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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
10 勇者の仮面
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計画と協力

 

 ハルトはキンタの正面に立つと背伸びして頭を撫でた。

「何すんだ、クッソ!」

 キンタが睨むとハルトは目を潤ませていた。どこの泣きのスイッチがあっただろうか。今ごろになってクラウドとの別れを惜しむとかあり得ない。


「何だよ、どこか痛いのか?」

 ハルトは照れくさそうに笑う。


「嬉しいんだ。だってキンタが良い王になってくれたら、この国を滅ぼさなくて済む」

 金色の髪と赤い瞳。マラ族の仮面が見せた昔の王の顔とよく似ている。あの時は絶望したが、これは希望だ。

「これから俺は魔王宣言をする」

「はぁ!?」


「ごめんキンタ、ジータ国王と対決する。下手をすると殺し合いになる」

 キンタの顔が引き攣った。


「そうだよな、実の父親だからなぁ」

 そういう問題ではない。勝手に泣いたと思ったら、次はとんでもないことを言い出したものだから、理解できない。


「魔王宣言?」

「何度も言わせないでくれ」

 キンタは言葉が出ない。そしてジェシカの袖を引っ張る。

「いくら何でも、ハッタリかましすぎじゃないの?」


 ハルトは頭を掻いた。どう知恵を絞れば、言葉だけで納得させることができるだろう。

「いつかは対決しなければならないんだよ。それに今の国王はものすごく強いから、キンタが跡を継ぐにしても大変だろ。だから今のうちに暗殺しようかなと思ったんだけど……」


 キンタは首を振る。暗殺だなんてとんでもない!

「卒業したくないとか、勇者にならないとか言っていたのに?」

「まぁ、色々と事情はあるんだけどね」


「第一に俺が跡を継ぐって、いつそんなこと言ったんだよ」


「俺も聞いてないけど、それぐらいの覚悟がなければRBCに潜り込んだりしないだろ。それとも何? 本当に居場所を無くしてきちゃったの? まぁ、エストワールは利用価値があるから、キンタを在籍させているんだろう。いざとなれば何とかなるよ! 結構簡単に養子にしてくれるみたいだし!」


 キンタは慌てふためいている。

「俺の将来を勝手に決めるな!!」

 ハルトは悩んだ。

「そうだよね」


 リオールが魔王宣言して、国王が慌てふためいている間に、こっそり暗殺しようなんて不可能ではないが、やはり詰めが甘い。


 “兄さん。計画が大きすぎない? しかも大雑把すぎ!”


 陽翔の声がして、意見を述べてくれると、嬉しすぎて微笑みが出る。やはり陽翔と一緒は楽しい。


 ――そうだよな。確実なところで留めておくか。万が一にも戦いになれば手加減できない。いきなり全力勝負だ。


 一国を率いているのだから、実力は魔王級以上だろう。軍勢もたくさんいる。本気で戦ったら、自分の一発で数千人の民間人が死ぬし、首都が壊滅する。マナの地下脈が壊れたら、ここは砂漠化していくことだろう。


 “焦っちゃだめ! 初めての魔王戦だよ。相手のことを知らないのに戦うのは、あまりにも不利だよ”


 ――でもリオールにはできる限りのことをしてあげたいんだ。マラ族の存亡もかかっているんだ


「リオールが魔王宣言して、一族を独立させる。彼は王に殺されたマラ族の生き残りだ」


 マラ族の仮面をつけた戦士が現れた。恐ろしくもモンスターのように殺気が駄々洩れだ。


 ※    ※    ※


 ハルトはキンタを庇うように立った。


「リオール、やめろ。キンタは何も知らないんだぞ?」

 リオールは短剣を抜いた。

「何も知らないから許されるのかよ……やっぱり王族だったんだな」


「無関係な人間を襲うことが正義か?」

「口を出すな。俺は一族を根絶やしにされるとこだった! あの惨劇をお前は見ていないだろう!! 家族を奪われた者の苦しみを味わうがいい!」


 キンタはハルトを避け、リオールの前に立つ。

「事情はよく分からないが、国王は俺が死んだだけでは揺らいだりしない。俺は十番目の息子で、国王は俺の名も忘れてしまっている。


 俺がここにいるのは、今でも召喚されて犠牲になっている方々のことを知るためで、もし俺が王になれたなら、少しずつでも制度改革していきたいからだ。マラ族というのがどういう団体かは知らないが、国王によって虐げられてきたのは君らだけではない。

 諸外国の暗殺者や恨みを持った貴族と君は何が違うんだ?」


 返答がないのでキンタはゆっくりと剣を抜いた。

「私怨で殺されるわけにはいかないな。俺はこの国を変えると決めた。重き使命の中に生きてこそ、人の価値は高まるそうだぜ? 燃えるじゃないか」


「国を変えるだと? 見習いの生徒並みの実力でよく言ったものだな」

 キンタが剣に炎を纏わせる。いつものように赤い炎であったが、その色と熱は変化した。次第に高熱となり太陽のように眩しい。


 ハルトはすぐに手刀でキンタの手を打ち、剣を落とした。

「チームのみんなが燃えちゃうだろ」

 キンタは荒々しく息をした。

「悪い。久しぶりで加減が掴めなかったな」


 リオールは警戒したが、ハルトは笑う。

「キンタは魔力の質は最高なんだ。問題は圧倒的に魔力量が足りないことなんだよな」


「プーに言われたくない。戦闘力の不足は認めよう。でもそれは政治に関係ない。俺が死んでも、国王は毛ほども感じないが、宮に戻れば俺は国政に参加できる」


「命乞いか」

「いや、協力だ。俺を王にさせてくれ」


「王族に手を貸せと? ふざけるな!」

「現国王を廃位させるのに力が要る。国に根底から揺るがすような衝撃を与え、救われない召喚者や被害者を救うと考えているのは俺だけだ」


「だから俺に神輿を担げと?」

「少なくとも周囲で指を咥えてみているよりは、小さな神輿でも担いで、祭りに参加したらどうだ? 楽しいぜ」


「それはマラ族のためになることだよな?」

「皆のために努力する。それが王の務めだ。俺を利用しろよ、俺も貴様を利用する」

 リオールの短剣を握る手が緩んだ。


 その時、トコトコとリズが走ってきた。キンタの前に立ち、顔を覗き込んでいる。


「待って~! 今はダメなのよ。大人のお話合いの途中なの~! ほら自己紹介の練習をしましょう!」

 追いかけるように、桃色の髪の少女がリズを追ってくる。


 リズはキンタをじっと見た。

「ほら、やっぱりそうよ! 絶対ハルトよりいい。眉毛なんて男らしくて最高じゃないの! こっちにしなさいよ」


「もうやめてよ。男は顔じゃないの。ハルトはちょっと子供っぽいだけなのよ」

 ハルトは敏感に反応する。


「顔も大事よ。まぁアタシのリオールには敵わないけど」

「リズったらもう。またノロケちゃって」


 ハルトは全員の視線が集中するなかで、女子二人に割って入る。

「紹介しよう。友人のシェラとリズだ」


 リズは一歩前に出ると、幼いながらもスカートを摘まんで上品に一礼する。

「友人のエリザベート・マルティスです。リズって呼んでください! マラ族出身の聖女見習い(仮)です。そしてこちらが婚約者のリオール・マラバルです。シャイなので仮面をつけていますが、イケメンです。二人合わせて宜しくお願いします。えっと、チーム下剋上でしたよね? ほんとアタシたちにピッタリ!」


 リオールが茫然としているとシェヘラザールがハルトに肩を寄せ、恥ずかしそうに頭を掻いた。

「恋人のシェヘラザールです。ふふ、やだもう。恥ずかしい!!!」


「そう! 聖女は勇者全員の恋人だよね!」

 隠れてハルトの背中を殴るシェラの拳よりも、世間の目が痛い。カエデがうわ言のように恋人を連呼している。


「「「シェヘラザール!?」」」


 驚きと悲鳴のような興奮状態。カオスだ。混乱の極みだ。


 ハルトは頭を抱えた。

 ――なぁ陽翔、このチーム、いったいどうなるんだ? 


 “いいんじゃない? 少なくともシェラのおかげでキンタとリオールが喧嘩にならずに済んだよ。あれ天然なの? わざとなのかな”


 ――陽翔が交代したくないって言う意味、今分かった。もはや計算では追いつかない。トラブル起きたら直感勝負しかできん。


 “シェラは行動派だよね。あれ聖女じゃなくて勇者だよ。普通言えないだろ、恋人だってさ?”

 ――言うなよ、爆弾の直撃受けたのは俺だぞ。



「さて、試練をクリアして優勝しよう。ひと運動したら、豪華ディナーに全員ご招待!」

 魔王宣言して、マラ族を独立させるのにキンタにも一役かってもらおう。良い交渉役ができた。作戦は良い方向へ向かっている。


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