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旅の宿屋は最強です  作者: WAKICHI
1 勇者に生まれてしまった
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だらしない兄貴

 キャラバン隊での生活は楽しい。あっという間に毎日が過ぎていく。

 陽翔は修行と勉学に励む毎日。そして俺は……。


 ――兄さん、兄さん。もう、一翔! 起きてよ

 “あぁ、陽翔。何? 夕メシ作る時間か?”


 うすぼんやりとした部屋の明かり。陽翔は読書をしていたようだ。


 ――夕ご飯なら終わっちゃったよ。いつまで寝ているの? 何度も呼んだのに。交代の時間、終わっちゃうよ。ほら、交代しよう。


 陽翔の不安が伝わってくる。俺はだらしない兄貴だ。

 “今日はもういい。寝よう”


 ――ええ? 今まで寝ていたのにまた寝るの? 今日習った魔法理論ノートにまとめておいたから覚えてね。


 陽翔が一歩後退するように、気配が消えていく。ふわふわしていた意識が、肉体に戻ると、鉛のように身体が重い。


「――あぁ」

 身体と魂の繋がりが深くなると、現状の酷さを感じる。こんなに疲労しているのに、陽翔は気付いていないのか?


 ――今日も魔力の修行をしたんだな。二日に一回にしてくれよ。

 “そんなのんびりしては強くなれないよ。今のうちに強くなっておかないと、いざっていう時大変だよ。この世界には魔法があるんだからさ”


 ――いざっていう時ねぇ。(来なきゃいいけど)


 なるべくのんびり平和に生きていきたい。

 それは結局“生ぬるい”


 だから陽翔に先を越される。また陽翔は魔法の修行をしている。俺は滝に打たれたように、黄金色のオーラを感じた。その影響で俺はものすごく眠い。


 膨大な魔力が身体の中心から溢れだす。

 “あ、陽翔、待ってーー”


 俺は無意識になっていたようだ。陽翔が無理矢理交代したのがきっかけで目覚めた。もう恰好悪くて苦笑いしか出ない。


 “さんざん呼んだのに反応しないんだから、もう心配をかけさせないでよ。独りになったかと思った”


 ――あぁ、ごめん。陽翔のオーラが心地良いんだよ

 “そう? ならいいけど……”


 肉体に戻ったら魔力放出後の疲労感が凄い。陽翔はよくこれに耐えたものだ。


 ――もうちょっと寝ていたかったなぁ……

 “もう、兄さんは変わらないなぁ”


「やっぱり向いてないよ俺は」


 身体の主導権を得た時でも、気が付いたら寝落ちしている。自分から魔力を使いたいと思うのは、リリーを呼ぶ時ぐらいだ。


 魔力に関して実力差が開いてしまったが、二度目の人生も弟が優勢である。こうなると二人のデキの違いは個性ということにしておきたい。転生しても俺は凡人。立派な陽翔を見ているだけで満足できる。


 自慢の弟だ。どちらが強いとか争う気はもともと無いし、一つの身体にいるのだから、出来る限り陽翔に行動してもらいたい。たとえそれが俺の存在が無に近くなるものだとしても、この世界に巻き込んだ責任に比べれば、大したことではない。


 “一翔、言い訳してサボるのやめて!”

 ――はいはい。


 俺たちはキャラバンで色々なことを学んだ。新しい地を訪ね、この世界のことを知るのはとても楽しい。


「次はどの国へ行くの?」

「南に行って、海を越えてエルフの森に行く。あっちは未開の土地だが可能性もでかい」

「エルフかぁ……まだ逢ったことないや」


 出会いと冒険にドキドキする毎日が続いていく。


 東は草原の国、ジータ国は経済に恵まれた聖女の国。

 西は砂漠の国、アスラケージ国は人獣たちの王国。

 北は氷の国、ノースデルタ国は魔王が支配する国。


 南はファンタジー要素たっぷりの国だ。エルフの森だけでなく、ドワーフの地下王国。竜が支配する国。いろいろと噂に聞く。


「楽しみだなぁ」

 俺の期待をよそに、冒険の旅は突然終わりを迎えるのだった。



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