ねがいごと、ころしごと
「うぎゃあ! 」
はっと目覚めて起き上がる。
「ここは……公園? 」
俺はペシャンコに潰れた……けど生きている。そして、先ほどモドキと別れたところにいる。時間は19時25分、公園の時計で確認した。俺が倒れてから数分しか経過してない。
「そうだ、速く追いかけねぇと」
モドキが走っていった方へと駆け出す。わざわざ回っていく意味もねぇし、きっとこっちの方だ。たぶん。
ーーーどうした? 何を急ぐ?
は?
「どこだ! どこにいる! 」
ーーーお前の中に決まってんだろ。自分で言ったことも忘れたのか?
「お前マジに俺の中にいるのかよ」
ーーーそれよりなぜ急ぐか。説明を求める。
「ダチが本当に悪魔憑きになったかどうか、確かめに行くんだよ! 」
ーーー悪魔憑きとはなんだ。
「人間が突然暴れだしたり、バケモンになったりする病気! 」
ーーー不思議な病気があるものだな。
おーん、おーん。
また遠吠えが聞こえてきた。だいたい方向が分かった。そっちに向かって走る走る。
ついた先で見たのは、まるで狼のように遠吠えする武と、それを眺め、写真をとるのに夢中なモドキの姿だった。
「マジなのかよ。あれ」
コレジャナイ……コレジャナイ……サガサナキャ……サガサナキャ
ーーーアイツら、このままじゃ飢え死ぬぞ
「え? なんだって? 死ぬ? なんでよ」
ーーー友達を助けたいのなら方法はある。我にそう願えばいい。
「願うだぁ? 願ったって、治るかどーかやんて分かっかよ」
ーーーどうせ治し方も分からんような病気なんだろ? 約束してやる。だから我を我に願え
「それ以外の治し方があるかもしれねぇじゃねぇか! 」
ーーーそんな方法はない。アイツは、お前らの言う悪魔に取り憑かれてる。普通の方法じゃ治せやしないのさ
「?優真君じゃないか。やっと追い付いたのか」
「くっそがぁ! 」
武が四つん這いになって、何処かへと駆け出す。
「どうしたんだ優真君いったい1人で何を」
ーーーさあ、早く!
「……っ! アイツを助けろ! 」
ーーーりょうかいした。それでは借りるぞ。
ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥン。ドゥドゥドゥドゥン!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
……。
「叶えてやるぞ。貴様のその願いをなアァハハハハハハハ! 」
「優真君なのか……? 君はいったい誰なんだ! 」
……。
「っはぁ。気持ちが高ぶってしまった……ぁあ。貴様は邪魔だ。そこで寝ていろ」
「何を!? 」
人が炎に包まれる。その揺らめく炎の色は、黒く汚れた色をしていた。
アイツの瞳に写ったものは、アイツ自身の心を砕き、闇のそこへと誘うだろう。
叫び、そして倒れ込む人間をよそに、俺は同族行く手を遮っていた。
「我は契約により、今からお前殺す。悪く思うな犬 」
「! グルルルルガウウウ! 」
「うるさい。犬の癖に我に歯向かうおうとするか。面白い! ……だが、めんどくさくもある。さっさと切るか」
作られ生まれ、いつの間にか握り込んでいた黒いもやのような刀は、同族を切り裂く。
「ギャウ!? グルルルルウウウ!? 」
切り裂いたところから、何かが溢れ出す。溢れ出したそれらは、当たりに広がり、大きなフィールドになっていく。そして、表せない何かの他に、一匹の青い犬が、体から追い出されるかのように、勢い良く切り口から吹き出る。
そして切り口は何事もなかったかのようにふさがり、そこにはただ寝そべる人間と、呆然としながらも、敵意を向ける同族の姿だった。
「我は今、貴様をソイツの中から引き釣り出した。これで心置きなく貴様を殺せるわけだ」
「グルルルルルル……アオーーーーン!! 」
高く轟く雄叫びが響く。地面から数匹の白い犬が這い出てくる。そのどれもが俺に敵意を向けている。
「連想したな。そう。ここら一体はお前の夢の中……。貴様が想像すればその通りになる、都合の良い世界」
地面を切りつけながらそう語る。切りつけられた地面は、黒く、黒く染まっていく。
「かかってこい……犬ゥ! 」
黒く染まりきった地の上で、
「アオーーーーン!! 」
戦いは始まった。
白い犬共は、ガウガウと鳴きながらかぶりつこうと走る。
俺はその場で切り伏せた。切られた犬は黒く染まり、飛びかかった犬は後ろで静まり、それら全ては下に転がる。
「ガウ……グルルルルルルワオーーーン!! 」
うるさいだけの雄叫びが響き渡る。
「ガルウ!? 」
何も起こらない。それに驚き後退る。
「もう終わりか犬。所詮は威勢が強いだけか」
「グルルルウウウ! ガオオオオオオオン!! 」
怒れる青い犬は、大きくそして巨大な二足歩行の犬の化物へと変貌する。
大きな拳が飛んでくる。俺はそれを切りつける。
拳は、奴の体は黒く染まり、拳から体が溶けていく。
「ワウウウン!? ワウ! ワウ! ワウ! 」
「吠えたところで死ぬ運命は変わらない。死ぬときぐらいは静かにしてろ」
「ワ……カ!? 」
黒い犬が、青い犬の首を噛み千切る。
「どうした。信じられないか? ここからが面白いのに」
わらわらと集まる黒い犬は、青い犬を食い始める。騒ぐ青い犬。暴れる青い犬。だが、声はもう響かない。
「残念だが、ソイツらも、この地面も黒く染まれば、我の世界だ」
さっきの黒く染まった巨大な犬が、黒い犬ごと青い犬を掬い上げた。
そして、よく噛んで飲み込んだ。
「いい夢みろよ。悪夢であるがなぁッハハハハハハハハハ! 」
主を失った夢は弾け飛び、やがて何処かへと消え去っていった。
「終わったか。疲れた。故に我は……寝る! 」
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「ここは……? 」
目を覚まし起き上がった時に見たものは、路上で眠り続けている武とモドキの姿だった。