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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
22/61

オレンジ色

 二重丸を描くようにお湯を注ぎ、変色したお湯がマグカップの中に滴り落ちるのを待つ。一日の始まりを感じる。今日は何をしようかも定まらない中で、無意識にノートパソコンを開いていた。小説でも書いてみるかと、タイピングを始めてみると、意外にも熱中してしまった。

 もう、夜になっていた。

 お気に入りのテレビ番組の始まる音が聞こえたことで、ようやく時間を把握した。

「八時?」

 こんなにも集中力が続くのも初めてだった。夕飯の買い出しも支度もしていなかったため、僕は仕方なく再びヤカンでお湯を沸かす。


「久しぶりのカップ麺だな」

 ボソリとひとりぼっちの部屋に声を漏らす。寂しげに盛り上がるテレビの音と麺を啜る音が混ざる。容器の中が汁だけになり、一日を無意識に振り返っていた。

「朝はコーヒーが買えなくて、お昼も摂らずに物語を考え続けて。何もしてないな」

 何もアクションを起こさなかったような今日が不満だった。外は晴れていたと言うのに、部屋に閉じこもっていたことに若干の後悔が走る。フローリングに敷かれたカーペットの上で、両腕を伸ばして伸びをする。

「遅い時間だけど、散歩でもしようかな」

 当然、誰もいない部屋からは返事がない。もうすぐ日が変わる時間だというのに、ヒートテックに、トレーナー、コートなどを着込んで、靴のつま先を床に叩き外へ出た。呼吸さえも白く目視できるほどの寒さだ。どこに行こうかと考えながら歩く。これといって目的も決めていなかった。幸いにも、この辺りには公園がたくさんある。点々としながら歩いてみようと思う。


 山沿いの住宅街を進み、緩やかな坂を下っては上ったりと、自由を体で表しているような心地だ。枯れたように葉もつけない裸の木々が横に並ぶ歩道を進む。薄汚れた珊瑚色(さんごいろ)のレンガ畳に導かれるかように足を運び続ける。道の変わり目で、何か施設の入り口ようなものが現れた。僕は、その先に何かがあるように思える。すると草陰から一つの影が飛び出して、僕の前を通り過ぎる。目が合ったはずなのに、まるで警戒していない。

「狸?」

 野生の子狸と思われる動物は、入り口から奥の方へと走り出してしまう。僕はその後ろ姿を追う。その小さな体はどこかへと隠れてしまい、代わりとして新しい公園を見つけることができた。こんなところに公園なんてあったのか、と思う。人の気配がしない公園だ。

 振り返り、歩いてきた道を俯瞰すると、僕は足を止められた。息を呑むほどの美しい夜景だ。光の海のような姿が一面に広がっている。

「うわぁ」

 声が白く溢れた。人間が作り出した光の星々に、視覚のありがたさを思い知らされる。もう少し先はあるのかと、足を運ぶ。土の坂道に、木で無理に作ったような階段を上り、フェンスの間を抜けて公園に入る。


 遊具やベンチが眠るように設置されている。端に追いやられた滑り台や鉄棒を無視して、近くにある三つのベンチへ向かう。こんな時間にもかかわらず、誰か座っているようだ。有名な場所だったのだろうか。ベンチの前まで行くと、その人は声を出した。

「本当、貴方とは時間を問わずよく会うね」

不思議なほどに、彩音とは約束もせずに会うことが多くなっていた。待ち合わせをしていたわけでもないのに、これほど何かに引き寄せられるように遭遇することがあるのだろうか。


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