第1話
山瀬ハルです。プロローグを読んでいない方はそちらからお読み下さい。
今回からは登場人物が増えていきます!
「まだ怒ってんのか?」
振り返るとニタニタと憎たらしい笑顔で話しかけてくる同期がいた。
こいつはニコラス。成績優秀、実技もトップクラス。恐らく首席で卒業するであろう男。おまけに顔がかっこいいとかで女子から騒がれる嫌な奴。
横目で睨みながら「怒ってない」とぶっきらぼうに返事をする。
「嘘つけ!お前は実技しか取り柄がないから、その実技で褒められなくて拗ねてるクセに。」
本当に嫌な奴だ。
入団して2年、今日、俺たちは訓練期間を終了する。そして明日からは一人前の兵士として働くことになる。この訓練期間、人一倍に努力したつもりだった。いや、間違いなくしてきた。元々勉学が苦手だったのもあり、実技では常にトップを取るように、トレーニングも毎日欠かさずにしてきた。結果、実技では常に1位を取り、何度も訓練兵の前でお手本をやらされるほどだった。なのに、なのにだ。俺は一度も教官に褒めてもらったことがなかった。
「ごめんね、アンドレア。」
いつの間に横にいたのかわからないくらい、小さくて存在感のないこいつが、昨日の最終訓練で教官に褒められたのだ。
ミア。小柄で内気な女子。訓練兵の中に女子も少なからずいるが、一番背が小さい。何故か俺とニコラスについてきて、いつもこの3人で行動を共にしている。実技も勉学も、いつも中の下くらいの成績だった。常に自信なさげな様子が、あまり好きではなかった。申し訳なさそうに、顔を覗いてくる。
「別にお前が謝ることじゃないだろ、むしろ褒められてよかったじゃないか」
俺の今できる一番の返しだ。内心は穏やかではない。
「で、でも」
「ミア、もういいって」
急いで遮る。これ以上申し訳なさそうにされると、心にもないことを言いそうだった。
それに気づいたのか、ニコラスが口を挟んだ。いい奴だけど、嫌な奴だ。
「ミア、あの鬼教官に褒めてもらったことはすごいことだし、自信に繋げた方がいい。でも俺たちはそれぞれ違う土俵に立ってるんだ。扱う能力が違えば、実際に果たす役割も違う。ミアは治癒なんだから判断力は必要だろ。逆にアンドレアみたいな猪突猛進型には判断力なんて大して必要ないんだ。」
俺への慰めでもあると、バカでもわかった。
昨日の最終訓練は、教官と実際に対戦するというものだった。教官はもちろん本気ではなかったと思うが、何せ勝ち目がないほどの強さだった。どう攻撃を仕掛けてもカウンターをされる中、俺は途方に暮れていた。そんな中、タッグを組んだニコラス、ミアは冷静だった。ミアは戦闘では前線に向かない分、後ろからの指示には長けていた。ニコラスが教官の隙を作り、俺が後ろから攻撃するというのを繰り返すよう指示したのもミアだ。この攻撃パターンを繰り返すことで、次第に教官が俺の後ろからの攻撃を意識するようになった。そこで俺の後ろからの攻撃と同時に、ニコラスも同時に前から攻撃を仕掛けた。この攻撃は教官には避けられたものの、全訓練兵の中で一番教官を追い詰めたと観戦する他の訓練兵が沸いた。俺も満足した攻撃ができたと思った。あの厳しくて褒めることがないと有名な教官でも、さすがに褒めてくれると思った。しかし、教官の口から出た言葉は俺の期待をあっさり裏切った。
「お前たち2人、ミアがいなけりゃ死んでたな。この訓練兵の中で、ミアが最も判断力があって戦闘に向いている。実戦で連れて行けるのは今の時点ではミアのみだ。」
俺は選択を間違ったのだろうか。
俺たちは、入団と共に3つの能力のうちからひとつを選ばなければならなかった。
1つ目は身体自在の能力。近距離戦に特化しており、一番オーソドックスと言われる能力だ。身体を変幻自在に操ることができ、腕を伸ばしたり、体を大きくしたり、小さくしたり様々なことができる。戦闘では能力を酷使することができればかなり強いとされているが、体力の消耗が激しい。
2つ目は具現の能力。近距離、中距離、遠距離全てに適応できる、安定した戦闘力を持つ能力。武器などを作り出すことができる。しかし、大きなものや丈夫なものを作りだすにはそれなりの体力消費や時間が必要となる。そして何より、頭の中でイメージして作り出すため、頭脳が必要である。
3つ目は治癒の能力である。比較的、戦闘時に前線に立つことを苦手とする者がサポート役として使用する能力である。例えばだが、腕一本失うと治癒に1分程かかるとされている。遠隔操作はできず、基本的には左手をかざして治癒を行う。もちろん、出血が酷ければ治癒は追いつかない。
どの能力を選んでも、能力を受け継いだ者は通常の何倍もの身体能力になる。俺は元々身体能力が高かったこともあり、戦闘時には前線に立ちたいと考えて、身体自在を選んだ。ニコラスは頭も切れるし具現、ミアは前線には向かないから治癒。それぞれの能力のメリット、デメリットなんかを、無い頭を使ってしっかり考えた上で選んだ身体自在だった。後悔はなかったはずが、今更になって教官の言葉が頭をぐるぐると巡っている。どうせ、他の能力にしても褒められることはなかっただろうけど。
「そろそろ式の時間だ、行こうぜ。」
ニコラスの言葉で我に返る。今日、訓練兵を終えた証として卒業式をする。その際に、首席とこの先の配属先が発表される。首席はほぼほぼニコラスで間違いないとして、配属先が問題だ。新人いびりがない班になることだけを祈り、式場に向かった。
「首席は、ニコラス・テイラー。前に。」
長い話を聞いた後、首席の発表が行われた。これには恐らく満場一致だろう。
首席は、配属先が比較的実戦が多い班となる。俺だって実技は1位なんだから、ニコラスと同じような班に配属されればいいけど。ミアみたいな、実戦には向かないやつは、作戦班なんかに回されるんだろうな、と考えてハッとする。そうだ、昨日ミアが一番戦闘に向いてると言われたんだった。また嫌なことを思い出した。
ため息をつきながら前を向くと、ニコラスが嬉しそうに舞台から皆を見下ろしている。ニコラスは凄い。幼い頃から、両親から虐待を受けていたのだ。しかし、家を出たくても自分で働くことができなければ生活のしようがない。だから軍に入ることを決心したのだ。軍に入れば、13歳で家を出ることができる上に、自分で稼ぐことができる。訓練兵は全寮制だから、家に帰る必要もない。入団当時のニコラスは自己肯定感が低い奴だった。けれど、根気強い奴だと思った。毎日、俺のトレーニングについてきたし、勉強も誰よりも遅くまでやる姿を見ていた。努力の上に勝ち取った栄光だ。この100何十人の中の1位。勉学を諦めていた俺にとっては、ニコラスの努力は真似できないものだと思う。
拍手の中、舞台から降りて定位置に戻ってきたニコラスは、俺に向けてウインクをしてきた。女に向けてやれ、と心の中で呟く。
「次は、配属先の発表です。」
きた。不安でありながらも、一番楽しみにしていたことだ。
次々と名前が呼ばれていく。皆が喜んだり、微妙な反応だったり。静かにしてくれ、聞き逃すだろ、と思った瞬間、名前が呼ばれた。
「アンドレア・ジョーンズ、ニコラス・テイラー、ミア・スミス、以上3名は実戦を主とするリズ班。」
「はあ?これからも3人一緒なのか、勘弁してくれ。」
思わず口に出た。ニコラスはまだしも、俺は今、ミアと話すのが億劫なんだ。嫌味でも言ってやろうとニコラスを見ると、なんだか青ざめていた。
「ニコラス?どうした、俺と一緒で活躍できるかが心配なのか?」
ニコラスは前を向いたまま答えた。
「…お前、今ちゃんと聞いてたか?」
「何がだよ?また3人一緒だっただろ。」
「違う、そこじゃなくて、俺たち何班だって?」
ああ、そういえば、メンバーに気を取られて何班か聞くのをすっかり忘れていた。確か、実戦がメインだとかは覚えている。
「何班だったんだ?」
「…リズ班だとよ。」
「リズ班?あんまり聞いたことないところだな、主席と実技トップがいるってのにもっと有名なところに入れるべきだろ。」
やっとこちらを向いたと思ったら、ニコラスはありえないという顔で見てきた。
「バカ、リズ班ってのは、教官の班だよ!」
一瞬思考が止まる。
いや、確かに教官はリズという名前だった。でも、教官は来年からも教官を続けるのが普通だ。ないだろ、いや、あの鬼教官とは無理だ!
「知らないのか、お前。教官は、俺たちが最初で最後の生徒なんだぞ。元々あの人は、軍の中でも最強と呼ばれるほど強いんだ。近年は訓練兵上がりの兵士が実戦で命を落とすことが多いから、教官自ら、2年間だけ兵士としてでなく教官として良い人材を育てるために教官になることを申し出たんだよ。有名な話だぞ!?」
いや、教官が最強だとか知っている部分ももちろんある。でも知らなかったことばかりだ。終わりだ、と頭を抱える。
「逆にラッキーなのかもな。」
何を言い出したのかとニコラスを睨むと、ニコラスは冷汗をかきながらも笑みを浮かべた。
「だって、軍の最強の元で働けるんだぜ、俺たちは期待されてるんだよ。」
そう思うことにしよう。じゃないとやっていけない。あの教官と共に働くなんて、考えただけで吐き気がする。
「ああ、不安しかないがな。」
ニコラスは複雑な笑みを浮かべながら頷いた。式場の天井を仰ぐ。また、ため息が出た。
お読みいただきありがとうございます!
もし誤字脱字などがあればご指摘下さい。皆様に楽しんでいただけるよう頑張ります!




