褒賞そして配達
チーム下剋上が優勝し、キンタは多くの脚光を浴びた。祝いの号砲と花火、多くの歓声をあび栄光と勝利の中にいる。
歴代最速でのゴール。ボスを倒した火炎剣に注目が集まっている。キンタが倒したと皆が信じているなかで、ハルトの存在を出すわけにもいかず、真実はうやむやになった。そしてキンタの出自が明らかにされ、RBCを出ることが確定的になった。
一緒にゴールしたはずなのに、スタジアムに移動したのはレギュラーの四人だけであったことに不満を抱きつつも、ハルトが逃げたのは当然のように思えた。最後の別れはタツミが脱落した時点で済ませている。ハルトは最初からこの場所に立つつもりなどなかったのだ。
その後、すぐに勇者の塔で魔力の爆発があり、強い地震でスタジアムはパニックに陥った。魔の森からモンスターが溢れ、校庭や教室が襲われた。その間にも魔の森の一番奥地で青白い大爆発が何度も起き、余震が続く。
RBCの上空にマラ族の仮面をつけた青年が宙に浮いていた。その声は魔力の拡散とともに世界へと広がっていく。
『貴様によって我が一族のほとんどが息絶えた。結界を破壊し森のモンスターを街へ放ってみようぞ』
全てがハルトの計略の上だと知っていたが、モンスターは暴れ狂っていた。キンタたちも学校へ戻り、モンスターと戦いつつ体育館へと避難誘導した。
魔の森向こうでは大破壊が続いている。見たこともないような魔力の渦が空を埋め尽くし、稲光が炸裂する。
シェヘラザールの結界のおかげで、体育館に直撃はしないが、教室やその他の施設は被害が甚大だ。ビリビリと空気が震え、大災害の中で閉じ込められた恐怖は計り知れないものがあった。
数時間後、波が退くようにモンスターが森へ帰り、空が晴れて光が差し込んだ。その時、どれほどほっとしたことか。
「プーの野郎、やりすぎだぞ」
※ ※ ※
学校の修復に多忙な日々がすぎ、あっという間に数日が過ぎた。
キンタはエストワールに呼ばれ、執務室入る。
「見習い候補生 キンタ 入ります」
エストワールは笑って出迎えた。
「公子。まだ見習い候補生のおつもりですか」
「まだ卒業も追放もされておりません。この敷地内にいる間はキンタです。それが約束です」
下剋上チーム4人が壁際に立ち、シェヘラザールとジェットが座っていたが、ここでもハルトの姿が見えない。あの日以来、一度も姿を現していないのだ。
「改めて優勝おめでとう。チーム下剋上の実力、しっかり堪能させていただきましたよ」
「俺は大して活躍していません」
「そのようなことはないそうですよ。少なくとも彼の報告では、混乱状況において、いつでも冷静に対処したとある。リーダーシップと情熱がなければチームは最上階に辿り着けなかったとある。私も同感しました。
そのほかにも優勝報告後の救出活動において、被災者を迅速に体育館へ誘導し、救出部隊を派遣、魔法障壁構築の部隊を作った。作戦指揮において秀でていると感じました」
エストワールは薄い箱を開いた。ビロード状の漆黒の布地に、5つの指輪が輝いている。
「本当はスタジアムで手渡す予定だったものです。メンバーには褒賞を差し上げましょう」
ジェシカ、キンタ、タンク、カエデ、タツミの順で受け取る。
カエデは我慢できずにエストワールに言った。
「私たち七人で戦いました。荷物持ちや世話役がいなかったら良い戦いができませんでした。彼らには何かありませんでしょうか」
エストワールは強請るような眼が揃ったので微笑む。
「ここだけの話ですが、確認したところ松田慈恩という生徒は存在しませんでした。ですが荷物持ちはもう一人おりましたね」
ジェットは笑って言う。
「最劣に相応しいモノを用意してある」
シェヘラザールはキンタに小箱を手渡した。
「これをハルトに渡してください。大事なものなので、今すぐ届けてくださいませんか? 彼は魔の森にいます」
※ ※ ※
門番蛙と戦うのも何度目か。そろそろ蛙語が理解できそうな気がする。
ゲコ! ゲココゲコッコ!(! また来やがったな!)
「ハルトに逢いたい。通してくれ」
軽く頭を踏みつけて、飛び越していく。
ゲコ!(痛)
迷いがなくなると、動きが軽く感じる。
俺も強くなったものだ!
しかし蛙の舌が伸びて、足首を掴み、引き戻される。
「え? あーーーーーーー!」
蛙の大きな口に飲み込まれた。確かに案内されるといえば、その通りだが、これでは誰もが引き受けたくないわけだ。
真っ暗・ジトジト・上下に揺さぶられる。これに耐えながら、一時間ほど経過した。魔の森を楽に抜けられるのは天国だが、この状況は地獄だ。さんざん振り回されて、ぐったりでようやく吐き出されると、不思議な遺跡の前にいた。
足音に振り向いた途端、上から大量の水がかけられた。
「うわ!」
仮面の無いリオールを初めてみたが、殺気もなく優しい顔をしていた。けれど、これはハルトとグルになって、イジメ?
「マジでクッセエんだ! 我慢しろ。地下は密室だからな。匂いが充満したら俺がたまらんのよ」
何度か冷水と嘲笑を浴びたが、移動に疲れて怒る体力も無い。焚火でしばらく温まっていると、コーヒーを渡された。
「ハルトがやり方を教えてくれたんだぞ。あいつのよりは不味いが温まる」
「ありがとうございます」
「この遺跡は空間を安定させるためにあってな。昔からマラ族が閉じ込められていたんだ。千年の間、俺たちは国王との友好を信じて、静かに過ごして来た。この間、お前の親父が攻めてきたせいで壊され、今はハルトの牢獄だ」
「牢獄?」
「そうだ。それで俺は看守だな。今のアイツは野獣だから、機嫌が悪い時には逢わせることができない」
「リオールが魔王なんだろ? 凄かったなぁ、あの魔力!」
「魔王はハルトに決まっているだろ。あれでは足元にも及ばないって分かった。でもハルトはここにいたいんだろ。だからその間は、俺が魔王代理をしてやる。ハルトはマラ族を救った恩人だからな」
「恩人を投獄?」
「仕方ないだろ。ハルトが魔王宣言したおかげで俺たちは、領域と遺跡が守られて助かったが、ハルト自体はダメージが酷い。裏切り者にソードブレイカーで刺されて、狂っちまった」
「裏切り者?」
「慈恩は煉獄魔王のレンだ。裏切られた末に、5年逃げ続けた組織に襲われ、立ち直れないでいる。怒り狂っている時は、立ち会えないし、近づけない。敵も味方も自分が何者かも分からない時がある」
「嘘だろ」
リオールが目頭を熱くして、鼻をすすった。しばらく言葉にならない。
「本当にこれで良かったのかな。結局俺何もしてねぇし……」
キンタは笑う。
「良いに決まっている。プーは後悔してないだろ」
「シェヘラザールは平気な顔をしているが、相当キツイはずだ。大切にしてやりたいのに、こんな僻地の地下深くに押し込めておかなければならないんだからな。
でも正気に戻る時間は増えている。いろんな物を壊してしまうが、それでいてキッチンだけは壊さないんだぜ? 包丁を持っていても武器にすることはないんだ。面白いだろ? 今朝は簡単な朝食を作ってくれた。
前みたいにクソ美味いわけじゃないけど、コーヒーの淹れ方とか、昔旅した時の話とか。少しずつ、あいつなりに元に戻ろうと頑張ってる。だから見舞いに行った時は、ドン引きしないで相手してくれないか?」
キンタは笑う。
「そいつは覚悟が必要だな」
情熱的な瞳で立ち上がる。
「俺がぶん殴って、目を覚まさせてやるーーなんてな?」




