奇怪な登場。突然の出会い。人間として。
「たく……まずいなら来んなってんだ」
投げ込まれた銭を広いながら店主は呟く。
「が、まずいって言ってるわりには全部食ってるし、お代も払ってる……どういうタイプのクレーマーだ? 」
食器を片付けようとした時、すっかりからになった器を見て、ふと思い返して、呟く。
そんな時、背後を歩く者。マズイ、マズイとぶつぶつと、口から漏れる声。店主は、背後から感じる異質な気配に動けなくなるも、恐る恐るゆっくりと動く首を動かし、背後をみたその時、そこには誰も居ず、店の入り口は開いていた。
「な……なんだってんだ一体? って食い逃げかぁ!? 」
そのまま辺りを見渡した店主はある物を目にした。背後を去った何者かが座っていたはずの場所にあったのは、欠けた器の内にあるスマホと、ネタネタした衣服だった。
ーーーーーーー
ーーー先ほどの、形の整った明るい色のエネルギー……あれはなぜあんなにも旨いのだ……だが、あれは
「あれはなんなんだよ」
ーーー光の柱へと向かうエネルギーだ。貴様も前にみただろう?
あー、……例の俺達が向かってるところか。
ーーーそうだ。あの時はわからなかったが、あれはおそらく心のエネルギーの集合体だ
「は!? なんで今更」
ーーー明るい色のエネルギーなんぞ、見たことなかったのだ。仕方ないだろう?
「はぁ……。それで? なんであんなところに集まっていくんだよ」
ーーーおそらく、神の使いの世界へと送っているのだろう。だが、あの色のエネルギーはなぜ、見たことはなかったのだ……?
「そんなことしるわけねぇって。とりあえず、謎はあそこにあるって事だろ? なら何も変わらんよ」
ーーーそれもそうだな
「あのー、すみません」
突然、スーツ姿の女の人に話しかけられた。
「え、あーはい。どうしました?」
「先ほどから見ていたのですが、誰かと話しているのですか? 」
「いや、そんな事は……」
なんだこの人……。
「そんな事はあるはずです。言葉と言葉は繋がっておらず、まるで誰かに返すような事ばかり……」
「気のせいってやつじゃないですか? 」
「あの人を眠らせる力は、何ですか?」
見られている。確実に。
「何かしらの能力を持つ。これは、ある奇病にかかった者の特徴の一つです」
「何が言いたい」
「つまりあなたは人間ではない。悪魔憑き……ですよね? 」
こいつ何なんだ。まさか警察!?
「違うというならば一つ聞かせてください。あんなところとは……あそことはどこの事なのでしょうか? 」
そのまま答えりゃ確実に殺される。なんとか誤魔化さなければ。
「そ、それは……」
その時だった。
「クワセロォォォォォ!! 」
!? 突然響く大きな雄叫び。それは、先程までいた飯屋の方から聞こえてきた。そこには太った男が立っていた。
「ウマイモノ……クワセロォォォォォ!! 」
叫ぶと共に、辺りの物を口に吸い込み始める。ビルを、地面を、柱を、人を、竜巻のような風に捻れ砕け、男の口の中へと消えていく。
距離があるにもかかわらず、俺は風に押され、物理的に男の元へと引き寄せられていく。
「踏ん張ってもダメなのかよ! 」
力強くその場に踏み止まろうとしようとも、ゆっくりと少しずつ進んでいく。そして、ピタリと風が止む。
男はペッ……と口から大きな塊を勢いよく吐き出す。
衣服や構成された塊は、あろうことかこちらへと豪速球のような速さで迫る。
「あぶねぇ! 」
俺はとっさに、スーツの女を庇おうとする。が、彼女にするりとかわされる。
「結構。私は悪魔憑きに守られるほど、非力ではありません。それに……」
それに……?
彼女はどこからか取り出した槍を構える。そして、それを迫りくる豪速球に、勢いよく突き刺す。
突き刺された塊は崩れ、その破片は彼女を避け、後ろへと流れていく。
「この程度の事ができないようじゃ、あの人達のとなりになんて立てません」
敵を鋭く見つめる彼女を見て、たぶん悪魔対策課の人なんだろうなと理解した。
「ビル、電柱、道路、人間……マズイマズイマズイヨォ……もっともっと……この世の全てを腹の中にぃ! 」
「お前、悪魔対策課か」
彼女は答えない。
「最後に聞きます。あなたの正体は、あれと同じですか? 」
直球すぎる質問だった。
「確かに俺は悪魔憑きだ。これは、どうしようもない事実で、俺自身にだってねじ曲げる事はできない」
遅かれ早かれ、俺が悪魔憑きであることは伝わるであろう。だからあえて、正直に答えた。
「けど、悪魔憑きだからって殺される気なんてない。人間として生きることを捨てる気はない」
そして、こう続けた。
「だから今だけ手伝ってやる。人間として、あれを殺す」
「なぜわざわざ答えたのです? それを知って、私があなたを殺さないとでも? 」
「1、警察に顔と能力バレしてる。2、お前の仲間がくるまでに人が死ぬ。この状況で俺を殺すより、協力してさっさとバケモン殺した方が被害は少ない」
「バケモンの言葉は信用できない」
「当然だ。だから好きにすればいい。俺も好きにやらせてもらう。人間としてな」