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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
学生編<<< 卒業マジか >>>
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(終)俺たちのアブソリュート

 国王が振り返った時、氷塊が割れ激しく炎が噴き出した。

「器用な真似をする」

 ディルムは目を細めた。国王は白と黄金の魔法陣の二種類を使い分けるが、これとは別の現象であることは黙っていたほうが良さそうだ。ライカが言わなかったことをわざわざ教えても利益は無い。

 陽翔は立ち上がり、ジェットは何度も頷いている。一翔とは威力が違うが、魔王級の戦い方ができないわけではない。同じ黄金色の魔力であるだけに、魔力は無制限に使用できるようだ。

「殺すことはないでしょう」

 国王は微笑んだ。この気配を感じるのは二度目だ。

「魔王リオール」

「俺の領域がエギスガルドの地下にできたのを傍観したくせに、この仕打ちは酷くありませんか」

「正体を現したな」

「本人は無意識です。俺は壊れて剥がれた魂の欠片のようなもの。誰が壊したかなど言うまでもありませんが、激しい魂の損傷には何度も耐えられません。ごく一時的なものです」

「本人の意向では出現できないのか」

「前回は煉獄魔王にソウルブレイカーで刺された時でした。混乱の合間を縫ってリオールという名前で陛下の前に出ました。とにかく存在を認めてもらいたかっただけです。すみません、マラ族の話は後付けでした」

 国王は王尺を陽翔の鼻先に向けた。

「まとめると、君は調子が良い性格のようだ。人の意見を無視し、自分が思うままに話をして行動する」

 陽翔が満足そうに笑うと国王は呆れた。

「何とも嘘つきの瞳だ。不自由と憤りしか伝わってこない。守るのに必死だな」

 陽翔は小さく頷く。

「籠の鳥であることは承知の上でお願いいたします。自由に羽ばたかせてください」

「まだ抗うか」

「二度も氷漬けは御免です。俺を怒らせないでください」

「詭弁か?」

「俺のいた世界は情報化社会と呼ばれております。たった一枚の真偽すら定かでない写真でも強国の権力者が失墜します。この世で一番恐ろしいものは目に見えないもの。魔法や腕力ではなく情報です」

「初対面に近い相手。大した価値があるとは思えぬ」

 陽翔は指先で黄金色の魔力球を作り出す。その波長は炎から氷に性質を変え、国王のものに近くなっていった。

「魂は肉体に定着するゆえに光や波長は変えられない。だからこそアブソリュート契約は絶対で一人しかできない。魂が壊れてしまうからです。まぁ俺は器用なので、どのような色と形にもなり得る。

 例えば誰かの魔力と波長を合わせて、その魂と記憶に触れることも可能。若輩ゆえに基本的な部分だけですが、それでも面白いことを学びました」

「それがライカに壊された魂が生き延びた理由か。それで余からどのような情報を得たと言うのだ?」

「素直に口にしたら瞬殺でしょう。心を伝ってライカに通報するのと俺が死ぬまでの時間。通報する方が早いし、俺も死にたくありません。ここは取引をしませんか」

「ほう面白いことを言う」

「俺が今殺されるとしても、陛下は呪い殺されます。俺の方が早いです」

「それは難儀」

「長寿ゆえさらに苦しみが増すことでしょう。謎の声や痛みに悩まされ、肉は腐り、眠ることもできずに苦しむ。多くの存在に呪われ、受ける呪いは数を増し続ける。快適な老後とはいえませんね」

「余を脅すとは狂人の沙汰よ」

 国王は人払いをして、謁見の間には二人きりだ。それでも陽翔は笑った。

「狂人でしょうが、俺も死に物狂いでして。陛下が契約してくだされば俺は陛下の名前や記憶を全て忘れます。魔力消費が大きいので、俺自身は数年姿を現わすことはできないでしょう。

 俺の要求は変わりありません。とにかく三年、成長ぶりを見届けていただきたい。服従も誓います。俺の実力に見合った取引だと思いませんか」

「忘れてしまったことをどうやって証明する」

「それは難しいですね。けれど陛下の魔法力は絶対でしょう。御自身が行使しておきながら自信がない、それ自体あり得ないかと。これだけの経験の差で俺は支配下にいます。陛下がそのような抜け道を用意してくださるはずがないし、殺す気になれば三年待たずとも殺せるのですから」

 国王は冷酷な笑みで陽翔の前に立つ。

「一日に二度も契約するとは」

 陽翔はしっかりと目を合わせた。退く気持ちはひとつもない。魔力を上げ、国王の黄金色に近づけた。

「和を以って誓い契約と成す。ジェニナック・フロスト・デジータ。我が友に成り得る者よ。貴殿の名や顔を忘れても絆は絶えず。互いを尊重し、成長の糧とせん」

 片膝をついて一礼し、手を差し伸べた。

「どうかこの手をお取りください」

「我が名は言うことも書くことも能わず。人に晒すことを禁ずる。勇者ハルトの絆の力において契約を結ぶ。黄金の魔力の誓い破るべからず」

 王が焼け焦げた手に触れる。

「シェイク」

 結ばれた手から光が産まれ、糸のように二人に絡みついていく。

「陛下、いつかまたお会いできるのを楽しみにしております」

「凍れ。早く消えろ」

 国王の魔力に圧され、陽翔は死体のように冷えて床に倒れた。国王は去り際にイヴを呼ぶ。

「このまま遠征に参加させろ。二度とエルダールの地を踏ませるな」

 赤い魔法陣が光り、陽翔は溶けるように消えた。


 “  ※   ※   ※


 闇の中に黄金の光が生まれ、流星のように過ぎ去っていく。

「――陽翔!」

 俺は飛び起き、自分の身体を触りまくった。生きているけれど、それどころじゃない。黄金の光が消えて尽きる前に何とかする。

 ――消えるな!

 願うだけではだめだ。俺ができること、捧げられるものは全部あげるから、どうか消えないでくれ。

 ――俺の力を分けてあげたい。俺が陽翔だったらいいのに!


「俺が陽翔だったら……?」

 できるかもしれない。身体はもともと一つであるし、俺たちの違いといえば、自我と、そこから繋がる記憶ぐらいだ。


 目を瞑ると、陽翔の記憶が溢れてくる。

 ――ひとつになろう、陽翔。


 俺が我儘だった。俺が自分と陽翔のことを分けていたのは、陽翔が汚れてしまう気がしたから。でも身体が二人でひとつなら、魂も二人でひとつ。それでいいじゃないか。俺が陽翔になる。優秀な陽翔にとっては迷惑な話だろうけど、消えるのは耐えられない。

 ――これは俺たちのアブソリュート。契約なんて必要ない。俺は陽翔で、陽翔が俺だ。


 黄金色と青白い魔力、どちらも俺のもので、陽翔のものだ。ありがとうは要らない。だって俺自身のことだからな。

 俺の魔力の輝きに、隣にいたアキトが驚いている。

「いきなり何なのだ!」

 驚きも通り越して、怒りだ。それもそのはず、ここはダンジョンのボス部屋で真剣に戦闘中だった。頭三つの蛇に苦戦しているとは聞いていたが。

「たった今、上から落ちてきたぞ」

「空間魔法だろ、もう二度と御免だ」

 俺は剣を抜いた。とっておきの絆の剣リアン。

「この魔王との絆、俺が頂く」

「――はぁ?」

「いいから、下がって。その間に今後の勇者の遠征予定、リストにしておいてくれ。あとドラゴン貸してくれ。今日中に全部片づける」

 アキトの冗談だろ、の馬鹿にした顔はすぐに蒼白になった。俺の一振りで蛇の首が三つ無くなったせいだ。

「早くしろ、俺イラついてんだ」

 強気の笑みでアキトを追い出す。その間に首の切り口から三本の頭が出て、合計9個の頭になった。どうやら魔王の核を狙わないとメデューサの頭みたいになるようだ。蛇だったら蒲焼が美味いのに。

「なぁ陽翔、活け造りにして魔王の核を取り出すだろ。その核をテイミングしたらどうなると思う?」

 “面白いね。魔王たちの魔王だね”

「俺は悪くない。正しい方向に導くだけさ」

 俺たちは死ななかった。それだけで俺たちの勝利だ。

 これからは世界を舞台に、俺の壮大なる悪企みが始まる。これはその第一歩だ。もう笑みしか出ない。

「これで世界は俺のものだ」


 “  ※   ※   ※


 その夜エルダール王宮内で、執政官が走り回る中、ディルムが国王に呼ばれた。

「君の仕業でなければ、誰のせいだと言うのかね」

 ガウンに身を包み、寝酒を嗜もうとしていた時だ。異変を感じ、世界地図を広げた。地図に魔力を送ると、マナの溜まり場を示す光が減っているうえに、残った光のほとんどが青白い。目立つのは極夜の魔王の黒、エルフの村のエメラルドグリーン。煉獄魔王の赤などだ。

「有力な魔王に異変は無いようです。しかしながら魔王を名乗る強者は群雄割拠。無名で強力な魔王が現れるのは、日時を選びません」

「ハルトを放った日に?」

「小太郎が何か事を起こした可能性はあります。息子を奪われた報復でしょうか」

「ハルトはどうしている」

「眠りについています。画像も送られてきていますし報告に嘘はないかと。あれだけの戦いをしたのですから簡単に動けるとは思えません」

「……。」

 魔王の心は魔王にしか分からない。その言葉が国王を悩ませる。

「万が一にハルトがやったとしても、魔王を倒し、強くなることはお認めになられたのですよね? 問題がございましょうか」

「檻から放たれた獣ならば、一目散に自由に駆け、そして縄張り争いをする。大人しく従っているほうが疑わしい」

「イヴの報告では、現地入りした際の魔王は即刻倒したそうです。魔王の核は勢いのあまり破壊してしまったとのことです。その後アキトのドラゴンでいくつかの魔王を撃破してから戻ったとあります。実力があるにしろその程度。懸念されている黄金色の魔力はもう使えないとおっしゃったのは陛下ですよ?」

 国王は苦笑いで地図を投げ捨てた。

 疑念は残る。朝を迎えた星のように、魔王が消えていく。残っている半数の魔王も存在が疑わしい。この青白い光が魔王不在を教えるものではなく、魔王リオールの光であったとしたら、いったいいくつの領域を奪ったのか。

「世界は余のものぞ。監視を怠るな」

 ディルムは一礼し部屋を去る。帰りながら鼻歌まじりに呟いた。

「姫も逃げきれたようだな。絶対などあり得ないのさ」


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