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四季を彩るアルビノへ  作者: 夜月 真
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若竹色

 二月の最初の一日目、寒い日が続いている。晴れではあるが、気温は思うように上がってくれない。無駄に早起きをしてしまった土曜の朝、二度寝を諦めて外の空気に触れよう、そう考えて缶コーヒーでも買おうと簡単な服に着替える。玄関から外へ足を踏み出すと、やっぱり止めようかと葛藤するほどの冷気が身を包む。ポケットに手を突っ込んで肩を普段より高い位置に上げてしまう。最寄りの自動販売機へと到着するも、僕は肝心なことに気がつき、きた道に体を向けて戻ろうとする。


「ついてないな、今日は」

 何も持ち歩かないままで出歩いた外の世界は、一層に広く思えた。何も考えず、目的もなく淡々と歩く。肌寒さがあり、体をたまに震わせては次の道を探すように進む。何もない住宅街。ふと現れる空室ありと掲示板に書かれたアパート。いつもとは別の世界線にいるような感触だ。

 東側の山の裏から頭を出し始める陽光が異様な眩しさだった。この時間に、僕は自分自身と向き合うべきじゃないのかと感じる。就活、将来。今年から始めなければならないことに不安が横切る。何をすべきなのか、何になりたいのか、考えても納得できるようなものが出てこない。強いて言うならば、インテリアが好きなのかもしれない。

 不意にあの後ろ姿が目に浮かぶ。どこかに行ってしまいそうな、そんな後ろ姿だ。僕は、あの後ろ姿が好きなのか?

クラクションの楽器みたいな音が僕を襲った。慌てて後退りをすると、目の前を車が通過する。運転手の睨んだ目つきが自分に向けられた。考え事に、周りが見えなくなっていたようだ。


「死ぬところだった……」

 死。その言葉を口にして、突如とした恐怖が時間差で降りかかる。

「死ぬって、どんな感じなんだろ」

 朝日で焼かれたような空を目に、散歩を終えて帰宅した。先日購入したコーヒーミルを箱から取り出し、アンバー色のコーヒー豆を瓶から移し、ゴリゴリと音を立てて回す。コーヒーミルのハンドルの滑りが良くなると、豆が砕き切れたことを教えてくれる。砕かれた豆を引き出しから取り出し、ドリッパーに紙を被せて粉を移す。僅かな香りが、台所にうっすらと広がる。

 お湯を沸かし忘れていたことに気づき、ヤカンに水を入れてガスコンロに火をつける。水の温度が変わるまでの間、昨日届いた彩音からの手紙を広げる。昨晩は読む前に寝てしまったのだ。


『もう一月も終わる。今年のうちの一つが終わろうとしているというのに、そのお知らせを季節は教えてくれないのが少し寂しいね。

 この前貴方が、私の字は綺麗で読みやすいって書いてくれたこと、少し嬉しかった。私は人と話すこともないし、お母さんに認められるために昔は勉強もそれなりにしていたから、字はたくさん書いていたの。まるで文字だけが救いだった人みたいに。

 最近、お花を買ったの。お花と言っても、まだ咲いてはいないけどね。イベリスというお花。何だか、以前あの丘の公園で会った女の子に見えちゃって、幸せを分けて貰えるような気がしたから買っちゃった。ひっそりと開花が楽しみなんだ』

 手紙は二枚目に移る。


『そうだ、貴方に言われた通り最近引っ越そうと思って、貴方の家の近くを探したら、偶然にも団地だけど一部屋空いていたから契約したの。もし引っ越しが終わって、落ち着いたら遊びにでも来てみて。多分、これまでと同じで何もおもてなしはできないけど。

 今月末にでも引っ越さなきゃ。業者って大体いくらなんだろう。お金はかかりそうだけど、環境が変わるのって少しだけ面白そう。じゃあまた、お返事待ってるね』

 僕はスマホの上で指先を滑らせ、友達の(はやて)に連絡を入れる。ヤカンの口先から煙が吐き出され続けていた。お湯が沸いていることにも気づかず、手紙を読むことに没頭していた。

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