絆と成長
俺は決意した。
二度とこの場所には戻らない。足枷をつけたまま、地下を目指すことにした。魔法を使えない状態で戦うことになる状況はこれからもきっとある。だったら今修行するのが一番いい。
十五歳を過ぎたら、魔王との戦いが待っている。
魔法ナシでも魔王級にならないと絶対に負ける。ジェットが助けに来ないのは、俺ならできると信じているからだ。
俺もやっと巣立ちの時だ。
狩りをしながら、地下へ進んだ。
魔法が使えなくても、怖くても、死の危険に晒されても、もう振り返らない。
一心不乱に剣を振って、ダンジョンのモンスターを食い、ひたすら強くなることだけに専念した。
俺は鳥に縁があるようで、親鳥ともすっかり仲良くなってついてきた。ちょっとした旅の友達ができてうれしい。魔力が無いので支配することはできないが、主張したいことは理解できた。長年テイマーであったし、動物を飼いなれているからだろう。
ところがある日、知能あるモンスターが喋っていたのが理解できた。
驚いた。テイマーとしての能力は完全に失われたと思っていた。こちら側から魔力を使った支配や返答はできないが、相手が何を思っているか理解できる。
それで使える魔法の総点検をした。思い当たる節から、試せることは全部やり、限界に挑戦した。相変わらず攻撃系統はダメだったが、使える魔法があった。主に感覚を高める魔法である。神経を研ぎ澄ませ、身体に魔力を滾らす。
基礎中の基礎である。すると運動神経と反射神経の動きが良くなり、モンスターを狩るのがとても速くなった。
そんな単純なことで、劇的に強くなるなんて!
それはもう、横っ腹が痛くなるぐらい笑った。もともとやる必要がなかったからだが、気づかなかったのがバカみたいだ。
シェヘラザールの手紙から察すると、足枷の効果は魔力の放出や呪文を邪魔するだけのもので、出ないだけで自分から出てくる魔力は体内にある。
ならば集めることは?
貯金も魔力も多い方がお得だ。昔ライカと戦った時に陽翔に魔力を送った時のように、空気中に漂う魔力を吸収してみる。するとライカから植え付けられた魂が発する空虚な衝動が治まった。湖面をボートが滑るように、心の揺れは穏やかで、心地よい。
俺はこの時、長い苦しみから解放されたのだ。
うれしくて、ちょっぴり泣いた。
情緒不安定で魔王に片足を突っ込んだような俺だが、ちゃんと人として、魂のカタチが戻ってきた。荒ぶって、誰かを傷つけること少なくなるだろうと期待する。
魔力吸収を繰り返していると、魔力の置き場に困った。マナはいつも体温のように身体全体にあるものだが、すぐにマンタンになった。違う方法を考える必要がある。
――陽翔はどうしていたんだっけ?
相変わらず返事はないけれど、教えられたように答えが湧いてでてきた。
「あ、そうだよな。マナコアか!」
あまりにも寂しくて、陽翔と会話している気分になる。たぶん陽翔も近くで笑っている。そう願いたいものだ。
陽翔は魔法が上手だ。俺はキャラバン隊にいた頃、練習したが上手にできなかったし、あの頃はやる気もなくて寝てばかりだった。ディスカスに修行をつけてもらうようになって、マナをちゃんと一か所に集めることをやめてしまった。
だから基本からもう一度だ。魔力を身体の中心に向かって集めていく。陽翔が胸の中心にマナコアを作っていたのを思い出し、何度も真似をした。
俺の頭はひとつしかないけれど、みんなが傍にいて、色々と教えてくれた知識のおかげで今がある。しばらく会えないけれど、次に逢った時はちゃんと御礼が言いたい。
それが絆というものだ。
遠く離れても、距離を越えて俺たちは繋がっている。
※ ※ ※
俺はどんどん強くなっているらしい。マナコアが強くなると、存在感だけでモンスターが怯えるようになった。魔法なんてひとつも使えないが、発散されずに溜まり続ける魔力が高エネルギーの塊のように凝縮されていく。
いつしか身体にも変化が起きていた。
魔法で体内の感覚を高めていたが、それすら必要がなくなった。魔力はマナコアから溢れ出て、身体に満ちている。おかげでモンスターのように傷が癒えるのが早くなり、肌も頑丈になった。暗い場所でも困ることもなく、聴覚も鋭くなった。
動物並みどころか、人間の範疇を越えてきた気がする。魔王と戦うつもりだったら、この程度は必要なのだろうが、これで普通の学生生活ができるのかと逆に心配になってくる。
ひょっとして魔力吸収と栄養豊富なモンスターの食べ過ぎで、自分もモンスターになってしまったのかもしれない。そう思って何度も水辺に自分を映して確認したものだ。
ダンジョンに入った時の子供っぽい面影はどこにもなく、ハンターの顔になっていた。伸びた髪は後ろで縛れるほどになったし、身長も10センチは伸びた。モンスターの毛皮でできた装備だと野人のようだ。
「宿屋には程遠いな」
ちゃんとしたベッドが恋しい。フルコースのディナーが懐かしい。ゆったりした食事後の会話の声。窓の明かり……もう遠い記憶の彼方だ。
ひたすら地下を目指し何か月、何年が過ぎたのか分からなくなっていた。
相当な時間ここにいるから、みんな卒業してしまっただろう。俺のことなど遠い昔のことになってしまって、魔の森の行方不明者リストに名前が載っていることだろう。まぁ、それも正解だ。剣を獲得できたとしても、二度と戻れない可能性もある。
それでも実力をつけてから帰る。ダンジョンの扉一枚も破壊できないなら、他の魔王と戦う実力が無いということだ。
――陽翔が一緒なら、もう少し楽しくダンジョン生活できたのにな。
会えない寂しさはあったが、希望は捨てなかった。着実に地下へ進んでいることだけが明るい未来に通じていると信じた。
それでも人間だから、それでもたまに心が折れる。終わりの見えないダンジョンに苦悶し、命からがら逃げおおせて、悔しさに何度も叫んだ。
「絶対ここに宿屋を建ててやるからな! 覚えてろ!」
そうしてすっかり強くなったある日、どうみても立派で、最後の扉だと思える場所に辿り着いた。




