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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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鼠色

 どのくらい時間が経ったかわからない。日はとっくに暮れていた。随分と長い間そんなことをされている気がしている。地面に倒れ込んだ僕は、ドシャッとした泥を含める音を立てて横たわる。雨が降り始めていたことに、このときようやく気がついた。熱くなった頬に衝突する滴がより冷たく感じていた。そしてまたも体を持ち上げられたと同時に、とても眩しい光が僕の顔を照らした。とても眩しく、逆光で何の光なのかがわからない。

「やべぇ! 行くぞ!」

 胸ぐらから上半身を持ち上げられていた僕は、吸い切られたタバコのように捨てられた。水溜りがこめかみを冷やして心地良く感じる。少しの間こうしていようと考えると、僕に降り注ぐ雨の感覚が突然に消えた。今度は何事かと思い、腫れた瞼を持ち上げると、滲んだような空が目に入る。


「…………傘?」

 晴れた空だと勘違いをしたそれは、よく見ると明るい水色(みずいろ)の傘だった。どうしてこんなところに、そんなことを思うと、今度は頬に何か乗せられる。暖かく、安心させてくれるような、そんな温度だ。

「遅くなってごめんね」

 聞き覚えのある声が耳に着く。どこか懐かしい、夏の匂いのような優しい声色だ。僕はその温かみの正体を目視せずに理解して、ゆっくりと上に手を重ねた。僕が、その手に初めて触れた瞬間だった。


「ごめんね」

 傘の下、僕の額にポツリと落ちた水は、雨とは別で熱がこもっている。どうしてか、この日一番に五感が刺激された瞬間だ。

「……僕の方こそごめん。……帰ろう」

 泥だらけな僕を真っ白な肌でゆっくりと起こしあげてもらう。ようやく立ち上がり、ベンチまで崩れそうな身体を運ぶと再びあの眩しい光が僕を襲った。

「君! 大丈夫かい?」

 黒く分厚い上着を羽織り、帽子を被った男性は僕を見るなり肩の機械に向かって何かを話し始めた。そして話を終えると、僕にまとまった話をしてくれた。


「もうすぐ救急車が来るからね! あとあの三人組だけど、暴行罪で現行犯逮捕だから、安心してくれ!」

 全身の力が抜け、ベンチの背もたれに重心を任せた。服の隅々にまで浸透する雨水が体を自然と震わせる。僕に一枚、何か被さる。

「……ダメだよ、汚れちゃう」

「いいの。大丈夫だから」

 冷え切った体にはあまり大きな変わりはなかったが、それでも上着をかけてくれたという事実が僕には嬉しかった。強く握られた右手が生存していることを意識させてくれる。どこからか鳴り響く高いサイレンの音を耳にして、僕は長い眠りにつくような感覚に陥った。

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