計画と協力
ハルトはキンタの正面に立つと背伸びして頭を撫でた。
「何すんだ、クッソ!」
キンタが睨むとハルトは目を潤ませていた。どこの泣きのスイッチがあっただろうか。今ごろになってクラウドとの別れを惜しむとかあり得ない。
「何だよ、どこか痛いのか?」
ハルトは照れくさそうに笑う。
「嬉しいんだ。だってキンタが良い王になってくれたら、この国を滅ぼさなくて済む」
金色の髪と赤い瞳。マラ族の仮面が見せた昔の王の顔とよく似ている。あの時は絶望したが、これは希望だ。
「これから俺は魔王宣言をする」
「はぁ!?」
「ごめんキンタ、ジータ国王と対決する。下手をすると殺し合いになる」
キンタの顔が引き攣った。
「そうだよな、実の父親だからなぁ」
そういう問題ではない。勝手に泣いたと思ったら、次はとんでもないことを言い出したものだから、理解できない。
「魔王宣言?」
「何度も言わせないでくれ」
キンタは言葉が出ない。そしてジェシカの袖を引っ張る。
「いくら何でも、ハッタリかましすぎじゃないの?」
ハルトは頭を掻いた。どう知恵を絞れば、言葉だけで納得させることができるだろう。
「いつかは対決しなければならないんだよ。それに今の国王はものすごく強いから、キンタが跡を継ぐにしても大変だろ。だから今のうちに暗殺しようかなと思ったんだけど……」
キンタは首を振る。暗殺だなんてとんでもない!
「卒業したくないとか、勇者にならないとか言っていたのに?」
「まぁ、色々と事情はあるんだけどね」
「第一に俺が跡を継ぐって、いつそんなこと言ったんだよ」
「俺も聞いてないけど、それぐらいの覚悟がなければRBCに潜り込んだりしないだろ。それとも何? 本当に居場所を無くしてきちゃったの? まぁ、エストワールは利用価値があるから、キンタを在籍させているんだろう。いざとなれば何とかなるよ! 結構簡単に養子にしてくれるみたいだし!」
キンタは慌てふためいている。
「俺の将来を勝手に決めるな!!」
ハルトは悩んだ。
「そうだよね」
リオールが魔王宣言して、国王が慌てふためいている間に、こっそり暗殺しようなんて不可能ではないが、やはり詰めが甘い。
“兄さん。計画が大きすぎない? しかも大雑把すぎ!”
陽翔の声がして、意見を述べてくれると、嬉しすぎて微笑みが出る。やはり陽翔と一緒は楽しい。
――そうだよな。確実なところで留めておくか。万が一にも戦いになれば手加減できない。いきなり全力勝負だ。
一国を率いているのだから、実力は魔王級以上だろう。軍勢もたくさんいる。本気で戦ったら、自分の一発で数千人の民間人が死ぬし、首都が壊滅する。マナの地下脈が壊れたら、ここは砂漠化していくことだろう。
“焦っちゃだめ! 初めての魔王戦だよ。相手のことを知らないのに戦うのは、あまりにも不利だよ”
――でもリオールにはできる限りのことをしてあげたいんだ。マラ族の存亡もかかっているんだ
「リオールが魔王宣言して、一族を独立させる。彼は王に殺されたマラ族の生き残りだ」
マラ族の仮面をつけた戦士が現れた。恐ろしくもモンスターのように殺気が駄々洩れだ。
※ ※ ※
ハルトはキンタを庇うように立った。
「リオール、やめろ。キンタは何も知らないんだぞ?」
リオールは短剣を抜いた。
「何も知らないから許されるのかよ……やっぱり王族だったんだな」
「無関係な人間を襲うことが正義か?」
「口を出すな。俺は一族を根絶やしにされるとこだった! あの惨劇をお前は見ていないだろう!! 家族を奪われた者の苦しみを味わうがいい!」
キンタはハルトを避け、リオールの前に立つ。
「事情はよく分からないが、国王は俺が死んだだけでは揺らいだりしない。俺は十番目の息子で、国王は俺の名も忘れてしまっている。
俺がここにいるのは、今でも召喚されて犠牲になっている方々のことを知るためで、もし俺が王になれたなら、少しずつでも制度改革していきたいからだ。マラ族というのがどういう団体かは知らないが、国王によって虐げられてきたのは君らだけではない。
諸外国の暗殺者や恨みを持った貴族と君は何が違うんだ?」
返答がないのでキンタはゆっくりと剣を抜いた。
「私怨で殺されるわけにはいかないな。俺はこの国を変えると決めた。重き使命の中に生きてこそ、人の価値は高まるそうだぜ? 燃えるじゃないか」
「国を変えるだと? 見習いの生徒並みの実力でよく言ったものだな」
キンタが剣に炎を纏わせる。いつものように赤い炎であったが、その色と熱は変化した。次第に高熱となり太陽のように眩しい。
ハルトはすぐに手刀でキンタの手を打ち、剣を落とした。
「チームのみんなが燃えちゃうだろ」
キンタは荒々しく息をした。
「悪い。久しぶりで加減が掴めなかったな」
リオールは警戒したが、ハルトは笑う。
「キンタは魔力の質は最高なんだ。問題は圧倒的に魔力量が足りないことなんだよな」
「プーに言われたくない。戦闘力の不足は認めよう。でもそれは政治に関係ない。俺が死んでも、国王は毛ほども感じないが、宮に戻れば俺は国政に参加できる」
「命乞いか」
「いや、協力だ。俺を王にさせてくれ」
「王族に手を貸せと? ふざけるな!」
「現国王を廃位させるのに力が要る。国に根底から揺るがすような衝撃を与え、救われない召喚者や被害者を救うと考えているのは俺だけだ」
「だから俺に神輿を担げと?」
「少なくとも周囲で指を咥えてみているよりは、小さな神輿でも担いで、祭りに参加したらどうだ? 楽しいぜ」
「それはマラ族のためになることだよな?」
「皆のために努力する。それが王の務めだ。俺を利用しろよ、俺も貴様を利用する」
リオールの短剣を握る手が緩んだ。
その時、トコトコとリズが走ってきた。キンタの前に立ち、顔を覗き込んでいる。
「待って~! 今はダメなのよ。大人のお話合いの途中なの~! ほら自己紹介の練習をしましょう!」
追いかけるように、桃色の髪の少女がリズを追ってくる。
リズはキンタをじっと見た。
「ほら、やっぱりそうよ! 絶対ハルトよりいい。眉毛なんて男らしくて最高じゃないの! こっちにしなさいよ」
「もうやめてよ。男は顔じゃないの。ハルトはちょっと子供っぽいだけなのよ」
ハルトは敏感に反応する。
「顔も大事よ。まぁアタシのリオールには敵わないけど」
「リズったらもう。またノロケちゃって」
ハルトは全員の視線が集中するなかで、女子二人に割って入る。
「紹介しよう。友人のシェラとリズだ」
リズは一歩前に出ると、幼いながらもスカートを摘まんで上品に一礼する。
「友人のエリザベート・マルティスです。リズって呼んでください! マラ族出身の聖女見習い(仮)です。そしてこちらが婚約者のリオール・マラバルです。シャイなので仮面をつけていますが、イケメンです。二人合わせて宜しくお願いします。えっと、チーム下剋上でしたよね? ほんとアタシたちにピッタリ!」
リオールが茫然としているとシェヘラザールがハルトに肩を寄せ、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「恋人のシェヘラザールです。ふふ、やだもう。恥ずかしい!!!」
「そう! 聖女は勇者全員の恋人だよね!」
隠れてハルトの背中を殴るシェラの拳よりも、世間の目が痛い。カエデがうわ言のように恋人を連呼している。
「「「シェヘラザール!?」」」
驚きと悲鳴のような興奮状態。カオスだ。混乱の極みだ。
ハルトは頭を抱えた。
――なぁ陽翔、このチーム、いったいどうなるんだ?
“いいんじゃない? 少なくともシェラのおかげでキンタとリオールが喧嘩にならずに済んだよ。あれ天然なの? わざとなのかな”
――陽翔が交代したくないって言う意味、今分かった。もはや計算では追いつかない。トラブル起きたら直感勝負しかできん。
“シェラは行動派だよね。あれ聖女じゃなくて勇者だよ。普通言えないだろ、恋人だってさ?”
――言うなよ、爆弾の直撃受けたのは俺だぞ。
「さて、試練をクリアして優勝しよう。ひと運動したら、豪華ディナーに全員ご招待!」
魔王宣言して、マラ族を独立させるのにキンタにも一役かってもらおう。良い交渉役ができた。作戦は良い方向へ向かっている。




