魔法の修行
小太郎の修行はハイスピードできつくなっていく。
それは何かに追われているかのようでもあった。
陽翔は真面目に修行して成果を上げていた。
もともと理解が早くて真面目だから俺より先にできるのは当然だ。攻撃魔法として完成させた陽翔に対して、俺は焚火と冷蔵庫の代わりになる程度。正直、かなりしょぼい。
魔力コントロールができないのだ。
――出たけど、出すぎだよ! 陽翔、やべぇ消火! 消火! ヤケドする!!
副隊長がコーチになり、女子の応援を受け、陽翔が傍で教えてくれているのに、手から炎が出て前髪が焦げそうだ。
“もっと小さな炎をイメージして。一翔がローストチキンになっちゃうよ”
「ローストチキン。そうか! ロティ……だったらレディールはこれくらいで……」
見る間にコントロールが上手くなっていく。
“お~? 急に上手になった!”
「料理なら火加減は得意だからね。爆発しそうで怖かったけど、強火か弱火だと思ったら怖くなくなったよ。何だ、すごい簡単じゃん!」
“やっぱり兄さんは理屈よりもイメージだね”
――陽翔みたいに考えて剣にまとわせたり、壁作ったりはできないよ。何しろ料理の火加減だからな。
“じゃあさ、大きなガスコンロの中心にいるのをイメージしたら?”
ボン!
一瞬で周囲が火の海になった!
みんな大騒ぎだ。
「ああっテントが燃える」
「キャラバンを壊滅させる気か!」
「副隊長~! 大雨の魔法使ってくださ~い!」
――うわ!? どうしよう! 熱ッ! どうやって止めるんだ? 制御できないよ! 交代してくれ!
“交代か。それも一つの手段だね”
陽翔は完全に炎を扱えている。
「はい、鎮火♪」
すごく恰好イイ。もしかしたら副隊長よりも凄いかも!
“ほら、もう一回!”
陽翔が身体の優先権を譲るけれど、だるすぎる。
――ええ? まだやるのかよ
“魔力の流れを感じるんだ。血液みたいに身体を巡っているよ?”
聖女から勇者の紋章を受けたのは陽翔で、勇者として命名された名前もハルトだ。その恩恵もあるんじゃないのか? 双子だけど才能は平等じゃない。俺には魔法は向いていないみたいだ。
――全然感じない。疲れた!
「お昼にしようよ! 肉が食べた~い!」
空色の大きな荒鷲、リリーが彼方から颯爽と舞い降りた。まだ血のしたたる仕留めたばかりのモンスターを食えと言わんばかりに押し付ける。
「ステイ! 人間は料理しないと食べられないんだってば~」
見学していた副隊長が驚いていた。
「あの倒されたモンスター、カタカタ鳥じゃないかな」
小太郎が昼寝から戻ってきたが帯剣していた。
「一撃で倒したか? そうでないと食えたもんじゃないぞ」
「あの青い鳥どこかで見たような……絵本?」
副隊長が悩んでいると、小太郎がこともなげに言った。
「一昨日、ムカついたから崖からぶん投げたら、あれをペットにして帰ってきたんだ。ああいう才能はあるんだよな」
副隊長はいろいろ聞きたい。
「崖からぶん投げたって自分の息子をでしょ?」
「だって修行しないっていうし?」
「ペットにされたんじゃなくて? 逆に餌やりされていますけど?」
「主の我儘に答えようとする忠義心だろ。俺はリリーが従うと思っていた!」
「何を命がけで試させているんですか! 幼児ですよ! 幼児!! 荒鷲なんだから肉食でしょ! カタカタ鳥を仕留めるぐらいだから、あっさり一呑みされちゃうでしょ!――そうだ、空色っていうことは空の王者と名高い、幻の空帝じゃないですか!」
「そういうが図鑑に想像図がのるだけで、大して強くないぜ」
「そう思っているのは隊長だけですよ。でも食われないで従っているのは不思議ですねぇ」
小太郎はニヤニヤ笑う。
「あいつ全然、気付いてないんだぜ? バカみたいにトモダチってはしゃいでいるから、自覚させなきゃいかん」
小太郎が副隊長を顎で使う。
「オラ、早く支度しろ。お客さんが来ちまうぜ?」
「え? あ、はい?」
副隊長が慌てて杖を出した。
空にゴマ粒をまき散らしたように点が広がり、その数に副隊長が青ざめる。何百いるか分からないカタカタ鳥の群れだ。
「けっこうな数じゃないですか! カタカタ鳥はリベンジ本能が高いんですよ。メンドクサイなぁ」
一翔はリリーに抱きついた。
「あれ……何?」
――陽翔、いやな声がする。あいつら襲ってくる気だ。
“あいつらって? 俺は聞こえないけど?”
小太郎が剣を握っているということは、全滅させる気起きたのだろう。お腹が空いたの一言に、魔力を含ませてしまった。俺のコントロールミスで鳥がたくさん死ぬ。
一翔はリリーの背に乗る。小太郎が腕を掴んだ。
「お前にできんのか?」
高い場所から小太郎を見据える。
「自分のケツぐらい拭ける」
副隊長は唖然としているし、小太郎は笑いだした。
「任せる。失敗したらトレーニングメニュー増やすぞ」
一翔は顔をひくつかせた。それは勘弁してもらいたいものだ。
「じゃあ、成功したら、フレンチメニューちゃんと作らせてね?」
リリーと友達になった時よりは簡単だ。カタカタ鳥は固くて数が多いだけ。リリーのように強くもなければ、早くも飛べない。リリーが味方についているから、さらに怖いものナシだ。
「GO」
リリーが一段と速度をあげ、まっすぐ突っ込む。そして群れの手前で姿がきえた。
「出た! ミラージュ効果」
副隊長は大喜びだ。
出会って間もないが意思の疎通は完璧だ。ただリリーの動きが早すぎて、振り回され、体力が限界だ。右だと分かっていても耐えきれずにあっさり落ちては拾われる。
副隊長はハラハラしながら見守ったが、我慢の限界で杖を構えた。かろうじて浮遊呪文が届くか、届かないかのレベルなのに小太郎が剣でパシリと避けた。
「何しとんですか! あんなにいっぱいいるカタカタ鳥の群れですよ?」
「ボスさえ掌握できれば可能。使役する種族の特性をちゃんと掴んで、無理なく支配や誘導をする。それがテイマーだ」
「え? 息子さんテイマーなんですか? 魔剣士じゃなくて?」
小太郎は含み笑いだ。
「強けりゃどっちだっていい。まぁ、あいつは自覚してないけどな。テイマーっていう単語すら知らんだろう」
副隊長は情けなくなる。
「そういうのは早めに本人に伝えるべきではないですかね」
一翔は群れの中心へ突っ込んでいく。やけに嘴が大きいヤツ。あれがボスだ。一翔は正面に姿を現した。
カタカタ!
威嚇音で集中攻撃の予感。瞳に魔力を集中させると、世界が青白い。
――俺を見ろ。俺を感じろ。そして信じろ、悪いようにはしない。君のためだ!
ボスの威嚇音が止まった。
「俺は命を無駄しない。犠牲になった命は我等の命をつなぐ糧、強者が食するのは世の掟! これ以上の犠牲はまったくもって無意味だ」
周囲のカタカタ鳥がまだ威嚇している。納得できないのは、人間が強いということを認められないから。
じっと待っていた陽翔もソワソワしている。
“口先だけでどうにもならないよ。風魔法はどうかな”
「ダメだよ」
ちょっと脅したくらいでは無駄だ。絶対的な魔力をもって圧倒し、魔獣を支配できるということを証明しなければならない。でも空を埋め尽くすほどのカタカタ鳥だ。これだけの数を従えるのに、どれくらいの魔力が必要だろうか。
――う~ん? やっぱり無理かも。でもフォアグラ禁じられちゃってて、もう我慢できないんだよなぁ!! ここは勝つ!
『俺に従えーーーーッ!』
一翔はリリーから飛び降り、空を翔けた。
それこそ命がけだ。陽翔の悲鳴があがる。
“にいさぁん! 無謀だよぉーー――ッ!”
そうだよ。人間は飛べない。
だから必要なんだ。君が!
ボス鳥へ手を伸ばす。
走れ、届け。俺のもとに――来い!!
「あーー! 落ちた! 息子さんが落ちていきます!」
副隊長は真っ青だ。杖と剣で押し問答している場合ではない。小太郎が視線を送る。副隊長は空に信じられないものを見た。
「あの狂暴なカタカタ鳥が……踊ってる」
カタカタ……。
一番大きな嘴で、カタカタ鳥のボスが鳴いている。カスタネットでリズムを取るように周囲でカタカタ鳥が舞って、一翔の乗ったボス鳥の周囲を旋回している。
――あぁ、平和っていいな。
魔力を思いっきり放出したのと、あまりに夢中になっていたのでボス鳥の背中の上でしばらくグッタリしていた。
そしてリリーが不機嫌だ。
カタカタ鳥の背中から奪うように一翔を掻っ攫い、カタカタ鳥のボスを帰れとばかりに追い立て、蹴散らしていく。
一翔はバイバイと手を振る。カタカタと嘴の返事がきた。
「いつかまた会おうね」
自分が多くのカタカタ鳥を指揮下にいれたということは全くに気付かずにいる一翔であった。




