勇者の塔 上層入り口
ハルトはジェネシスのメンバーを見つけた。中層を出て広場で休憩をとっており、これから上層の入り口へ向かうところだ。ここから先のモンスターは本当に強く、一般の見習い勇者なら攻略に二日かかる。
ハルトは悩んだ。ジェネシスの戦力は最上階のボスを倒せるほどで、魔の森のモンスターと戦うには必要な戦力だ。ここで魔力の無駄遣いはさせたくない。
タダでは説得には応じないだろう。一撃で実力差を見せつけるしかないなら、潰す相手は一人。ハルトは突進し、その名を呼ぶ。
「クラウド!!」
絶対的に強い、チームの要だ。
クラウドは驚きつつも最初の一撃を辛くも受け止めた。
「誰だ!?」
ジェネシスのメンバーが驚きのあまり硬直している。単独で乗り込んでくるだけの速さと勢いは群を抜いている。
全員が油断していたとはいえ、まったく気配が無かった。マントと仮面で正体不明で不気味だ。
警戒態勢に入ろうとして、ジェネシスが動き始めると声が響く。
『DOWN』
クラウド以外全員が腰砕けだ。床に座り込んだまま動けなくなった。身体が重いし、武器が床に張り付いて取れない。
仮面の男はクスクスと笑っている。少し不気味だ。
「クラウドは見せしめだ。最初の一撃で吹っ飛ばなかったから、もう少し強めでもいけるよな?」
余裕があるなら段階的に上げていくだけだ。
二撃目は短剣の柄で殴り、防具がガラスのように散った。防御もできずにうろたえるクラウドに三撃目を振り下ろし、終わりにできる。しかしこっそり聞きたいことができた。
長剣の間合いを突破し、クラウドの鼻先で仮面が囁く。
「卒業しない方法、俺にも教えてくれよ」
クラウドは整った顔をひどく歪ませた。
「俺だって!!」
諸々の感情が魔力と混ざり合って、とても暗くて危険な色だ。
「――!」
クラウドの視界から仮面が一瞬でズームアウトする。離れた場所で小さく丸くなる姿は不気味で隙が無い。
そして、ゆっくり息を漏らした。
「どうやら図星らしいな。この際だから俺と立場を交換しないか?」
「ふざけたことを言うな。まず仮面を取り、勇者らしく名乗れ!!」
「神官たちも悪だよな。とっくに勇者になれるのに手放ない。――ということは利用されているんだ。自分たちの駒として都合が良いんだろう? 今の実力なら、卒業したら、たちまち世間のヒーローなのに無駄に閉じ込められては、心が腐ってしまうよな。
マグワイアのような汚いヤツは許せない――だから殺したのか?」
ジェネシスのメンバーがクラウドに疑いの目を向けた。
「何のことだ」
「勇者になりたいんだろ? 悪を殺すのも正義だよな?」
「俺は知らん!」
「マグワイアから剣を譲り受けたのは、皆が知っているところだぞ」
クラウドは一瞬、言葉に詰まった。
「工房から剣を受け取るのはいつものことだ。卒業のことも、できるかどうかは神官が決めることだ。俺がどうこうできる問題ではない!」
「卒業したかったら、って誘いがあったんだろ? 何をしろと言われたの? うまい話にのせられて、騙されて激情して殺したんじゃないの?」
「貴様! 侮辱するな」
クラウドが暴発すれば周囲に被害が出る。この先協力してもらいたいなら、ここで退くのも手だ。
「ちゃんと英雄としてRBCを卒業したいだろ? 今、生徒たちを救えば、本当の勇者になれる」
ハルトはクラウドのレギュラーリングを見せびらかす。
「この盗人が!」
「ここでオフして失格させても良いんだが、もう一度戦いたいだろ」
「当然だ。俺もまだ全力ではない」
ハルトはリングを投げ返した。
「ならば協力しろ。下層から魔の森のモンスターが来る。中層以上のチームは逃げ場所がないから、いったんここに集める」
「ここから上はモンスターが強い! 挟み撃ちになってしまうぞ」
「避難が優先だ。チーム同士で戦っている場合ではない。生徒を守れ。よく出来たらご褒美だ。あとでもう一度手合わせしてやるよ」
マントから突き出した手が青白い光を帯び、壁に大穴が開いた。
外の光とともに翡翠色の巨鳥ウィンディアが入ってきて、ジェネシスが戦闘態勢を取ると、ウィンディアも負けずに威嚇するのでハルトは宥めた。
「良い子して。俺の知り合いなんだ。……うん。そうだね、ワイバーンでもいいよ。下まで往復するだけだから。失礼な奴らが多いだろうけど頼むよ。命には代えられない」
暴風と共にウィンディアが去り、仲間を集めて鳴いている。
ジェネシスに向かっては冷たく指示を出す。
「鳥に乗って皆を下に降ろすんだ。分かったか?」
「鳥と話してた」
ジェネシスのメンバーは面食らっている。
「魔の森のモンスター、本当に襲ってきたのか?」
ニワが指をさした。他のチームが続々と集まるが恐怖と混乱で救いをもとめて中層から出てくる。
「ジェネシス! こんなところで休憩している場合じゃない! 見たこともないようなモンスターばっかりくる! 上に逃げろ」
しばらくは多数のワイバーンとウィンディアと生徒でいっぱいで、悲鳴と混乱の中にあったが、塔の下まで運んでくれると分かると、喜びに変わった。
ある程度落ち着きをみせた広場で、クラウドは蒼白になった。
「キンタは無事なのか!?」
ハルトはしばらく考えたが、意図するところが分からない。
クラウドはキンタのことを嫌っているのだと思っていた。チームに入る実力はあったのに、一度も勧誘しなかったし、最劣の自分と試合をさせるなんて、キンタのレベルが低いと公表しているようなものだ。それにチームに入れないために、キンタにわざと怪我を負わせた疑いがある。
――キンタが何なんだ? 俺が監視しているんだから無事に決まっているだろ。でもあいつ……正真正銘の無謀な勇者だからなぁ
キンタはカッとなりやすい。おそらくどんな敵や魔の森のモンスターだろうとも、仲間が危険になれば立ち向かっていくことだろう。
人が集まってきたので、ハルトは上層へ向かうことにした。
キンタのチームがいない。どこへ行ったのかと、クラウドはずっと捜しまわっていた。
固く閉ざされているはずの上層への扉が、少し開いていた。
「――まさか」
クラウドは一人、上層に向かった。単身で乗り込むことがどれだけ危険なことなのかなど承知の上である。




