表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
26/61

金色

「気をつけてよ」

 正面から向かってくる車のヘッドライトがやけに眩しかった。

「見て、今日の月」

 道の先、空の低い位置に吊されている月に目を向ける。半月よりかは少し膨らんでいるようだ。

「優しい半分こ、みたいな月だね」

「どういった意味?」

 そう言った意図を尋ねる。


「あの見えない部分は、隠れているんじゃなくて、別の誰かに渡しちゃったみたいに見えない? ということはさ、半分とちょっとだけを私たちに見せてくれているから、思いやりがあるように見える。だから、優しい半分こ」

 いつからか、僕はきっとこの感性を聴くのが楽しみになっていたんだと思う。ふたりで空を見ては、そこから感じる価値観を共有することが、僕の幸せの一つなのだろう。

「すごい良い考え。本当にそう思えてくる」

 そうでしょ、と彩音は言って微笑んだ。貴方には今日の月をどう見えているの? そう訊かれ、考える。

「うーん、さっきのもの以上が思いつかないからなぁ……」

 再び信号で立ち止まる。邪魔をするかのように月よりも前の位置で電線が視野に入る。

「高校生くらいの月?」

「高校生?」

 彩音はプッと吹き出した。

「そう、新月が子どもだとしたら、満月は大人。大人とも子どもとも言えないあの月は、高校一年生くらいってところかな」


「私達、おかしな考えね。けど確かにそうも見える」

 交差点を仕切る色が変わり、横断歩道を渡る。シャッターの閉まったお店の看板、コンビニの窓から漏れ出す冷たい明かり。それらを見つけては、お互いの見え方をぶつけ合った。彩音の家までは、残り徒歩五分ほどだった。

「今日はありがとうね」

 僕の言おうとしたことが、彩音の口から飛び出した。

「どうして彩音が? それは僕の台詞だよ」

 黙って首を振って、少し長い髪が揺れていた。

「私が勝手に貴方の家まで行ったのに、ここまで来てもらっちゃったし。貴方とお話ができて良かったよ」

 カーブミラーの顔が、可哀想なほどに歪んでいるのに気がついた。何かをぶつけられたような歪み方だ。


「ううん。誕生日を祝ってもらえたんだから、このくらいはさせて。それに、誕生日を、迎える瞬間が彩音と一緒で良かったよ。ひとりぼっちは寂しいし」

「ひとりぼっちの夜景になるところだったね」

 僕らはクスッと笑う。自然と歩く速度が落ちているような気がしていた。

「今日はこの後、何をする予定なの?」

 何もない一日を想像しながら首を傾げて考える。

「うーん、誰宛てとは言わないけど、手紙でも書こうかな。誰宛てとは言わないけどね」

 彩音は再び、クツクツと笑った。


「そうなんだ。じゃあ私も届くかもしれない手紙を楽しみに待ってようかな」

「そうしてて」

 家の前の、最後の交差点に差し掛かった。また、信号だ。

「ここまででいいよ。ありがとう」

 少し寂しげに感じる表情に別れを告げられる。左手を左右に振りながら急足で点滅する信号を渡り切った先でも、大きく手を上げてその存在を示していた。お返しをするように、右腕を大きく上げて、左右に振った。

 駅までの道のりが、やけに輝いて見えた。隣にはもう誰もいないのに、昂った感情が落ち着かない。タクシーで帰宅した家の中は、いつもと変わらないはずなのに、不思議な特別感があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ