなくて、また食べたいと思った』

 僕はそのお土産の名前を知っていた。初めて知ったのがどこかは忘れてしまったけれど、いつか僕も手にしたい、そういった気持ちになる。

『雨が止んだら、また会えるといいね。次はどこに行くかも考えておこう』


 手紙の文字はここで途絶えている。レターセットから一枚だけ用紙を取り出して、ボールペンを右手に持つ。ペン先を白紙に触れさせようとしたときに、胃袋が空っぽだと言うことを震える体内に気付かされた。とりあえず腹ごしらえにしようと、冷蔵庫の中を漁る。カットされたかぼちゃ、ソーダ味のアイス、二食分のキムチ、質素でお腹も満たされないものばかりだ。仕方がない、とタンスから抜き出した服を纏い、梅雨の空の下を歩いてスーパーへ向かう。傘の盾を掻い潜った雨水が靴を濡らす。自動車のタイヤが水を弾く音と、傘がボツボツと殴られる音だけが耳に入る。


 目的地に到着するころにはズボンの丈が濡れて一部色が変わっていた。足元が気持ち悪くなったのも気にせず、店内をカゴを持って散策する。夕飯はビーフシチューにでもするか、妥協したような決断で品物を買い揃える。お昼ご飯はお惣菜コーナーの揚げ物だ。明日のお昼は大学で食べるからと、ひとまずはそれだけをレジに通す。レジ袋にものを移していると、シチューの箱を買い物カゴから取り出す手が目に入った。

「ほう、今日はビーフシチューですか」

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