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第1話「転移、それは始まり」

 鞘樹(さやき)朔人(さくと)。それが俺の名前だ。身長173cm、体重59kg、趣味は読書─ラノベ─と生物観察。最近は筋トレにハマっている。ちょっと変なやつ扱いされることもあるが、普通の高校生だ。

 強いて非凡なところ挙げるとすれば、「難関大学を目指そう、と自然に思えるくらいの学力」と「所属部活がクイズ研究会」ということくらいだ。そう、ご想像通りの陰キャ君だ。

 幸いなことに顔面偏差値が、上の下にギリギリ食い込めるかどうかくらいなので、女子からは''陰キャだけど割とイける''という謎の評価を貰っている(らしい)。だが、彼女が欲しいとも思わないし、積極的に人とのコミュニケーションをとりたいとも思わない。


 結局はただの''どこにでもいるオタク''なのだ。


 おっといけない。こんな誰ともわからないヤツの自己紹介を長々としていては、(誰がとは言わないが)飽きてしまうだろう。


 俺は高校3年生。つまり受験生だ。今日の日付は10月5日。昼食後、4限までの昼休みのこの時間も、ほとんどのクラスメイトは黙々と、或いは友達同士でワイワイと勉強している。もちろん俺もその''ほとんど''の内に入っている。


 そして、4限の授業が始まる1分前。9割程の人数が席に着いたそのとき───


ガタガタガタッ


 まだ話し声が響いていた教室が揺れ始めて、話し声が一瞬にして静まった。直後誰かの悲鳴が響き、それに感化されてか、先程とは別種の騒がしさが広がっていく。そう、地震だ。それもかなり大きめの。皆、机の下へ潜り込み頭を守る。




「……長いな」


 誰かがそう呟いた。確かに長い。既に2分近くが経っているのではなかろうか。そもそも緊急地震速報も鳴らなかった。少しおかしくないか?


 そんな違和感は次の瞬間吹き飛んだ。より不可思議な事象によって。


 俺が疑問を浮かべるのと同時くらいに揺れが収まり始めたのだが、完全に揺れが無くなったそのとき、教室中が強烈な光に包まれたのだ。


 俺は、真っ白な強い光に目を瞑って、来たる衝撃に備えた。しかし、そんなことは全くの無意味だった。そして、予想だにしない超常現象が、俺とクラスメイトを襲った。


 突然すぎる()()は、あまりにもあっさりと、俺たちを攫って行った。











**************************











 目を開くとそこは森の中だった。


「……は?」


 思わずそんな声が出るのも仕方がないと言うものだ。…………いやいやいやいや!?そんな冷静になっている場合じゃない!どういうことだ。夢か?


ゴンッ


「痛っ」


 俺のささやかなる疑問は、上げた頭を机の裏側にぶつけることで解消された。いや、されてしまった。

 だが、まだ明晰夢、ということにしても良い段階だろう。そんなふうに現実逃避をしつつも確認のために机の下から這い出た。


 周りは360度森。俺がいるのは森の中の少し小高く開けた場所だ。

 目線を下に向けるとたった今隠れていた机、それとさっきまで座っていたイス、そして、筆記用具や参考書などの入っている自分のリュックがある。

 さらに視線を左へ向ける。


「え……ここ、どこ……?」

「いや、俺に聞かれても分からない」


 そこには、俺と全く同じ状況に戸惑う隣の席の赤葉(あかば)さんがいた。


「鞘樹くん………他のみんなはどうしたのよ?」

「うーん、それは俺が聞きたい」

「そ、そう」


 会話が続かない。それはそうだ。会話ができる状況じゃあないし、俺も赤葉さんも会話をする気がないのだから。

 赤葉さんは自分の頬を(つね)ったり、目を瞑って考え込んだりと忙しそうだ。この間に、赤葉さんのことを紹介していこう。


 赤葉(あかば)深紗(みさ)さん。誕生日は確か8月だったから年齢は18歳だと思う。陸上部に所属していて、趣味は料理だ。''こちらの世界(オタク趣味)''に対する造詣も多少あるようなので、アニメや漫画も嗜んではいるのだろう。顔は上の中くらいでかなり美人な方だろう。


 うん、なぜそんなに詳しいのかって?それは赤葉さんが隣の席だから、というのが4割程を占める。赤葉さんが友人と会話をすれば嫌でも耳に入ってくる。

 そして、もう1つの最大の理由は俺が暇だからだ。何故か俺の周りの席はほとんど女子なのだ。コミュ力のある陰キャである俺でも、女子高生と同じ話題を共有するのは無理がある(そんなことはない)。そうなると勉強の合間に一息つこうとすれば、隣の席の赤葉さんの会話に聞き耳をたてる他ない。


 そんな気持ち悪いことを考えている間に、赤葉さんも落ち着いてきたらしい。


「「…………」」


 普段話さないせいか、はたまた状況が状況だからか、目を合わせてもお互いに中々口を開けない。ここはコミュ力上級者の赤葉さんから会話をはじめて欲しいところだ。


「鞘樹くん、あれ、富士山じゃないかしら」


 赤葉さんは俺の期待に応えて、自分から話し始めてくれた。だが、いきなり「富士山」とはなんだ?


「だからあの山、富士山っぽくないって言ってるのよ」


 今度は俺の後方を指さして言い直した。振り返ってその指の先を見ると確かにあった。日本人なら誰でも分かるあの美しい形、そしてその頭を覆う白い雪が。

 かなり大きく見えるから距離で言えば40kmもないのではなかろうか。


「確かに、あれは富士山にしか見えないな。じゃあどういう訳かは分からないけど、ここは山梨県か」

「え、なんでわかるのよ。静岡県かもしれないじゃない」

「えっと、見え方かな。静岡県だったら右側がボコっとしてるはずだし、この距離でこんな森の中ってことは、ここは青木ケ原樹海だと思うから。富士の樹海は山梨県側だよ」

「へえ、貴方もしかして登ったことあるの?」

「登ったことはないけど、クイ研だから知識として知ってるだけだよ」

「ふーん」


 なんか興味無さそうだな。そんなことよりここが富士の樹海だったら不味くないか。方位磁石も使えないというし、スマホのGPS機能や電話が使えるとは思えない。ためしにスマホを開いてみたが案の定だ。


「鞘樹くん、クイ研ならサバイバル技術を駆使して方位が分かったりしないの?」

「方位は分かるけど、地図がないからどこを目指せばいいか分からないんだよ……ね」

「……どうするのよ」











 赤葉さんと話し合った結果、これが仮に現実だった場合、ここでじっとしていても助かる見込みはないので、とりあえず周辺を確認してみることにした。


 机や荷物はそのままにして、迷わない程度に周辺の探索をすること20分。小さめだが、流れのある川を見つけた。水さえあれば数日はもつ。下流を目指せば町、或いは道路を見つけられるかもしれない。そう提案したところ赤葉さんもそう考えていたようで、早速荷物をまとめて出発することになった。


 所持品を確認して、不要なものは捨てていかなければならない。今の持ち物はこんな感じだ。


服装:(俺)ランニングシューズ、ジーンズ、半袖Tシャツ、フード付きパーカー、薄手のウィンドブレーカー (赤葉さん)ランニングシューズ、半袖Tシャツ、陸上部のジャージ(上下)、厚手のウィンドブレーカー

持ち物:リュック(約30L)×2、スマホ×2、筆記用具×2、水筒(1L)(赤葉さん)、弁当箱(プラスチック製)(赤葉さん)、弁当箱(アルミニウム製)(俺)、ポケットティッシュ×5、ビニール袋×3、絆創膏×0.5箱(赤葉さん)、テーピング(赤葉さん)、ノート×6、ファイル×4、グミ(赤葉さん)×1袋


 お互いに確認したのは以上だ。参考書やノートの1部、教科書なんかは、勿体ないがかなり重量があるので諦めた。

 特に心配な不安要素は、食べ物が少ないことと俺の服装だ。一方の赤葉さんは部活のために基本的にいつもジャージだ。それに髪型がポニーテールなのでヘアゴムがある。今の状況だとこれはとても嬉しい。

 あとは、当たり前だが刃物がないのが相当キツそうだ。中学生まではコンパスやハサミを持ち歩いていたのだが、高校では使わないので2人とも持っていなかったのだ。


 だがしかし、そうは言ってもそんなに心配する必要はないと思う。富士山の見え方的に大した距離は歩かないはずだからだ。正直言って参考書等を捨てる必要はなかったと思う。

 

『なんだかんだ言っても、大したことはないだろう』


 ()()()()()()()()()()()()












**************************











 遭難してから今日で1週間だ。


 明らかにおかしい。否、おかしかった。


 1週間前、川に沿って進み始めた。この川は、まっすぐではないものの富士山の方へ向かっていた。ならば1日か2日歩けば、絶対にどこかしらへたどり着くだろうと思っていた。

 しかし、いつまで経っても町はおろか人工物が見つからない。それだけではなく、富士山との距離が一向に縮まらないのだ。1週間前と今で比べても、見た目の大きさが全く変わっていない。


 そもそも、突然、学校の教室から富士の樹海に移動したこと自体意味が分からない。1日目は衝撃のあまり、その辺のことは考えないようにしていた。

 しかし、そんなにさらっと流せるようなことであるはずもなく、この1週間の間に何度も赤葉(あかば)と考えてはみた。


 今日ももう一度、赤葉と話し合った方が良いだろう。因みに呼び方が呼び捨てに変わったのは、赤葉にそう言われたからだ。










 日が傾きかけた夕方、俺たちは夕食を作り始める。


 驚くべきことにここ1週間で食料に困ったことはない。芋類や果物、幼虫や川魚など、食料源は豊富で採集も比較的容易だ。知識が乏しいので新しい食材は、その都度加食性テスト(パッチテスト)をして確かめてノートへとメモした。現状では20種類近くも食料源を見つけている。

 食料を見つけるのが、サバイバルにおいて1番難しいことだと思っていたので、正直拍子抜けだ。


 採れた川魚や芋類を葉っぱで包んで蒸す。それだけの簡単な料理だが、栄養価は高いだろうし素朴な味も中々良いものだ。さすがに調味料が恋しくはなるが。


「ねえ、鞘樹(さやき)、塩だけでもいいから味つける方法知らないの?」


 調味料のことを考えていたら、隣に座る赤葉がそんなことを聞いてきた。


「知ってるっちゃ知ってるけど、詳しくはわからないよ」

「え!ほんと!?教えてよ」


 暇そうに焚き火をツンツンしていた赤葉は、俺の答えを聞くと急にテンションを上げて肩を掴んで揺らしてきた。

 やめろ。頭がグワングワンする。


「俺が知ってるのは岩塩を見つけるか、源泉を見つけるかのどっちかだな」

「源泉ってつまり温泉ってこと!?どこにあるのよ!」

「いや、だから詳しくは知らないよ」

「ええ、なによそれー」


 期待外れの回答に、赤葉は頬を膨らませて再び焚き火をツンツンし始めた。




 それから出来上がった夕食を食べて、しばらく雑談した。今の状況を頭から離すための雑談だ。この雑談が精神衛生を保っていると言っても良い、俺たちにとって大切な時間だ。


 だが今日はこの時間の残りを、現状について考えるために使いたい。できる限り早く、この危険な状況から脱するために。

 食料が安定していると言っても、定住するわけではないのでシェルターのようなものはない。そのため雨が降った日は、火をおこせず食事もできない。もしも、長雨が降るようならば一気に窮地に陥ってしまうだろう。

 だから、この現状は紛れもなく危険なのだ。それはお互い理解しているのだ。しかし、ただでさえ憂鬱な現状、自らそんな絶望的なこと口にしたくない。だからこその()()時間なのだ。


 しかしいつまでもこれでは、いずれ時は訪れてしまうだろう。今がその未来を断ち切るべき時なのだ!


「赤葉、お前と話し合っておきたいことがある」


 意を決して俺は赤葉に声をかけた。

あれ?異世界らしさが皆無....どうか3話までお待ちください!

次話は来週の土曜日午後6時に投稿します。


誤字・脱字等ありましたらご報告ください。

面白そうだと思った方は、是非ブックマークお願いします!

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