表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
24/61

杏色

 画面を付けると、颯から引越しを手伝ってくれる旨の返信が送られてきていた。そしてもう一件、メッセージが届いた。

「お誕生日おめでとう」

 彩音に言われ、時刻を見ると十二時を一分ほど回ったところだ。颯からの文章も、似たようなものだった。その文末には多すぎるほどの絵文字がずらりと並んでいる。

「覚えててくれたの?」

 以前、手紙で互いの誕生日についての話を持ち出していた。僕は今日で、二十歳(はたち)となったのだ。

「うん、だから今日、こっちまで来たんだよ」

 小さな紙袋を手渡され、僕はそれを受け取る。


「開けていい?」

「うん。気に入ってもらえるかはわからないけどね」

 袋を閉じるテープを剥がし、さらに包装された紙を広げる。中から出てきたものは、白い三毛猫が描かれたマグカップだった。縁に耳を模した凹凸まであり、見ているだけでも癒されるようなものだ。

「ありがとう。すごく可愛い」

「見ていたら、私も欲しくなっちゃって、自分のも買っちゃったの」

「これは欲しくなっちゃうよ」

 喜び方がわからないほどに、嬉しさがあった。薄情な人と思われないかが心配だ。心から嬉しいのに、表現の仕方がいまいちわからない。

「貴方、どうして泣いてるの?」

 言われるまで気づくことがなかった。右頬に熱を持った水が伝っていた。


「何でだろう」

「そんなに嬉しかった?」

 涙を拭って、的外れに思いついたことをそのまま言った。

「ドライアイだから、こっそり目薬注したんだ」

「ふふっ、嘘つき。私は黄色のものを買ったの。何だかお揃いみたいになっちゃったけど、ごめんね」

 首を横に振って、マグカップを再び紙袋へ仕舞う。

「ううん。ありがとう。これでコーヒーを飲むようにするよ」

 微笑む横顔を見るのは何回目だろうか。僕よりも彩音の方がどことなく嬉しそうだった。何度見ても飽きないその表情を眺めるのが好きだった。

「そういえば、彩音は誕生日いつなの?」

「え? 忘れちゃったの?」

 冷や汗のようなものが出た。必死に記憶を辿り、手紙のやり取りを思い出す。


「あはは、冗談だよ。教えてなかったもんね」

 肩の力がどっと抜けた。安心してからいつなのかを問うと、いつだと思うかと訊き返された。

「うーん、ヒントとかないの?」

 彩音は指を顎に添えると、その日は貴方と一緒にいたよ、と言う。僕は深く考える。

「初めて一緒に写真を撮りに行った日?」

「あー惜しい」

 あの日は確か、十一月の二週目あたりの日曜だった気がする。

「うーん。わからないなぁ」

「貴方と出会った日だよ」

 僕は一拍置いて、声を出す。


「十月の二十五日か!」

 そんなに大きな声出さなくても、と彩音は笑っていた。

「じゃあ今年の誕生日は空けておいてね。何を渡すかも考えておかなきゃ」

「無理しなくていいからね」

「まあ楽しみにしててよ」

 風のせいか、一段と冷えてきた気がした。

「寒いね。そろそろ行こうか」

 僕らはきた道をそのまま戻る。危ないからと言ってマフラーを彩音の首に柔らかく巻き付け、先に下る。転ばないようにと手を差し伸べる。キザなことだと自分でもわかっているつもりではあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ