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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
9 愛する人のためにできること
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愛しい人

 一翔はもともとケジメをつける時だと思っていた。

 シェヘラザールに実際に会ったなら、青い髪の聖女との違いがはっきりするだろうと期待している。


 5年前、一翔は青い髪の聖女と契約をした。魂を分け与えることは、多分とても彼女のことを好きになる。彼女を求め続けるだけのことだから大丈夫だと言った。そこまでは何も問題はなかった。


 瀕死だった俺が意識を取り戻すのに、陽翔や聖女が何度も呼びかけてくれた。


 その時の俺は、自分が何者かも分からない漂うだけの意識だった。それが陽翔の声で兄であることを思いだし、聖女の声で励まされると、心が愛に溢れた。俺はすっかり“その人”の虜になっていた。


 たぶん俺という存在は、あの時再構成されたのだ。二人がいなければ生きた心地がしないように、生まれ変わった。


 だから認めたくなかった。どうしてこんなことになったのか理解できない。

 瀕死から目覚めて、青い髪の聖女だと思っていた存在が、シェヘラザールだったなんて人違いも甚だしい。


 俺は混乱した。二人の聖女の違いを見つけられない。


 その時シェヘラザールが“後遺症は大丈夫なの?”と聞いてきた。

 それで悟った。あぁ、これはバグだ。


 陽翔と身体がひとつだから同調している。俺は陽翔と合体?して、陽翔のことがもっと理解できるようになった。陽翔は俺の心を支配するほどにシェヘラザールを愛しているのだ。


 だからバグは消すべきだ。

 なのに、なのに、なのに!! 俺は嘘をつくのが……下手だ。


 口先でどんな言い訳をしたって、この動悸と恋しくて苦しい想いは本物で、陽翔に通じてしまうだろう。どうしよう。どうしたら陽翔を傷つけないでいられる?


 ――陽翔を感じられない。


 シェヘラザールにそう伝えた。時間が欲しかったのだ。

 俺は目覚めたばかりだった。だから冷静にきちんと整理してみれば、二人の違いが分かってスッキリするはずだ。


 俺は陽翔との繋がりを断絶するのは辛い。陽翔が呼びかけてくれるけれど、絶対に返事はしないし、気付かないフリを通した。


 陽翔の切なさが苦しかった。でもこれ以上裏切りたくない。

 その度に罪悪感に悩まされた。たぶん、陽翔は俺が心苦しく思っていることを感じ取ったのだと思う。パタリと問いかけが途絶えた。


 100% 俺が悪い。


 シェヘラザールは心配して、頻繁に仲介してくれる。何度も念話をして陽翔の様子を伝えてくれる。


 ドジでおちゃめ、失敗ばかりしているけれど、諦めが悪くて、いつも一生懸命。そんな子が世界に二人もいた。青い髪の聖女との違いは外見だけ。魂とオーラまで似ていて、まったく違いを見つけられなかった。


 認めるしかなかった。愛しさは、俺の深い部分から滾々と湧いてくる。

 これは同調ではなく本心。


 心の底からシェヘラザールが大好きだ。もちろん、あの青い髪の聖女も……。二人の違いを見つけられない。分からないから、どちらも好きだ。


 三人に対して失礼だ。全てにおいて許されない。

 陽翔と話せば、一瞬で見抜かれる。ものすごく怒るかもしれない。そうなったら、俺たちはどうしようもなくなる。


 破滅だ。

 身体はひとつしかないのに、心がバラバラになるなんて耐えられない。言いようの無い不安と鬱憤が俺をおかしくする。陽翔に嫌われたくないし、喧嘩もしたくない。


 少しでも会話をしたら陽翔のことだから、すぐに察するだろう。陽翔との関わり合いを断ったのはシェヘラザールと二人だけでいたかったからだろうと、問い質されるかもしれない。


 違うと言っても、信じてもらえなかったら?


 全部が言えない。やはり隠すことしかできなかった。


 神に誓ってシェヘラザールと二人だけで仲良くする気はない。いつも用件だけにとどめたけれど、陽翔はどう思っているのか心配だ。


 でも、もう隠すのは無理だ。

 壊れているんだ。俺はどうかしてしまった。


 陽翔に会いたくて限界だ。破滅するかもしれないけれど、隠し続けるのも辛いんだ。

 陽翔の反応は怖いけれど、シェヘラザールのことは何があっても良き友人にとどめるから許してくれ。


 永遠に、永遠に。

 遥かに深い場所から愛おしく思っていても。


 陽翔のためにできることがあるとしたら、この状況を解決すること。そして兄として、シェヘラザールに毅然とした態度でいること。それしか解決の方法はないのだ。


 ※    ※    ※


 ハルトは木彫りの仮面をつけると、シェヘラザールを見た。

「どう? この仮面、貰ったんだ。一番強い証だってさ」


「うん。知っているわ。だけど素顔が見たいな」

「恥ずかしいよ」

「顔を見てちゃんと話したいの」


 窓ガラスいっぱいにシェヘラザールの顔が映っている。一翔は中央の椅子に座り、ゆっくり凭れて、息を吐く。それで精一杯だ。声が震えて愛が洩れてしまいそう。


 シェヘラザールが愛おしすぎて尊すぎる。

 これから陽翔と繋がりたいのに、こんな調子ではダメだ。


 ――もう勘弁してくれよ。


 ハルトがまたの機会にしようとした時、シェヘラザールの声が強く響いた。

「ダメよ」


 一翔は呆気にとられた。以心伝心にしても伝わりすぎる。

「分かるわよ。一翔とアタシには強い絆があるから気持ちがダダ洩れよ! 何を考えているか分からないけど、重要なお話があったんでしょう?」


「やっぱりあとにする」

「え! ウソ。もう終わり!? ダメよ! 何事も先手必勝、チャンスは一回。今を逃したらあとで後悔するわよ!! それで何のことなの?」


 連発銃のような追及に一翔は断念した。

「陽翔に逢いたい。でもその前にききたい。シェラは俺のことどう思っているんだ?」


「お料理上手で優しさもあるけれど、特徴は素直というか、無防備というか。世界一ウソが下手ね!」


 ――性格の評価は要らないよ!

「まぁそれも事実だけれども、そうではなくて、シェヘラザールのなかで俺の立ち位置は友人ってことでいいんだよな?」


「――ゆ・ゆうじん!? 一翔はどうなの。先に答えなさいよ」


「俺のことはダダ洩れなんだろ? シェラが感じた通りだよ」

 シェヘラザールが照れ笑いをするから、冷静さが打ち崩される。


 ――まったくこれだから、もう。また会話不成立。


 一翔はため息が出るのでシェラは苦笑いだ。

「アタシは一翔とこうして会話できて嬉しいよ。今までちゃんと目を見てゆっくり話せる機会がなかったもの。ほら~仮面、はずして」


 甘えた声でおねだりされたら、不可避だ。仮面を外すと、じわじわと耳まで赤くなってしまい、視線を合わせることができない。


「太陽みたい」

 頬が熱いけど、そんなに赤くなってる?

「それは陽翔だろ。あいつのほうが華やかで明るい」


「知らない? 言い伝えではこの国には二つ太陽があるの。どこかにマナの青白い太陽が眠っている。大いなる流れを辿っていけば、一翔もいつか出会えるかもしれないわね」


「俺の冒険は終わったんだ。陽翔とシェラの傍にいて、無事が確認できるならいつまでもここにいる」

「それは困ったわね」


 シェヘラザールは両方の肘をつき、指を組んで小さな顔をのせる。そして小さく微笑んだ。

「脱出するわよ? アタシはね?」


「――!」

 今だって抜け出しているというのに、また!?


「まぁ今は小さいから無理だけど。だから旅に出なさいよ? もう少し成長したらね」


「自分だってちっちゃいくせに」

 指をさして指摘したら、シェヘラザールは両手で胸をおさえた。一翔の好みは大人の女性だけれど、あのナイスバディに成長するには数年かかる。


「外見じゃないよ!」

「分かってるわよ! 一翔の好みぐらい。大人っぽい女の人の方が好きなんでしょう」


「……。そんな話はあとにしてくれよ。もっと大事な話があるんだ」

 一翔は大きく息を漏らした。



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