だらしない兄貴
キャラバン隊での生活は楽しい。あっという間に毎日が過ぎていく。
陽翔は修行と勉学に励む毎日。そして俺は……。
――兄さん、兄さん。もう、一翔! 起きてよ
“あぁ、陽翔。何? 夕メシ作る時間か?”
うすぼんやりとした部屋の明かり。陽翔は読書をしていたようだ。
――夕ご飯なら終わっちゃったよ。いつまで寝ているの? 何度も呼んだのに。交代の時間、終わっちゃうよ。ほら、交代しよう。
陽翔の不安が伝わってくる。俺はだらしない兄貴だ。
“今日はもういい。寝よう”
――ええ? 今まで寝ていたのにまた寝るの? 今日習った魔法理論ノートにまとめておいたから覚えてね。
陽翔が一歩後退するように、気配が消えていく。ふわふわしていた意識が、肉体に戻ると、鉛のように身体が重い。
「――あぁ」
身体と魂の繋がりが深くなると、現状の酷さを感じる。こんなに疲労しているのに、陽翔は気付いていないのか?
――今日も魔力の修行をしたんだな。二日に一回にしてくれよ。
“そんなのんびりしては強くなれないよ。今のうちに強くなっておかないと、いざっていう時大変だよ。この世界には魔法があるんだからさ”
――いざっていう時ねぇ。(来なきゃいいけど)
なるべくのんびり平和に生きていきたい。
それは結局“生ぬるい”
だから陽翔に先を越される。また陽翔は魔法の修行をしている。俺は滝に打たれたように、黄金色のオーラを感じた。その影響で俺はものすごく眠い。
膨大な魔力が身体の中心から溢れだす。
“あ、陽翔、待ってーー”
俺は無意識になっていたようだ。陽翔が無理矢理交代したのがきっかけで目覚めた。もう恰好悪くて苦笑いしか出ない。
“さんざん呼んだのに反応しないんだから、もう心配をかけさせないでよ。独りになったかと思った”
――あぁ、ごめん。陽翔のオーラが心地良いんだよ
“そう? ならいいけど……”
肉体に戻ったら魔力放出後の疲労感が凄い。陽翔はよくこれに耐えたものだ。
――もうちょっと寝ていたかったなぁ……
“もう、兄さんは変わらないなぁ”
「やっぱり向いてないよ俺は」
身体の主導権を得た時でも、気が付いたら寝落ちしている。自分から魔力を使いたいと思うのは、リリーを呼ぶ時ぐらいだ。
魔力に関して実力差が開いてしまったが、二度目の人生も弟が優勢である。こうなると二人のデキの違いは個性ということにしておきたい。転生しても俺は凡人。立派な陽翔を見ているだけで満足できる。
自慢の弟だ。どちらが強いとか争う気はもともと無いし、一つの身体にいるのだから、出来る限り陽翔に行動してもらいたい。たとえそれが俺の存在が無に近くなるものだとしても、この世界に巻き込んだ責任に比べれば、大したことではない。
“一翔、言い訳してサボるのやめて!”
――はいはい。
俺たちはキャラバンで色々なことを学んだ。新しい地を訪ね、この世界のことを知るのはとても楽しい。
「次はどの国へ行くの?」
「南に行って、海を越えてエルフの森に行く。あっちは未開の土地だが可能性もでかい」
「エルフかぁ……まだ逢ったことないや」
出会いと冒険にドキドキする毎日が続いていく。
東は草原の国、ジータ国は経済に恵まれた聖女の国。
西は砂漠の国、アスラケージ国は人獣たちの王国。
北は氷の国、ノースデルタ国は魔王が支配する国。
南はファンタジー要素たっぷりの国だ。エルフの森だけでなく、ドワーフの地下王国。竜が支配する国。いろいろと噂に聞く。
「楽しみだなぁ」
俺の期待をよそに、冒険の旅は突然終わりを迎えるのだった。