仲間づくりと企み
「マラバル家は、マラ族で代々村長をしている。俺はリオール・マラバル。次の村長になる予定だった」
リオールはハルトの仮面を奪うと、じっくり眺める。
「仮面は親父がアブソルティスと戦闘中に無くしたものだ。この仮面を拾ったとしても、村の人間なら恐れ多くて使わない。村の人間以外で、遺跡に出入りできる実力がある子供といえばハルトしか思い当たらない」
「マラ族の村をアブソルティスが襲ったってことだよね。村はどこに?」
リオールは鼻で笑って、床を差す。
「ここだ。神官は遺跡と呼ぶが、マラ族にとってはまだまだ現役、歴史ある施設だぜ? 大規模空間魔法を安定稼働させ、入り口を迷路のようにしているのもそのオマケだ。見ていたぜ。散々迷っていたよな」
ハルトはショックを受けている。
「こんな近くに村があったなんて……ジェット、教えてくれよぉ」
「親父さん、森の管理人だったな、ここにも何度か来たことがある。ダンジョンを探しているとか言っていたな」
「遺跡だけでも大変なのにダンジョンもあるのか! クリアは難しいなぁ」
「俺たちは戦闘民族だから修練の場所として利用しているんだが、軽くクリアしていたぞ。相当な手練れだな」
「マジで強いよ。技術もあるのに、凄く早い。いつもボコボコにされる」
「ハルトが我慢強いのはそれが理由だな」
「まぁね。リオールは誰に習ったの?」
「俺も親父だ。親父は俺の百倍強かった」
「お互い師匠が強いと苦労するよね、いくら戦っても追いつけない気がするんだ」
リオールは沈黙した。
「一人が強いだけでは、村は守れない。案内しよう。生存者がいる」
二人は遺跡の地下へ向かって、歩みはじめる。
ハルトは何も問えなくなった。生存者がいるということは、死者もいる。アブソルティスに襲われて、被害を受けたことは間違いない。
しかしそれがキンタを襲うこととは、まったく繋がりを感じない。キンタがライカの息子だということはあり得ないし、キンタにアブソルティスの刻印は無いと断言できる。それでもリオールはキンタのことを狙っている。
「村は時代とともに農業で暮らしを立てるようになったが、うちは戦闘民族だ。遺跡の中だから戦う敵がモンスターだけになってしまったが、親父は戦士を貫いた。だから戦死はつきもので、ある程度覚悟している。死は人々を守った証で、褒めたたえるのが礼儀だ。
俺の親父は素晴らしい戦士だった。村を守るために剣を取り、戦って散った」
リオールは父親の笑った戦士の仮面を見て極まり、泣き笑いをした。
「親父を誇りに思う。この仮面はハルトにやる。そのとぼけた顔は一番強い戦士の証だが、特別に許すよ。その代わり強くなれ」
リオールは仮面をハルトに託した。
「ハルトは親父の次によく笑うからな」
仮面を受け取ったハルトは笑って言う。
「よく笑って、より強いよ」
「よく言うぜ! 何回も遺跡攻略に失敗してるくせに」
※ ※ ※
リオールの案内で、二人は歩きだした。
遺跡のモンスターはハルトが見たことのない種類ばかりで新鮮だ。後で仲間にするのに最適なのはどれかと迷い、道にも迷う。とてもリオールの案内がなければ進めない道のりだ。
勇者見習いばかりが見てきたせいだろうか。リオールは拳も剣も戦士として熟練されていて、安心感がある。ジェットほどではないが、戦闘のコツを熟知している。
「ねぇ、俺ちょっと急いでいるんだけど……空間魔法でパパッと転移できない?」
「ふざけんな。疲れるだろ。ハルトも戦えよ」
「俺、テイマーだし。年下だもん。先輩は立てるよ」
「俺より強いって言っていたよな!」
そう言いながら、守ってくれるのだ。リオールはやはり優しい。
「初めて見るモンスターだから、相手が何をしてくるか分からないだろ。痛いのも怪我するのも御免だ」
「ああもう。言い訳はいい! 自分の身だけ守ってろ。倒すのは俺がやる」
「ついでに空間魔法のやり方を教えてくれ。できれば今すぐ」
「今すぐ?」
会話の最中でも、モンスターが襲ってきている。ギャオー、ガオーと周囲が騒がしい中で、リオールは短剣を見事に使いこなし、急所を攻めていく。
「おお~! お見事!」
ハルトは飛ぶ肉塊を上手に避けながら拍手する。
「だから、手伝えっての!」
リオールの息が上がってきた。正面には十匹以上がいて、道幅いっぱいで前に進めない。ハルトは肉塊の匂いを嗅いだり突いたりしながら、観察している。
「このモンスターのお肉って食べられる?」
「焼けば美味いよ」
リオールが苦戦している脇で、ハルトは右手から炎を噴出させて肉塊を焼いている。いい感じの焦げ目が出来て、噛むと肉汁たっぷりだ。
「うん。いけるね! 鹿肉に近いなぁ」
「その炎で戦えよ!」
「心臓って2個で合ってる?」
「そうだ。だからすぐ死なない! メンドクサイ!」
「じゃあ、潰すか」
ハルトは困った顔で正面を睨むと、魔力の風が吹き荒れた。バタバタとモンスターが列のまま倒れ、視界が開けた。
リオールは見ていたが、何も見えなかった。
「何したんだ?」
「だから潰したんだよ、心臓を直接。だって切ると肉が傷むじゃん? このお肉、あとで解体するから、あとで俺の家まで送っといてよ」
ハルトは氷魔法で瞬間冷凍している。
「は!? そんなこと誰がするか!」
「なんで? 空間魔法なら、簡単じゃん」
「だから、そうポンポンできないって!」
「シェヘラザールはできるよ?」
「聖女と同じにするなよ。けっこう魔力使うんだぞ」
「ライカだって……空の上で高みの見物していたのに、空間魔法で引きずり降ろされて。思いだしたら、もの凄く悔しくなってきた!」
あの時、ちゃんとライカから逃げきっていれば、キャラバン隊で楽しくやってた!!
「ライカ? 誰だそりゃ。第一に戦闘中に空間魔法? どれだけ早い術式展開しているんだよ」
リオールはブツブツと呟き、ハルトはモンモンと考えていた。
「ライカはやっぱり強いんだな。小太郎ほどではないけど」
リオールは喜々として振り向く。
「コタローって春田小太郎だって言うんだぜ。ドブで拾われた下町の勇者。知っているか?」
「うん。知ってる」
「何だ、けっこうレア情報だったのに。行方不明になって10年か。俺はまだまだ戦えると思っていたのに残念だったなぁ。恰好良かったんだぜ? よく親父と情報を集めて楽しかった。あの後どこに行ったか……」
「今はアスラケージだよ。先週砂サソリの肉が届いたんだ」
酒のツマミにジャーキーが欲しいからといって、キャラバン隊のコースに砂漠を選ぶ男だ。戦闘力は世界一だというが、何を考えているか分からないランクも世界一だ。
「ちょっと待て、ジェットとコタローってもしかして……ジェットが親父だから、コタローとも知り合いなのか!」
「これ以上は秘密だよ。知りたかったら空間魔法、展開して♪ 早く習得したいんだ」
「それは厳しいぞ。何年も勉強が必要だ。それに出発地と到着場所の情報がしっかり把握できていないと死ぬぞ」
ハルトはゾッとする。
「ええ? 今すぐ使えるようになりたいのに! どうにかならない? 正確な術式だけでも教えてくれ……シェヘラザールの指導じゃゼンゼン理解できないんだよ」
「無理! マラ族でもできない人が多いのに。それにハルトは自分がどういう状況なのか、全然分かってないだろ」
「俺の立場?」
「いまから犯行現場に向かうのに、目撃者がいたら、犯人はどうする?」
「とりあえず捕まえる」
「だから俺の邪魔はするな。反抗したら殴るぞ。大人しくしていろ」
ハルトは捕まってしまっている状況なのだと、今になって理解した。
「ええ! リオール、優しすぎるよ」
「褒めても何もでないぞ。でも俺は譲らないからな?」
「分かったよ」
ハルトは考えた結果、甘えた子供のようにリオールの袖を引っ張った。
「じゃあリオール、ずっと俺の傍にいてくれよぉ」
「じゃあって何だ! 条件付きか」
「そうなれば俺が空間魔法使えなくても困らないし! 何よりもリオールは強いよ!」
リオールは褒められて赤面している。
「馬鹿か。捕まえているの俺のほうだぞ。全然、逃げれられるみたいな態度、デカすぎじゃね?」
ハルトは微笑んだ。
「待遇は最善を尽くすよ。落ち着ける空間と温かい食事、安心して暮らせる環境を目指すからさ~」
「無理だな。戦士にはそういうの必要ない」
リオールは断言が早い。少し前までは優しい兄みたいだったのに!
「でもまぁ、村のみんなはそういうの求めてるからな。考えてみるさ」




