活動紹介
「と言っても、やっぱり部員は欲しいわね。先輩方が受験勉強のために去年の秋頃にやめてしまったの。流石にいささか寂しいわね。」
「そうですか。」
「………………」
「………………」
二人の間に暫し沈黙が流れる。
「今のは遠巻きに、入部してほしいという私のささやかな願いを伝えたつもりなのだけど……」
「すいません、わかってました。」
なんとなくからかってしまったが、気分を損ねてしまっただろうか。すると先輩は、手に持っていた文庫本を机の上に置いて、
「まあ、説明もなしにいきなり入部しろと言われても無理よね。わかったわ、今からこの文芸部についてはあなたに説明します。」
先輩は居住まいを正して、改めて僕に顔を合わせる。
「この部活は、この学校の設立当初からある伝統のある部活よ。と言っても、年々部員は減少していって今や私一人しかいないという有様なのだけれど……」
確かに、一昔前ならいざ知らず今の高校生は「文芸部に入ろう。」と思う人はあまりいないだろう。最近は、ネット媒体の急速な発達も関係しているのか、若者の読書離れが進んでいるし。
何より、まず「文芸部」と聞くと、どうしてもお堅いイメージを持ってしまう。
さらに言えば、そもそも「活動内容を知らない」といった人も多いだろう。
…………あれ? そういえば僕も文芸部がどんな活動をする部活なのかわからないな…………。中学校には文芸部なんてなかったし。「文芸」っていうくらいだから、多分、本に関係する部活だとは思うんだけど…………。どうなのだろうか。
「我が文芸部の活動は、大きく分けて三つね。会誌の作成、個人の作品の制作、読書。一つずつ説明していくと、まず会誌づくり。これは簡単に言ってしまえば文芸部で作る雑誌ね。あなたの後ろの本棚にも歴代の先輩方のが保管してあるわ。内容や構成はその時々によって変わるけれども、各個人の作ったオリジナル短編小説をいくつか載せたタイプが多いかも。その他にも、詩、俳句、短歌、エッセイなんかで構成されたものもあるわ。」
なるほど。確かにそういった活動には些か興味がある。自分の作った文章を誰かに読んでもらうというのは、少し気恥ずかしい気もするが、楽しそうだ。
しかし、よく考えてみれば、誰がそのへんの高校生の作った会誌など読むだろうか。
せいぜい、部員の友達数人が勧められて読むか、冷やかし目的の生徒が面白半分で読むか、または、よほど暇を持て余した者が暇つぶしに読むか、のどれかな気がするが。
だが、先輩は僕の疑問に気づく由もなく説明を続ける。
「次は、個人の作品の制作ね。自分で作った小説などを、新人賞に応募したり、小説投稿サイトに投稿したりね。これも、ほとんどの人がやっていたみたい。中には在籍中に新人賞を受賞してデビューしたり、もうすでに作家として活動していた人もいるみたい。」
僕も、世の中に小説の投稿サイトや、新人賞なるものがあるのは知識としては知っている。もちろんサイトや新人賞に投稿や応募したことなどないのだが。
「あなたは小説を読んだり書いたりするのかしら。」
「いえ。小説は結構読みますけど、小説を書いたり、ましてや投稿したことなんてありません。」
実を言えば、書こうとしたことならあるのだ。
だがその度に「自分にはどうせ才能がないから」や「誰も読んでくれないだろう」などというネガティブな思考が先行してしまい、一歩を踏み出せないでいる。小説を書くというハードルは意外と高かったりする。
「そう……。あと、三つ目の読書だけど。各個人で好きなときに好きな本を読む。それだけね。」
「あの……、質問いいですか。」
「いいわよ。遠慮なくどうぞ。」
「今言った三つの活動って、曜日ごとに活動がそれぞれ決まってたりするんですか。」
「いいえ。各個人がやりたいことを好きなときに好きなだけしていいわ。何なら学校の宿題とかやってもいいわよ。音を出さなければゲームも許すわ。」
果たしてそれは文芸部と言えるのだろうか。文芸の定義が根本から崩れてしまう。
もしやこの人は、僕を入部させるために嘘をついているのではないのだろうか。そんな考えが一瞬頭をよぎる。
「まあ、ゲームは冗談として。」
冗談なのかい。
「勉強は別に構わないわ。私や先輩もテスト前はよくここを使って勉強していたし。」
確かにそれはいいかもしれない。家は誘惑が多いし、あまり集中できるとは言い難い。
これまでの話を聞く限りあまりこの部活にお堅いイメージは感じない。僕自身本を読むのは好きだし入部してもいいかもしれない。
沢山の作品の中から読んでいただき本当にありがとうございます。創作の励みになりますゆえコメントお願いします。