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暴食人間は救えない

「しかし、あいつに近づくのはあまりにも危険です」

「それには同感。このまま近づいても、粉々に吸い込まれるだけ」

問題はそこなのだ。たとえこの女と協力しようとも、吸い込まれれば粉微塵。んで、その吸引力は離れていても吸い寄せられるほどのもの。どうすりゃいいんだよ。

ヒュゴオオオオオオオオオ!

また辺りを吸い込み始める。一人、二人とまた犠牲が増えていく。どうすればと考える内に風は止み、また塊を吐き出す。衣服、鉄、コンクリート。色んなモノの集合体はビルに衝突し、ビルは倒壊を始める。

「なあ……お前はさ、もし、風で砂利が口に入ったらどーする? 」

「吐き出す」

「もし、それと同じことがアイツに起こってるとしたら? 」

「でも、本当にそうかなんて……」

ヒュゴオオオオオオオ! ングッ!

倒壊したビルは跡形も無く消えていた。ビルまるまるはさすがにキツかったようで、一度吸い込むのを止め、塊にして吐き出していた。

塊は、停車していた車にぶつかり、その衝撃でグッチャグチャになっていた。

「つまりそういうことですか」

「全部アイツのせいにすりゃ、何したって問題ないだろ」

「それは人間らしいんですか」

「人間なんて、サイテーかサイコーの二択しかねぇ。誰かに罪着せるなんて、サイテーの人間らしいじゃねぇか」

「それでいいのなら、お好きにどうぞ」

「お好きにしまぁす! 」

吸い込み始めるその時に、俺は走り出す。

風の勢いを利用して、一気に距離を詰める。

ーーーそんなことをして、吸い込まれないのか?

「近づいたって結局たった一回きりのチャンス、ならさっさと距離詰める! 」

アイツのを中心にできている扇形のえぐれ跡、あれがアイツの間合いだとするなら、あそこが決戦の地だ。

ーーーそうか。それと貴様、忘れているかも知れないが、神の使いに悪夢の炎を使ったらどうなるか、覚えているか。いや、覚えていたら恐竜人間の時に使っていただろうな

吸い込みが止まったのを確認し、一時止まる。

いま突き進んではアイツの残しもの豪速球。残塊の餌食だ。

「それって、前に話してたあれだろ? えーと」

ーーー神の使いは眠らない。もし眠らない者に悪夢を見せれば、その者は目覚めながら悪夢を見る。

「つまり」

ーーー幻覚を見る

手のひらを暴食人間に向ける。

「そーいや炎の射程距離は? 」

ーーーお前次第だ

暴食人間に向けて念じた瞬間、ボウっと燃え上がる。

なんだなんだと辺りを見渡す暴食人間は、何かを見つけた瞬間、そこに向かって残塊を吐き出す。だが、その先にあるのは、1棟のビルだけであった。

そのまま残塊は直撃し、ビルは崩壊し始める。

バラバラと崩れ落ちるビルを見て、暴食人間は、嬉しそうにその瓦礫を吸い込み始めた。

「今のうち! 」

俺は再び距離を詰めるため走り出す。

ーーー何を見せた?

「飯ってのは本来、狩り取る物だ。今、アイツはその体験の最中だ。まあ、全部コンクリート味かガラス味だけどな」

ーーーつまり

「巨大な豚とか牛とか恐竜と戦う夢」

ーーー恐竜は必要か?

「最近みたばっかでイメージしやすいんだよ」

気づけばやつの回りの建物は全壊していた。かわりに俺が前にいる。そして睨み付けられている。ここから一歩でも前にでれば、扇の中だ。

暴食人間は口に残塊を残している。吐き出した瞬間が勝負と時だ。

「……ッペェェェェ! 」

真っ正面から迫るそれを変わす。

次の攻撃に入る前にぶった切る!

扇の中へと入り、悪夢の剣を作りながら駆け抜ける。

1歩1歩が全力で、瞬間を逃せば粉砕消滅、この一瞬で全てが決まる。その時だった。

「まさか二発目!? 」

やつは残していたのだ。先ほどの残塊は、完全なものではなく、完全に吐ききっていなかったのだ。そして、残りの小さな残塊を。今まさに放とうとしていた。

「そんなに俺を殺したいか! 」

「ッペェ」

体に直撃し吹き飛ばされる。倒れる俺を、バカにするように笑っている。勝者の余裕というやつだろうか。

大きさ、そして二発目というのもあって、体が欠損することは無かった。しかし、そんなの誤差だ。やつは吸い込める。俺をチリにできる。詰み……か。

俺を吸い込もうとするその男の胸からは、赤い血が流れている。

笑うその首は、不思議そうに自身の胸を見る。そして、その首は、頭は、槍のひとつきで貫かれた。

槍を抜かれた暴食人間は倒れ、ぴくりとも動かない。

そこに立っていたのは、スーツ姿の女の人。さっきまで会話していた、悪魔対策課の槍女だった。

俺は囮になる気で突っ込んだ。その間に彼女は回り込んだのだ。どんな強力な能力だろうと背後を守れなきゃ完璧とは言えない。そして、俺は最初から助ける気なんて無かった。切れたとしても、どんなヤバいのが出てくるかもわからない。そんなやつ、切ってやる義理はないし、殺した方が速い。

天に昇る魂と、地に転がるゴミと、死を眺める殺し屋と、非情な顔を見る一人の悪魔。

女の視線が俺へと移る。目があった。

「あなたは囮になるのが、人間らしいと思うんですか? 」

俺は鼻で笑いって答えてやった。

「自己犠牲なんて、綺麗で醜い、人間らしさの塊だ」







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