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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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白昼色

 三月、彩音との手紙でのやり取りは週に二度ほどで定着していた。大学も後期の授業が終わり、のんびりと過ごしているうちに春休みももう終わりに近づいている。

 母親の件があってから、彩音は僕の家の近くの団地へと引っ越した。もし母親が釈放された後に、また戻ってきたら厄介だからだ。引っ越しには大学の颯が手伝ってくれ、費用をできるだけ抑えることができた。その後は近所の公園や河川敷などの写真を撮りに出向くことが多かった。そして今日も、その予定だ。昼下がり、団地前へ五分前に到着し、カメラの調子を伺う。道の脇に佇んだ桜の木の枝先にはローズピンク色と白が混ざり合う蕾が眠りについている。

 分岐する枝によって、ひび割れたような空を背景に季節の移り変わりを撮影する。背中をつつかれ、僕はレンズから顔を離して振り向いた。しかしそこには、誰もいない。


「わぁっ!」

 体を跳ねさせるように驚いてしまい、僕は背後にいた彩音にクスクスと笑われた。

「どうやって後ろに⁉︎」

「振り向く方と反対から屈んで回れば意外とばれないよ?」

 まるで忍びのような能力に若干恐怖を覚えつつ、僕は肩からずり落ちかけたリュックを背負い直す。

「き、気を付けるよ、これから……」

 両手を後ろに組んだ彩音は、帽子の鍔の下から顔を覗かせ、僕に一つ問う。桜の木に顔を向けて、僕は大学一年生のころを思い出す。

「本日はどこに連れてってくれるの?」

 大学の入学式にはひとりで参加した。当時に歩いた桜通りの寂しさが蘇る。思い出を取り返す、と言ったほどでもないが、僕は桜で作られた道を誰かと歩いてみたかった。


「大栗川の方を歩いてみない?」

 そして僕らは散歩がてら、敢えてバスには乗らずに歩くこととした。花粉が目の奥を刺激して涙目となってしまう。彩音はこの時期が顔をうまく隠すのに不自然ではないから、そこまで嫌いではないらしい。摘んだマスクで鼻を隠しながらそう言われた。

 徒歩で四十分ほど、大きくはないが、橋がないと渡れないほどの川に到着した。

「ここは何だか、落ち着くんだ。何もないところなんだけどね」

 川の脇にはずらりと蕾ばかりの木が隊列を組んで並ぶ。黄色の少ないこの場所は、彩音にとっては少しだけつまらないかもしれない。水が岩を避けて通る音が耳に入る。石垣の上に作られた道を僕らは歩き、川を挟んだ向かいには自転車を漕ぐ小学生が僕らを追い越していく。


「風が気持ちいいね。一昨日は少しだけど、雪まで降ったのに、今日はすごく暖かいし」

 隣で髪を耳にかける彩音がそう言う。ただ川の道に沿って歩いているだけでも、楽しいと感じているようだ。僕は立ち止まり、首から下げたカメラをその背中に向けてシャッターを切る。

「ほんと、カメラばっかりね」

 顔だけこちらに向けた姿が僕を呆れたような口調で置いていく。僕は写真を確認すると、走って追いついた。

「桜が満開だったら、もっと良い写真だと思うんだけど……」


「じゃあその時期になったらまた来ようよ」

 そうしよう、と言いうと、沈黙が一瞬だけ生まれた。散歩を始めたは良いものの、この辺りには何もなさそうだ。あの日、彩音が初めて色を知った日と同じような条件を探しているも、全くわからない。何か、色を見つけられるきっかけのようなものがあれば良いと思い、僕らは様々な場所へ出向くようになっていた。

「ねぇ? 私、行ってみたい場所があるの」

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