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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
23/61

雄黄色

「本当だね。隣、いい?」

 頷く横顔を見て、僕はベンチに腰掛ける。ふたりだけの世界に、誰もいないように思える。会話はないが、気まずさも感じない。沈黙が肯定される場所だった。

「ここの公園は、何て言うの?」

 僕は気になって、彩音に尋ねる。

「わからない。私も初めてここにきたの」

 みはらしの良いこの場所は駐車場もなさそうで、アクセスが悪いためか、人もあまりこなさそうだ。

「そうなんだ。正面の木がなければ、きっともっと良く見えるのにね」

 僕らが目を向ける先には、悪意のない木々が夜景を隠してしまっている。せっかくベンチもあり、長居するには良さそうな場所なのにな、と考えてしまう。


「あっち側」

 彩音が指を差す方に目を向ける。

「階段があるの。まだもっと上から見られるのかもしれない」

「行ってみようか」

 僕らは膝を伸ばして立ち上がり、少し急な階段をゆっくりと重い足を持ち上げて進む。

「大丈夫?」

 振り返って彩音の手を引く。うん、の二文字の返事をもらって隠れた通り道のような箇所に出た。崖のような場所に、腰下くらいの高さの柵が敷かれている。そして、息をも忘れる。まさに星空と大地が入れ替わったような景色だった。パノラマの一面に広がる家々と街灯。遠くに見えるマンションや工場の銀河を表すような光の束。天の川のように街を分裂させる大通りを通る車のヘッドライト。

「あそこの大通り、見て。この夜景の中で一番目立ってる」

 僕はふと思い出したことがあり、スマホで時間を確認する。十二時を回る、十分前だった。


「あの道の先には、どんな街があるんだろう」

「人の住む街、もう嫌じゃないの?」

 うん、とそれだけをもらう。冷たく、草木の香りを含んだ風が吹く。マフラーに顎を鎮める。彩音はブルブルと体を一瞬震わせた。

「今日、マフラーは?」

 僕は彩音がいつもの秋色のマフラーをしていないことに、ようやく気がついた。

「忘れちゃったの。家を出るときに別のことを考えていて」

「珍しいね。いつもしっかりしてるのに」

 止まない風が、遠回しに僕らを無理に退かそうとしているようだった。


「……え?」

「寒そうだから」

 マフラーを彩音の首元に巻くと、不思議そうな表情を向けられた。照れ臭さは合ったが、寒そうにしている人を横に、何もしない方が僕は居心地が悪かった。そう自分に言い聞かせる。

「僕、暑がりだから」

 そう言ってくしゃみをする僕に、彩音は微笑していた。首元に何か巻くものがあるのとないのでは、こんなにも違うのかと噛み締める。大きく見渡すように顔を逸らした。すると僕の顔に向けて、手が伸ばされた。

「こうすればいいんじゃない?」

 マフラーを首に巻き直され、隣を振り向く。微笑んだせいで少し細くなったその目が寒さを忘れさせる。ふたりで同じものを使うにしては、このマフラーは短すぎたようだ。僕の右腕に、彩音の左肩が触れている。僕らはしばらくそのまま、何もしないで時間を流した。ただ同じものを見ているだけの時間がたまらなく愛おしく感じた。

「寒くない?」

「大丈夫だよ」

 僕の問いに、深い意味もない返事だけがくる。ポケットのスマホが、存在を知らせるように震えた。

「誰からだろう」


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